第190話 俺は目覚めてない!
俺は友達がいないらしい。
「ヨシノさん、私達、友達よね?」
「うん、そうだね。きっとリンもそう思ってるよ」
セーフ!
俺には男友達よりレアな女友達がいる。
「言っておくけど、大学時代にはいたからな。社会人時代がブラックすぎて疎遠になっただけだからな」
そこをよく覚えておけ!
「わかったから。動揺しすぎて沖田君に戻ってるよ」
「ホントなんだからね! ロクに休みもなく、同窓会にも行けなかったからだけなんだからね!」
「ツンデレっぽく悲しいことを言うなよ……ほら、飲みな」
俺は冷やしてもらったビールを飲む。
「いい、ヨシノさん? 幸せっていうのはね? 友達の数じゃないの。金よ、金」
「激しく同意するな」
ヨシノさんがうんうんと頷く。
「たとえ、私が冒険者を辞めたとしてもアイテムを売るルートはあるわ。ギルドに売るルート、クレアに売るルート、そして、このフロンティアのルートよ。つまり私達は勝利が約束されているの」
「さすがは錬金術師。私の見る目は間違っていなかった!」
「そのために今日、明日はこの単純作業を頑張るわよ」
「そうだな……とはいえ、さすがに手が薬草臭くなってきたな」
ヨシノさんが自分の手を嗅ぐ。
「あー、手袋がいるわね。まあ、今日はこの辺にしましょうか」
「何個できた?」
「えーっと、500は超えたと思う」
たまに休憩していたし、そんなもんだと思う。
「明日、1日で終わるか?」
「多分ね。明日も泊まるかは微妙…………」
「せっかくだし、ゆっくりやろうよ。私はフロンティアの食事が気になる」
俺もそこは同意だ。
何日も外泊すると、カエデちゃんが心配するし、寂しがるだろうから控えたいが、2、3日なら大丈夫だろう。
「そうしましょうか……」
「ああ。私は寝る前にもう一度、風呂に入るが、君はどうする?」
「せっかくだし、私も入ろうかな? こんな機会は滅多にないしね」
「じゃあ、そうするか。私は部屋に戻るよ。また明日ね」
ヨシノさんがそう言って、立ち上がった。
「ん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。実は豪華なベッドも楽しみなんだ」
ヨシノさんがキングサイズのベッドを見る。
「まあね。あんなのはホテルくらいにしかないもの」
「子供の頃から憧れてたんだよね」
俺はベッド自体に憧れたよ。
ずっと布団を敷いてたし。
「まあ、ゆっくり休みなさい」
「そうする。じゃあな」
「ええ」
ヨシノさんは手を上げると、部屋から出ていった。
「さて、俺も風呂に入ろ」
俺はヨシノさんが部屋から出ると、ポーション作りで汚した部屋を片付け、部屋を出る。
そして、男用の風呂場に行くと、脱衣所で服を脱いだ。
「しかし、スマホの時計で大体の時間が分かるとはいえ、こうも窓がないと時間の感覚がわからんな……」
時計では夜の11時半となっている。
体感時間ではそんなもんかなーと思うが、外が見えないのは辛い。
「よー、こんな所に住むわ」
俺はすべての服や下着を脱ぎ、全裸になると、風呂に行き、身体や髪を洗った。
そして、湯船に入って、身体を温める。
「あー、気持ちいい……」
この歳になると、風呂が好きになったような気がする。
おっさん臭いかもしれないが、まあ、しゃーない。
俺はひたすら湯に浸かり続け、1日の疲れを癒していく。
すると、脱衣所の方から急に気配を感じた。
「ん?」
俺は脱衣所と浴場をつなぐ扉を見る。
「…………あー、重い」
誰かの声が聞こえる。
扉越しでわかりにくいが、耳をすませばギリギリ聞こえる程度の声量だ。
「…………疲れたから早く寝よ」
誰?
いや、この声は…………アルクか。
あいつがなんで……?
あ、ここ、男用の風呂だわ。
だからあいつが来たんだ……
俺はどうしようかなーと思ったが、今さらどうしようないし、男とはいえ、別にガキに見られてもいいやと思い、特に慌てずに浴槽の縁に肘をおき、扉を注目し続ける。
すると、扉が開き、誰かが浴場に入ってきた。
「………………………………」
「………………………………」
そして、お互いがお互いを見て、時が止まった。
向こうが止まっているのは男風呂にどう見ても女の俺がいるからだろう。
俺が止まった理由はアルクと思っていた人がどう見ても女の子だったからだ。
しかも、裸であり、色々なところが完全に見えている。
「…………ど、どうしてここにいるの?」
俺よりも早く、女の子が再起動した。
「私とヨシノさん以外、誰もいないんだからどっちでも一緒って思ったのよ」
「そ、そうなんだ…………」
俺と女の子の間に気まずさと動揺のいやーな空気が流れている。
「…………入ったら? 寒くない?」
いつまでも裸のままでいると、風邪を引いてしまう。
「そ、そうだね」
女の子はシャワーがある身体を洗うところに行くと、シャワーを流し、身体を洗い始めた。
俺はそんな女の子の後ろ姿をじーっと見ている。
女の子は女性らしい丸みを帯びた身体をしているが、年相応に貧弱だ。
「…………何?」
ガン見しておる俺が気になったであろう女の子が俺の方を振り向いた。
「こっちの世界にもシャワーがあるのね?」
「シャワー? これ?」
女の子が手に持っているシャワーを見る。
「そう。それのことをシャワーって呼んでるの」
「そうなんだ。ぼ、私達は特に名前を付けてない」
ふーん。
どうでもいいけど、僕って言いかけて私に変えたな。
女の子は身体を洗い終えると、俺は入っている湯船に入ってきた。
だが、広い浴槽の隅っこに入り、微妙に距離を開けている。
「………………………………」
「………………………………」
またもや気まずい空気が流れる。
「あなた、アルクに似ているけど、お姉さんか妹さん?」
「…………そうなんだよね! 双子の妹なんだ!」
わかりやすい子だなー。
「名前は何て言うの?」
「え!? 名前…………」
思いつかないんだな。
「アルク。あんた、女の子だったのね?」
「…………うん」
アルクは諦めたようだ。
正直なことを言おう。
俺はちょっとホッとしている。
アルクを見て、かわいい子だなーと思っていたからだ。
あんなにかわいい男の子がいるわけないと思っていた俺は正しかったのだ。
開いてはいけない心理の扉を開いてなくて良かった。
「女の子であることを隠していたわけ?」
「……うん」
だから鎧を着ていたわけか。
夕ご飯を食べる時も鎧だったから変だと思ったが、こういう事情があったわけだ。
「まあ、性別を偽りたいと思う気持ちはわからないでもないけど…………」
俺も偽っているし。
「ちょっと事情があるんだよ……」
まあ、そうだろう。
普通はそんなことをしない。
…………俺は置いておく。
「聞いてもいい?」
「…………後で話すよ」
話してくれるらしい。
「お風呂から上がったら私の部屋にいらっしゃい。お酒かジュースをあげるわ」
「お酒は飲めないからパス。ジュースを飲みたい。君達の世界のジュースが気になる」
リンゴジュースにするか、コーラにするか…………
「あなた、13歳だっけ?」
よく考えたらこの子の身体をガン見したけど、アウトだな。
「そうだよ。君の半分」
俺の中の罪悪感が消えた。
「もう少し食べなさい。大きくなれないわよ……フッ」
俺はアルクの胸を見て、鼻で笑った。
「自分がちょっと大きいからって調子に乗らないでよ」
あんま俺の身体のことを言及すんな。
カエデちゃんが怒るだろ。
「ねえ、なんでここに来たの?」
「ここは僕がいつも入ってるお風呂なんだよ。誰も来ないからね。まさか、男風呂に君がいるとは思わなかったよ」
ヨシノさんと一緒のお風呂に入るわけにはいかないからねー。
「ごめんなさいね」
「いいよ。確認しなかった僕が悪いんだ」
「本当にごめんね…………」
「どうしたのさ?」
俺、男なんだ。
お前の全部を見ちゃったよ……
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