第191話 説明して


 俺とアルクは一緒にお風呂から上がると、脱衣所でタオルで身体を拭いている。

 すると、髪を拭いているアルクが俺の身体をじーっと見てくる。


「何?」


 俺もお前を見たけど、見てくんな。


「スタイルがいいなって思ってさ。それに髪もきれい」


 急にべた褒めしてくんなよ。


「ありがと。でも、ヨシノさんはすごいわよ」


 裸を見たことないけど、服の上からでも十分に想像ができる。


「あー、なんとなくわかるかな…………」


 服越しでも主張してるもんな。


「まあ、あとはポーション風呂やポーションシャンプーのおかげ」

「ポーション風呂!? ポーションシャンプー!? 何それ!?」


 アルクが驚く。


「知らないの? 回復ポーションって汚れを落とす効果もあって、それで身体を洗ったりすると、肌も髪もきれいになるのよ」


 俺がそう言うと、アルクが俺の身体に手を伸ばし、お腹を摘まんできた。


「もっちりしてる」


 お腹はやめーや。

 お腹を触って、その表現だとデブみたいだろ。


「手を触りなさいよ」


 俺はそう言って、手をアルクに差し出す。

 すると、アルクが手を撫でるように触ってきた。


「すごいね。回復ポーションにそんな効果があるなんて知らなかったよ」


 まあ、モンスターがその辺にいる危険な世界で貴重な回復ポーションをそんなことには使えないからだろう。


「それと育毛剤に混ぜると、髪の毛が生えるわよ」

「育毛? いらなくない?」


 アルクは俺の長い髪を見る。


「私じゃないわよ。世の中はハゲや薄毛で悩んでいる男性もいるの。あなたのお父さんは大丈夫そうだけど」


 王様は結構な歳だと思うが、それでも髪は普通にある。

 カツラなら知らん。


「ふーん、まあ、君はポーションをいくらでも作れるからそんな贅沢をできるんだろうね」

「まあね。回復ポーションでラーメンも作ったわ」

「ラーメンが何かはわからないけど、しょうもないことをしたのはわかるよ……」


 まあ、しょうもないのは確かだ。


 俺は身体を拭き終えると、寝巻用のジャージに着替えた。

 アルクもまた、寝間着と思われるシルクっぽい高そうな白いワンピース状の服に着替えている。


「うーん、どう見ても女の子ね」

「まあね」


 アルクは髪がショートだし、男と言い張れば、辛うじて男に見えないこともないが、ついてないことは確認済みだ。


「ところで、ミーアは?」


 一緒じゃないのかな?

 出来たら子供のこいつではなく、ミーアの方を見たかった。


「ミーアは先に寝たよ。僕は仕事があったからちょっと遅れたんだ」


 こんな子供でも仕事があるんだな。

 偉い、偉い。


「ふーん、まあいいわ。では、私の部屋に行きましょうか」

「そうだね」


 俺とアルクは着替え終えると、脱衣所を出る。

 風呂と俺の部屋はそんなに離れておらず、風呂場を出ると、すぐに俺の部屋が見えるのだが、俺の部屋の前にはとある人物が立って待っていた。


「あら、こんな夜更けに何の用? 妾は嫌よ?」


 俺は俺の部屋の前に立っていた王様に冗談交じりに聞いてみる。


「魔女を妾になんかせんわ。国が傾く」


 傾国の美女って言いたいんだな。


「僕が念話で言ったんだよ。バレちゃったって」


 アルクが王様がここにいる理由を教えてくれた。


「便利ねー。まあいいわ。どうぞ、入ってちょうだい」


 俺は王様とアルクを部屋に招き入れると、丸テーブルの所まで行き、座る。


「どうぞ、勝手に座ってちょうだい」


 俺は2人に座るように勧めると、カバンからコップとペットボトルのリンゴジュースを取り出した。

 そして、コップにリンゴジュースを注ぐと、自分用の缶ビールを取り出す。


「王様も何か飲む?」


 俺とアルクが飲み物を飲んでいるのに王様は何もなしだとマズいと思い、聞いてみる。


「お前のそれは何だ?」


 テーブルに座った王様は俺が持っている缶ビールを指差した。


「ビール。お酒ね」

「それがいい」

「ぬるいからあまり美味しくないわよ?」


 冷やすためだけにヨシノさんを呼ぶわけにはいかない。


「どれ、貸してみろ」


 俺は王様がそう言ってきたので、缶ビールを渡す。

 王様は缶ビールを受け取ると、チラッと見て、すぐに俺に返してきた。


「こんなもんか?」


 俺は王様にそう聞かれたので缶ビールを手に取る。


「冷たいわね……」

「魔法だ」


 ヨシノさんと同じ魔法か?

 それにしては一瞬だった。


「早くない? ヨシノさんにやってもらった時はもうちょっと時間がかかったわよ」


 ヨシノさんは数十秒かかった。

 でも、王様は本当に一瞬だった。


「ヨシノは魔法剣士だっただろう? 私は魔法専門だからな」

「ふーん、ありがと。あ、これ、あなたの分」


 俺はカバンからビールをもう一缶取り出し、王様に渡す。

 王様は缶ビールを受け取ると、一瞬、チラッと見ると、缶を開け、ビールを飲みだした。


「ふむ……いけるな」


 どうやら初ビールなのに飲めるらしい。


「苦くないの?」

「まあ、苦いが、問題はない。とはいえ、アルコールが薄いな……」


 まあ、ビールだし。


「それは数を飲むものだからねー」


 あくまでも俺理論である。


「ふむ、まあよい。貴重な異世界の酒だ。堪能させてもらおう」


 発泡酒だし、200円くらいで買えるんだけどね。


「このジュース、美味しいよ」


 アルクもまた、リンゴジュースを飲みだしていた。


「ぬるいでしょ。冷やしてもらいなさい」

「冷やす魔法くらいなら僕にでもできるよ。簡単だし」


 魔法を使えない俺への当てつけか?

 さすがは挑発持ちだわ。


「まあいいわ。で? アルクの事情を聞きましょう」

「まあ待て。その前にお前にこれを渡しておこう」


 王様が手をかざすと、俺の前に布の袋が3つ現れた。


「これは?」

「フワフワ草とキラキラ草とサラサラ草だ。それぞれ300ずつ入っているから頼む」


 つまり強化ポーションを900も作れってことか…………

 多い……


「ねえ? 金はあったの? かなりの量になるわよ?」

「確認したが、問題ない」


 こりゃ、相当の金があるな。

 今、思えば、クーナー遺跡の地下遺跡に金の延べ棒が放置されている理由がよくわかる。

 こっちでは量が採れるし、そこまでの価値がないんだ。


「あるならいいわ。作りましょう」


 明日は大変だな。


「うむ、頼む。お前達もそんなに長居はできんだろうし、最悪はそれを持って帰ってもいいから用意してくれ。作り終えたら鏡で連絡してくれればいい」


 明日中に終わらなかったらそれだな。

 ヨシノさんに手伝ってもらっても間に合うかは微妙だと思う。


「了解。私は暇だから適当に作りましょう。一応、聞くけど、今後もこれらを買う予定ってことでいい? 在庫を準備しておきたいし」

「そうだな。欲しいのは回復ポーション、強化ポーション、キュアポーションがメインだ」


 強化ポーションはキラキラ塗料問題があるし、数は作れないが、回復ポーションとキュアポーションはいくらでも作れる。

 薬草なんかは供給過多だからいくらでも手に入るのだ。


「わかった。暇な時に作っておくわ」

「頼む」


 とんでもない商売相手を見つけてしまったな。


「では、商売の話は終わり。本題に入りましょう。アルクは女の子ということでいい?」


 どう見ても女の子だったが、敢えて確認をする。


「そうだ。この子は女だ」


 王様がはっきりと断言をした。


「どうして性別を偽っているの?」

「理由は2つある。ひとつは私の子がこの子しかいないことだ」


 王様って嫁さんや子供がいっぱいいるイメージがあるが、1人なのか……


「一人っ子? 意外ね。普通は世継ぎ候補をもっと作らない?」


 予備と言ったら悪いが、もしものために作っておくものだろう。


「この話をするためにはあれも話さないといけないな…………」


 あれ?


「あれって? 聞いたらマズいなら聞かないわよ」

「いや、聞いてくれ」


 面倒ごとじゃありませんように。


「実はな、私の子はもっといた」


 いた……

 過去形だ。


「その子たちは?」

「死んだ」


 やっぱりか……

 正直、子供が死ぬ話は聞きたくなかった。


「なんで亡くなったの?」

「病気だな」

「流行り病か何か?」


 もしかして、やばい病原菌がいたりしないよな?


「いや、ごくごく普通の風邪だ」

「はい? 風邪なら薬飲んで寝なさいよ」

「薬がないんだ」


 え?


「薬がない? そういう国?」

「この世界は一度滅び、失われた技術が多いと言っただろう。薬もその一つだ。昔は風邪なんかで死ぬ者はいなかった。だが、崩壊以降は風邪をこじらせて死ぬケースが劇的に増えた」


 まあ、風邪が悪化すれば、肺炎とかも引き起こすだろう。


「医者は何してんの?」

「失われた技術の1つに医学もあるんだ」


 マジかよ……

 この世界って、思ったより遥かにヤバいじゃん。

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