第189話 あれれのれ?
食事を終えた俺達はアルクに泊まる部屋の前に送ってもらった。
「明日の朝、朝食ができましたらお呼びいたします。その前にモーニングコールは必要でしょうか?」
部屋の前でミーアが聞いてくる。
「スマホのアラームを使うから大丈夫」
「私もそれがある」
アラームは電波が入らなくても使えるだろう。
「左様ですか。では、朝食時に」
ミーアが俺とヨシノさんに向かって頭を下げた。
「明日は? 私はとりあえず、ポーションを作っていればいい?」
俺はアルクに明日の予定を聞いてみる。
「そうだね。陛下が材料や金の在庫を確認しているからちょっと待ってよ。何かあれば呼んでくれればいいからさ」
「わかったわ。しかし、そうなると、明日はこの部屋で缶詰か…………窓がないから息が詰まるのよね。あなた達は大丈夫なの?」
「もう慣れたよ」
嫌な慣れだわ。
「塔みたいなのを作ってそこに住めば?」
それならば襲撃はないだろう。
「嫌だよ。高いところは怖い」
ガキか。
…………いや、ガキだったわ。
「鉄格子の窓を作るっていうのはどうだ?」
ヨシノさんが提案する。
この人も窓がないのが嫌なんだ。
「ごめん。正直に言うよ。ここって地面の下なんだよ」
地面の下……
「クーナー遺跡にある地下遺跡みたいなもの?」
「あー、あそこにもあるね。そんな感じ」
「王族だから?」
「王族だから」
警戒しすぎでは?
「あんたらってそんなに命を狙われてるの?」
「今はそんな感じじゃないんだけどね。昔の名残だよ」
昔は危険だったってことか……
「あなた達も大変ねー」
「まあね。でもまあ、それが王族なんだよ」
王族に生まれなくて良かった。
「私、実はフロンティアのお姫様説があるのよね」
俺がそう言うと、アルクがめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「……何よ?」
「その場合、君が僕の姉になっちゃうじゃん。嫌だよ」
そんなに嫌か?
「私もモグラのお姫様なんか嫌よ」
「モグラ?」
「地面にいる動物」
「へー。そんなのいるんだ」
さっきのステーキのグランザといい、モンスターがいるから生態系が違うんだろうなー。
「色んな変な動物がいるわよ」
「ホントに違う世界なんだね。人はあんまり変わらないけど」
そういやそうだな。
「あなた達って変な生態はない? 実は尻尾が生えてるとか」
「生えてないよ。というか、変って言われても困る。何が変なのかわかんないし」
「まあね。一応、聞いておくけど、人を食べる文化はないわよね? 私達を太らせて食べる気じゃないわよね?」
「ないよ。あってもそんなことをするのはそれこそ魔女だよ…………言っておくけど、僕は美味しくないからね」
お前なんか食べんわ。
「じゃあ、いいわ。あと、夜這いもやめてね」
「夜這い?」
アルクが首を傾げた。
夜這いを知らない?
そういう言葉がないのか?
「男性が女性を…………」
俺がそこまで言いかけると、アルクの後ろにいるミーアが首を横に振った。
「いえ、なんでもないわ。私はポーション作りに入る」
「え? 気になるんだけど」
「また今度、教えてあげるわ」
今度、エロ本を持ってきてやろ。
「気になるなー。まあでも、ポーション作りを邪魔できないか…………じゃあ、今日はここまでだね。おやすみ」
「はい、おやすみなさい。いい夢を見なさいね」
俺はアルクの頭を撫でた。
「お姉ちゃんぶるなよ……」
アルクはそう言うと、ミーアと共に消えていった。
「私も転移魔法が欲しいなー」
転移魔法があればエレノアさんの行動も楽になる。
「運動しなくなりそうだな」
確かに……
「あなたはこれからどうする?」
「寝るには早いし、ポーション作りを手伝うよ」
「ありがと」
俺とヨシノさんはそのまま俺の部屋に入ると、ポーション作りを再開した。
「何か飲む?」
俺はポーションを作りながら自分用の缶ビールを取り出すと、ヨシノさんに聞いてみる。
「飲むのか……ジュースないか? 私は下戸なんだ」
だったね。
「リンゴジュースでいい?」
「それがいい」
俺はカバンからペットボトルのリンゴジュースを取り出し、ヨシノさんに渡す。
「ぬるいな……」
「仕方がないでしょ。うーん、今度から保冷用のバッグにでも入れてこようかしら? ビールが不味い」
一口飲んでみたが、ぬるいビールってひどいな。
常温で飲める日本酒とかにすれば良かった。
「貸してみろ」
ヨシノさんが手を伸ばしてきたため、缶ビールを渡す。
すると、ヨシノさんが缶ビールを握ったまま、缶ビールをじーっと見始めた。
「何してんの?」
「まあ、待て」
ヨシノさんは俺を制すると、缶ビールを握ったまま動かない。
そのまま数十秒が経つと、ヨシノさんが俺に缶ビールを返してきた。
「ほれ」
「いや、マジで何なのよ…………え? 冷たい!」
受け取った缶ビールは冷蔵庫から出したみたいに冷えていた。
「すごいだろう? これが魔法だ」
「すごーい。初めてヨシノさんの良いところを見つけた」
内面の話ね。
見た目は美人だし、おっぱいもでかい。
「君、ホントにひどいな」
「いや、ホントにすごいわ。ビールが美味しい」
やっぱりビールは冷えてないと。
「まあ、喜んでもらえたならいいか」
「あ、おかわりもよろしく」
俺はカバンから缶ビールを取り出した。
「君って、どれくらい飲むの?」
「大丈夫。そんなに飲まないから。おねがーい」
「上目づかいで見るな。甘い声を出すな」
カエデちゃんのマネだったんだけどな。
ヨシノさんには効果がないらしい。
俺はこれをされたら何でも言うことを聞くのに。
あ、そうか。
この人、ドMだったわ。
「ヨシノ、いいからさっさと冷やせ!」
「君、本当に面白いね……」
ヨシノさんは苦笑しながらビールを冷やし始める。
「ちなみにだけど、これって、ナナカさんもできる?」
「できると思うぞ。ナナポンは純粋な魔法使いだし、これはそこまで難しくない。リンでも他の子でもできるし」
うーん、羨ましい。
「いいなー……結局、魔法を覚えずに引退かー」
1個ぐらいは覚えたかった。
「君は剣がすごいし、マジックワンドもある。何より、ナナポンがいるから魔法を覚える必要がなかったんだろうね。私とリンは必死に覚えたよ。2人共、剣士だったからさ」
それは大変だっただろうな。
俺は最初から錬金術があり、金儲けができた。
それにより、1000万もするマジックワンドを買い、エアハンマーを使えるようになったのだ。
でも、ヨシノさんの完全記憶は便利ではあるが、戦闘用でもないし、金儲けができるようなものでもない。
「ヨシノさんとリンさんっていつからやってんの?」
「20歳だな。大学に通っていた時からやっている…………懐かしいなー。私はサツキ姉さんにみたいになりたかったんだ」
いや、そっくりですよ。
「サツキさんって実際、すごかったの? Aランクでしょ?」
今思うと、ユニークスキルを持っていないのにAランクってヤバくないか?
素で強いっていうことだ。
「ああ。強いし、リーダーシップもあった。私は何も勝てなかったよ」
見るな!
俺、見るな!
我慢しろ!
「君が言いたいことはわかるよ…………そこは勝ってるね。子供の頃からサツキ姉さんによく僻まれたよ」
サツキさんだって小さいわけではないが、この人はなー。
「ごめんなさい。冒険者にまったく詳しくなかった私でもあなたは知っていたくらいだから」
「あー、まあ、雑誌とかの表紙に載ったこともあるしね。冒険者業界を盛り上げるために出た」
「…………本当は?」
「ギャラが良かった」
だろうね。
「他にもオファーはあった?」
「歌があったな。さすがに断った。自信ないし、恥ずかしい」
まあ、俺でも断るな。
カラオケで80点にいけば良い方だし。
「色々あったわねー」
「そうだな…………なんだかんだ楽しかったよ」
「あなたは辞めないでしょ」
「辞めるも同然だよ。まあ、リンが結婚した時に覚悟はしていた。正直に言おうか?」
何?
リンさんへの恨み言か?
「後ろ向きな発言は嫌よ」
「後ろ向きじゃないよ。沖田君を仲間に誘ったのはリンが辞めた後に一緒にやれるかなって思ったんだ」
「沖田君じゃなくても良くない? 他の子もいるでしょ」
サツキさんの元メンバーは辞めるかもだけど、他の準メンバーとやらがいる。
その子達とやればいい。
「君は同い年だし、同じ剣術をやっていた人とやりたかったんだ。信じられないかもだけど、私は剣術が好きなんだよ」
そうなんだ……
お金を儲ける手段にしか思っていないと思ってた。
「へー、意外…………でも、他のメンバーは剣術をやってる人はいないの?」
「女性ばっかりだからね。剣より魔法。あっても槍かな」
あー、まあ、剣を選ぶ女子は少ないか。
「うーん、なんかごめんなさいね。付き合ってあげたいけど、やっぱり辞めるわ」
「いやいい。同い年だし、年齢の限界はわかっているよ。それに6年も冒険者をやった。もう十分だよ。最後にウハウハな金づる…………素晴らしい仲間を手に入れた」
おい!
「あなた、絶対にリンさん以外の友達がいないでしょ」
「君、友達いるの?」
…………………………。
「あれ?」
「ごめん…………」
あれれ?
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