第188話 食の異文化交流


 視界が晴れると、昼に王様と会った食堂に来ていた。

 そして、テーブルには食事が4人分、用意されている。


「ミーアも食べるの?」

「はい。普通は遠慮するところなんですが、この屋敷の都合上、ご一緒しないといけないんです」


 ミーアは一人で移動できないからな。

 食事も一緒に食べないといけないのだろう。


「不便ね」

「不便と言えばそうですが、それでも安全が大事です」

「まあ、私としては4人で食べた方が良いわよ」


 多い方がいい。

 だって、この部屋も無駄に広いんだもん。


「席に着いてよ。せっかくのご飯が冷めちゃう」


 アルクが俺達を促してきたため、俺とヨシノさんは昼間と同じ場所に並んで座った。

 アルクもまた、俺の対面に座り、ミーアはアルクの隣に座る。


 どうでもいいけど、アルクはいつまで鎧を着ているんだろうか?


「食事前の挨拶とかある?」


 俺は異世界の『いただきます』が気になった。


「挨拶? 何それ? 普通に食べなよ」


 『いただきます』がないっぽい。


「エレノア様達の世界ではあるんですか?」


 ミーアが聞いてくる。 


「私達の国ではいただきます。海外では、アーメン?」

「それは違わんか?」

「よく映画とかでシスターとか神父さんが祈ってない?」

「そんな気もするが、アーメンは違うだろ。主に感謝しますとかそんなんじゃなかったか?」


 そうだっけ?

 知らね。


「なんでもいいや。食べましょう」


 俺はご飯を食べることにし、用意された食事を見てみる。

 見る限り、パンとステーキっぽい肉がある。

 あとはスープにサラダだ。


「フォークとナイフはウチの世界と一緒ね」


 ほぼ一緒だし、問題なく使える。


「スプーンもだな……」


 スープ用と思われるスプーンもほぼ一緒だ。


「ちなみに聞くけど、この肉は何の肉?」


 俺はこの食事を用意したであろうミーアに聞いてみる。


「グランザという草食動物の肉です」


 うん。

 知らね。


「エレノア、その辺は気にしないようにしよう。正直、このサラダの野菜も見たことがない」


 ヨシノさんにそう言われて、サラダを見てみると、青色やら黄色の野菜が添えられている。


「大事なのは味だしね」

「そういうことだ。まあ、食べてみろ」


 こいつ、俺に毒見をさせる気だな……


「いいわ。失礼なことを言うけど、私にはキュアポーションがある」

「ホントに失礼だね。さっきお菓子をバカ食いしてたくせに」


 異世界なんだからしゃーないじゃん。


「未知なるアレルギーが怖いのよ」


 俺はフォークとナイフを持つと、ステーキを切る。

 ナイフの性能がいいのか、肉が柔らかいのかはわからないが、ナイフはすんなりと肉に入り、簡単に切り分けることができた。


「香りはいいわね。美味しそう」


 俺はフォークで刺した肉を口元に持っていくと、匂いを嗅いでみた。


「一応、言っておくと、高級食材だからね。君達の為に無理して用意したんだ」


 歓迎されているようだ。


「そこまで言われたのなら食べましょう……はむっ」


 もぐもぐ。

 …………美味っ。


「うーん、私は嫌いじゃないけど、ヨシノさんには合わないと思うな……」

「美味いんだな? 私の分を奪おうとしているんだな? よし、食べよう」


 チッ!


「…………なるほど。柔らかいし、美味いな……」


 ヨシノさんも肉を食べると、嬉しそうにうんうんと頷く。


「お口に合ったのなら良かったです」


 ミーアがほっと胸を撫で下ろす。


「これ、おみやげに持って帰れるか?」

「冷凍ならいけると思う。でも、クーラーボックスがないわね」

「今度、用意しておくべきだな」

「そうしよう」


 俺とヨシノさんは肉やパンを食べながら相談する。


「君らって本当にがめついね……」

「いや、これは本当に美味しいと思う。地球にはない味だ」


 俺もそう思う。

 牛肉や鶏肉より美味いというか、これは別物だ。


「僕は逆にそっちのお肉が気になってきたよ」

「交換しましょうよ。今度来る時に持ってくるからそっちの肉をよこしなさい」

「それはいいね」


 アルクは嬉しそうに頷く。


「お魚は好き? クサヤとニシンの塩漬けだと、どっちがいいかしら?」

「エレノア、ゲートを閉じられるようなチョイスをするな」


 冗談だよ。


「何それ? 不味いの?」


 アルクは気になったようだ。


「食べ物だが、臭いことで有名。下手すると、吐く」

「君らの世界って食べ物にもユニークなのがあるんだね……」

「試してみる? 私は食べたことないけど……」


 通販で買えるだろ。


「うーん、ちょっと気になる」

「アルク、やめとけ。ここは窓がないから換気が出来ないだろう。死ぬぞ」


 ヨシノさん、食べたことがあるっぽいな……


「私は食べませんからアルク様御一人でどうぞ」


 メイドは主を裏切った。


「ミーア、言っておくが、缶詰を開けただけで死ぬぞ?」


 ヨシノさん、確実に食べたことがあるな……


「アルク様、よしましょう。死にたくありません」

「そうしよっか……」


 そんなにひどいの?


「……まあ、普通のお肉を持ってくるわよ」


 牛肉でいいだろ。


「そっちでお願いします」


 俺達はその後も話しながら経験したことのないご飯を食べ続けた。

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