第186話 フロンティアで一休み


 王様との交渉を終えた俺達はアルクの転移魔法で客室とやらに連れてこられた。


 案内された客室はキングサイズのベッドが2つあり、テーブルやソファーも置いてあるかなり広い部屋だった。


「2人部屋?」


 ヨシノさんと同室で寝るの?


「個室がよろしければ、隣に同じ部屋がありますよ」


 ミーアが説明してくれる。


「隣? そういえば、この部屋には扉があるわね」


 この部屋は窓こそないが、扉がある。


「ここは御客人を招く場所になります。この一画は客室が4部屋、トイレ、浴場もありますのでご自由にお使いください」


 あー、確かにトイレがないときついわ。

 この部屋ですることになる。


「了解。ヨシノさん、隣でいい?」

「どこも一緒なんでしょ? どこでもいいよ」

「じゃあ、それで」


 さすがにヨシノさんと同室はマズかろう。


「承知しました。では、夕食時にまた来ます。また、何かあれば扉の近くにあるスイッチを押してください。すぐに駆けつけます」


 ミーアがそう言うので扉の近くを見ると、スイッチらしきものが2つあった。


「2つあるけど?」

「あ、すみません。右側です、左側はライトを消すものになります」


 あー、例のキラキラ塗料か。


「了解。晩御飯は?」

「夕食時に先程の部屋にお連れします」


 ふむふむ。

 やはりさっきの部屋は食堂か。


「わかった。王様と食べるの?」

「いえ、陛下は仕事がありますのでご一緒できないと思います」


 まあ、王様と一緒だとマナーを気にしてしまうから正直、いない方が良いな。


「僕がホストをすることになってるよ」


 アルクがホストらしい。


「できるの?」

「君達に遠慮はいらないからね」


 しろよ。


「まあいいわ。フロンティアの食事は食べたことがないからちょっと楽しみ」

「だな」


 このお菓子やお茶の感じから期待は持てそうだ。


「逆に僕もフィーレのご飯が気になるよ」

「援助物資があるでしょ。それを食べなさい」


 缶詰だろうけど。


「いや、さすがにあれは食べられないよ。国民のものだもん」

「ふーん。あんたがフィーレに来たらご馳走してあげるわよ」

「なるほど…………」


 アルクが考え込み始めた。


 いや、マジで来る気?


「ミーアも来る?」


 ホテルとか旅館を取ってやれば良いだろう。


「えっと、フィーレですか……いや、禁じられてますから遠慮したいです」


 なんかビビってる気がする。


「言っておくけど、皆が皆、私達みたいな人じゃないわよ?」

「それはわかってるんですが、異世界と聞きますと、どうしても尻込みます」


 あー、まあ、そういう気持ちはわからんでもない。

 それでも俺は行ってみたいという気持ちが勝つ。

 だからここにいるんだけど。


「まあ、無理にとは言わないわよ。今度、こっちに来る時にフィーレのお菓子でも持っていくわ」


 チョコでええやろ。


「それはぜひ。私も興味がありますので」


 だよねー。


「僕の分もよろしく。じゃあ、夕食時にまた来るよ」

「あ、アルク様、お持ちください。少し、トイレとお風呂の使い方の説明をしてきます」


 そういや使い方がわからんな。

 蛇口とかがあるのかね?


「わかった。僕が行くのはマズそうだし、ここで待ってるよ」

「はい。では、エレノア様、ヨシノ様、ご案内いたします」


 俺達はその後、ミーアにトイレや風呂の使い方を教わった。

 トイレも風呂もちゃんと男女に別れており、使い方はスイッチで水やお湯が出る感じだった。

 ほぼ日本と変わらない。

 ただ、トイレはともかく、風呂は広く、温泉の浴場みたいだった。


 ミーアからトイレや風呂の使い方を教わると、さっきの部屋まで戻る。

 そして、アルクとミーアが転移魔法でどっかに行ったので俺とヨシノさんは部屋に置かれているテーブルにつき、一休みする。


「豪華で快適だとは思うが、やはり窓がないのが気になるな」

「わかる。息が詰まる気がする」


 以前の地下遺跡にいるような気分だ。


「王族って大変なんだな。要は暗殺の警戒だろ?」

「でしょうね。もしかしたら世界が滅んだことで恨まれてるのかも」


 王様がキチンとしなかったのが悪いんだーって感じ。


「かもな。しかし、世界大戦が起き、滅んだとはな…………」

「錬金術は怖いスキルだったわね」


 あっちの世界でもありうる話なので笑えない。


「そんな怖いスキルを再び、頼るくらいには今のフロンテイアには問題があるってことだろう」

「かもね。私、フロンティアってもっと発展した豊かな楽園を想像してた」


 話を聞くと、全然違う。


「私も予想とは違ったな」

「この状況を知ったら地球は攻めるかしら?」

「攻め込みたいとは思うんじゃないか? まあ、どっちみちゲートがあるから無理だろ。フロンティア側もそういう動きが見えたらすぐに閉じるんだろう」


 ゲートねー……


「ゲートを作ったのはあの王様かな?」

「多分、そうじゃないか? ゲートも要は転移なわけだし…………しかし、かなりの量の金が手に入りそうだな」


 ヨシノさんは満面の笑顔だ。


「そうね。こっちでは金が貴重じゃない感じだったわ」

「だな。まあ、良いことだろ。争わなくて済む」

「あなた、やけにあっさり引き下がったわね。交渉はどうしたのよ?」


 そのために来たんだろ。


「え? あ、うん……そういう交渉は今後、もうちょっと詰めてからの方が良いと思ったんだ。あの感じだと、取引は今回一回きりじゃない。こういう取引は長期的に見た方が良い」

「なるほど。今回は急ぎっぽいし、その辺は適当なわけね。でも、あなたがアホなことをしないで良かったわ。下手なことをすると、私達、閉じ込められるわよ」


 やろうと思えば、いくらでも殺せる。


「え? あ、ああ……そうだとも!」


 こいつ、何か様子がおかしいな……

 まあ、様子というか、頭がおかしいのはいつものことだが。


「一応、それをする気配はないし、大丈夫だとは思うけど、言動には気を付けなさいね」

「君がそれを言う?」


 言う。


「王様もアルクも心が広くて良かったわ…………さて、ご飯まで時間があるわね。何する?」

「何するって言われてもやることないだろ。お風呂でも行こうかな」


 あの広い風呂か。


「いいわね。私もそうしようかしら?」

「男風呂に行けよ」

「わかってるわよ……」


 男風呂は嫌だけど、どうせ俺達以外には誰もいないわけだからしゃーない。

 いくらなんでもヨシノさんと一緒のに入るわけにはいかない。


「君、着替えは持ってる?」

「あるわよ。念のため、いつも持ち歩いている」


 アイテム袋の容量に余裕はあるからお泊りセットも用意している。


「ならいいか」

「あなたは?」

「私もだな。じゃあ、風呂に行くか」

「そうね」


 俺達は風呂に入ることにし、ヨシノさんが隣の自分の部屋に行ったため、俺も風呂に入る準備をする。


「沖田君には戻らない方がいいかな……」


 正直、風呂は沖田君で入りたい。

 エレノアさんの長い髪を洗うのがめんどいし。

 でも、ここで急に性別を変えるのはマズい気がする。


「仕方がないか…………」


 俺は準備を終えると、風呂場に向かう。

 風呂場は男女で別々の入口があり、さっきは女子風呂に案内された。


 俺は今度は男子風呂の方に入ったのだが、脱衣所も浴場も構造は一緒だった。


 俺は教えられたやり方でお湯を出し、身体と髪を洗うと、湯船に入り、上を見上げる。


「銭湯みたいに繋がってるわけじゃねーんだな」


 向こうには巨乳が風呂に入っているというのに見えない。

 こういう時こそナナポンの透視がうらやましいと思える。


 俺はしゃーないと思いながらも異世界のお風呂を満喫し、身体を温めた。

 広い風呂に一人で入っていると、本当に王様になったような気分になれる。

 だけど、逆に少し寂しくもあった。


「王様やアルクはこんな気分なのかねー…………」


 というか、アルクは1人か?

 ミーアがいるじゃん。

 ミーアは転移が使えないから何をするのにもアルクと一緒だろう。


「あいつ、めっちゃいい思いをしてるじゃん」


 俺はアルクには厳しく接しようと思った。

 嫉妬ではない。

 これは教育だ。

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