第185話 交渉
俺とヨシノさんは泊まることが決定したため、カエデちゃんとサツキさんに手紙を書き、アルクに渡した。
すると、アルクは手紙を一瞬にして消してみせた。
「ゲート前に送ったよ」
早っ!
「一瞬ね」
「このくらいのサイズだったらすぐだよ」
すごいね。
「じゃあ、ご所望のキュアポーションは今夜と明日にでも作って、用意をするわ」
「頼む」
王様が頷く。
「それで他に何が欲しいの?」
「逆に何を作れる?」
全部は言えんな……
「回復ポーション、透明化ポーション、アイテム袋、翻訳ポーション、強化ポーションかな? あとは眠り薬とかオートマップとかなんかもあるけど、いらないでしょ?」
さすがにTSポーションと生命の水は言えない。
「その中で欲しいのは各種のポーションだな」
「言えなきゃ、別にいいけど、なんでそんなにポーションが欲しいの? モンスターからドロップするでしょ」
「そのモンスターの駆逐が厄介なのだ。あいつらは無限に湧くし、対処せねばならん。アルクが言ったように我々は人口が少ないがゆえにそういうモンスターを駆逐する兵士や傭兵が少ない。だから回復ポーションと強化ポーションが欲しい」
そうか……
俺達の世界にはモンスターはいないが、こっちの世界の人達はすぐそばにモンスターがいるんだ。
だから回復ポーションや強化ポーションの需要が地球以上に高いんだ。
「わかったわ。回復ポーションは在庫があるからいくらでも出せる。でも、強化ポーションは難しい。強化ポーションは3種類あるんだけど、材料がフロンティアのものだから集まらないのよ」
「材料は何だ?」
「キラキラ草、サラサラ草、フワフワ草ね」
「そんなものでいいのか…………それはこちらで用意するから作ってくれないか?」
そんなものらしい。
レアじゃないっぽいな。
「用意してくれるのならすぐに作れるわ」
「わかった。すぐに用意させる」
さすがは王様。
「透明化ポーションと翻訳ポーションはどれくらいいるの?」
「100でいい」
でいいって言える数字か?
王様は豪快だな。
「それは在庫があるから問題ないわね」
「では、頼む」
「それで見返りは何? まさかただで寄こせとは言わないわよね?」
「もちろんだ。だが、通貨が異なる我々では金で売買するわけにはいかない。アルクが説明したと思うが、物々交換をしたい。何が欲しい?」
何が欲しいって言われても困るんだよな。
「金とか宝石はない? クーナー遺跡の地下に金の延べ棒があったし、金はあるんでしょ?」
「あるな。では、金にしよう。我々はあまり金を使わんし」
「使わないの?」
「かつては通貨として金貨が流通していた。だが、今は使っておらん。金は武器には使えんし、今の情勢ではあまり需要がないんだ」
金より鉄の方が強いだろうし、こっちの世界は武器に使えそうな鉱物も多い。
実際、フロンティア産の俺の剣や刀は強度がおかしい。
「問題は量ね? どうするの?」
「クーナー遺跡で延べ棒を見つけたといったな? あれでいいか?」
「いいわよ」
「では、あれ1本でそちらの価格でいくらになるかを教えてくれ」
えーっと…………
「いくら?」
俺はよくわからないのでそういうことに詳しそうなヨシノさんを頼る。
「あの延べ棒は10キロだった。800万円くらいだと思う」
「ふーん、そんなにするんだ…………王様、金の延べ棒1本でレベル1の回復ポーションだと16個、レベル2だと2個と交換できる。レベル3の場合は金の延べ棒が12本いるわ」
「わかった。少し、こちらの金の在庫を確認しよう。足りなかったらまた相談させてくれ。他のポーションはどうだ?」
翻訳ポーション、透明化ポーション、強化ポーション、キュアポーションは売ってないから相場がないんだけよな……
「うーん、めんどくさいからキュアポーションは回復ポーションと同額で他のポーションは100万でもいいかな?」
俺はヨシノさんに確認する。
「強化ポーションは高いと思うが、材料は用意してもらうわけだしな……そんなもんでいいと思う」
「ということで各種ポーションは金の延べ棒で8個ね」
「了解した。すぐに金の在庫を確認しよう」
そんなにあるのかね?
もしかして、フロンティアって金がめっちゃあるんじゃね?
「こんなもんでいい?」
「ああ、十分だ、もしかしたら今後も取引を行うかもしれん」
まあ、ポーションは消耗品だからなくなったらまた買わないといけないわな。
「今後はどうするの? 正直、ゲートに手紙を置く方法はやめてほしい」
今はギルドが閉鎖されているが、いずれは再開する。
そうなると、他の冒険者が手紙を拾うことになる。
拾った手紙を政府やギルドに持ち込まれるのはまだいいが、最悪はそのままネコババもあり得るのだ。
「うーむ、そうだな…………仕方がないか」
王様は何かを悩んだ後、テーブルをじーっと見る。
すると、テーブルの上に薄い四角形の何かが急に現れた。
「え? 何それ?」
「手品みたいだな……」
俺とヨシノさんはびっくりし、王様と四角い何かを見比べる。
「これは収納魔法だ。お前達が持っているアイテム袋みたいなものだな」
フロンティアにはそういうのがあるのか……
だから地球ではめっちゃ需要があったアイテム袋に興味を示さないんだな。
「私も覚えられるかな?」
「お前はジョブが剣士だったな? 無理だ」
ガーン!
「私は!? 私は!? 魔法剣士だけど?」
ヨシノさんが興奮しながら自分のことを指差す。
というか、この人、魔法剣士なんだ。
ちょっとかっこいいし、俺の上位互換っぽいからムカつくな。
「無理だな」
「ガーン!」
ざまあ!
抜け駆けは許されないのだ。
「どのジョブなら覚えられるの?」
「純粋な魔法使いだな」
魔法使い……
ナナポンか。
「これは忘れましょう」
俺はヨシノさんを見る。
「そうだな。私達は何も聞かなかった」
うんうん。
ナナポンのドヤ顔とか見たくない。
「君達、本当にユニークスキル持ちって感じがするよ」
ホント、うるせーガキだな。
「これ、アルク…………こほん、これはな、遠見の鏡というものだ」
王様は余計な一言を言ったアルクを諫めると、出した四角い物を説明しだした。
「鏡?」
「そうだ。これは対になっていてな、一方の鏡を覗くと、もう一方の鏡の先が見えるんだ」
テレビ電話みたいなものかな?
「話せるの?」
「いや、音は無理だ。お前にこれをやる。依頼がある時はこれに手紙を写すからそれで確認してほしい」
電話じゃなくて、メールだな。
「ふーん。もしかして、各国もこれを持ってたりする?」
問い合わせとかと通達をこれでやってるのかな?
「ああ、そうなる。他にも方法はあるんだが、一番安くて簡単なのがこれなんだ」
安いんかい……
「でも、これ覗きができそうじゃない?」
「使わない時は伏せるか、布でもかぶせればいい。それで見えん」
それもそうだわ。
「ふーん、適当な時に確認すればいいわけね?」
「そうなる。在庫がなくなるのは先になるとは思うが、できたら定期的に確認してほしい」
まあ、急遽、あれが欲しい、これが欲しいっていうのもあるだろうから仕方がないか。
部屋に置いて、朝か夜に確認すればいいだろう。
「わかったわ。じゃあ、もらう」
俺がそう言うと、メイドのミーアが王様のところに行き、鏡を受け取った。
そして、俺のところに持ってきて、渡してくれる。
俺は早速、鏡を見るが、真っ黒で何も見えない。
「その対になる鏡は私のアイテムボックスの中だから何も見えんぞ」
だから黒いのか……
しかし、これ、脱衣所に置いたらよくね?
「ねえ、これ、セットでくれない?」
「すまんが、それは無理だ。これは覗きなどの犯罪に使われるケースが多いからフロンティアの人々にも使用の制限があるくらいなんだ」
チッ!
どこの世界の男も考えることは一緒か……
「…………君、ホント、ひどいな」
ヨシノさんが俺にしか聞こえない声量でつぶやいた。
「まあいいわ。確かに受け取りました。ちゃんと毎日確認しましょう」
俺は鏡をカバンにしまう。
「そうしてくれ。では、今日はここまでにしよう。私はこれから金や材料を確認してくる」
「了解。私もキュアポーションの作成に入りましょう」
「レベル1と3は100程度でいいが、レベル2を大量に頼みたい」
100でも大量だと思うんですけど…………
「いいけど、水と薬草ももらえない?」
売る分を考えると、回復ポーションが足りなくなりそうだ。
「それならすぐに用意しよう」
「お願い」
「では、頼む。アルク、客人を客室に案内して差し上げろ」
王様がアルクに指示を出した。
「はーい。2人共、立ってくれる?」
アルクがそう言うので俺とヨシノさんはお茶を飲み干した。
そして、俺はテーブルの上にあるお菓子が入っているカゴを持つと、立ち上がる。
「…………君、それが君の言う礼儀なの?」
「これ、美味しいわね」
チョコのような感じがするが、全然、違うお菓子だ。
正直、食べたことがない味がする。
でも、めっちゃ美味い。
「エレノア、半分は私のだぞ」
「太るわよ?」
知らねーけど。
「そんなもんは後でいくらでもあげるよ」
くれるのか……
「おみやげにいくつかちょうだいよ。なくなったら後日、鏡を使って要求するわ」
カエデちゃんにも食べさせてあげたいし。
「あ、私も」
ヨシノさんも便乗する。
「礼儀どころか図々しすぎて怒る気もないよ。君達、ユニークすぎ」
「ミス・ユニークさんだもん。同行者を間違えたわ」
「キングオブユニークが何を言ってんだ」
守銭奴め。
やっぱりナナポンに…………
いや、あいつもユニークスキル持ちだったわ。
ロクなのいねーな。
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