第184話 気さくな王様で良かった
錬金術というスキルは世界大戦を引き起こし、世界を滅ぼすスキルらしい。
「詳しく説明してくれる?」
「あの、あまり詳しくは言えないんだけど……」
「言える範囲でいい。戦争が起きたきっかけを教えて」
これは知っておかないといけない。
「わ、わかった。最初はちょっとした飢饉が原因だったんだよ」
「飢饉? 作物が採れなかったの?」
「そんな感じ。とある地域で雨が少なかったんだ」
まあ、そういうこともあるだろう。
「それで?」
「その雨が少なかった地域っていうのがとある2つの国の国境沿いだったんだよ。そして、一方の国に錬金術師が誕生した。その錬金術師は自分の国の国民に回復ポーションなんかの便利なアイテムを使い、救った。すると、その功が認められ、出世し、その地域をどんどんと発展させていったんだ」
錬金術を使えばそういうこともできるだろう。
「発展し、豊かになったのね…………一方の国だけ」
「そう。もう一方の国はどんどんと餓死者が出た。それにより、恨みが生まれた」
逆恨みっぽいが、気持ちがわかる。
なんで自分達だけがって思うんだろう。
「それで争いが起きたわけ?」
「だね。最初は小さな小競合い程度だった。でも、錬金術師を欲しがった国が小競合いに乗じて軍事攻勢を仕掛け、戦争状態になった。それが次々と世界に連鎖し、世界大戦が起きたわけ」
「戦争の終結は? 滅んだって聞いたけど?」
「それは言えない。絶対に言えない」
絶対には余計だったな。
「錬金術師が何かをしたのね?」
「言えない。知らない」
錬金術師のアイテムだな。
滅ぼすレベルの何かがあるんだ。
「ヨシノさん、私、やっぱり引退するわ。これ以上、レベルを上げたくない」
俺はアルクの話を聞いた後にヨシノさんに言う。
「私もそうした方が良いと思う。同じことが起きそうだ」
「ごめんけど、そうする」
ヨシノさんの幼なじみであるリンさんも辞めることになるかもだけど。
「いい。お金は大事だが、平穏も同じくらいに大事だ」
だよね。
「アルク、もういいわ。錬金術が危険なことは十分にわかった。私は黄金の魔女と呼ばれているけど、本物の魔女になる気はない」
核兵器級の武器が作れますとか絶対に嫌だ。
「う、うん。そうしてもらえるとありがたいかな……」
「話は大体、わかった。シャルルさんに会わせてちょうだい」
「ちょっと待ってね」
アルクはそう言うと、目を閉じた。
「何? 瞑想?」
「静かにしてよ……」
アルクに文句を言われた俺はミーアを見る。
「念話のスキルですよ。王族は持っています」
王族ってすげーな。
「相手に話しかけれるの?」
「念話のスキルを持っている同士に限られます。ですので、私やエレノア様、ヨシノ様は念話のスキルを持っていないでしょうから無理です」
誰か一人が持っていても使えないスキルか。
微妙に使えないスキルだな。
「よーし! 陛下もオッケーだってさ。転移するよ」
アルクが目を開け、そう言ったので俺は残っているお茶を飲み干し、立ち上がった。
すると、ヨシノさんとアルクも立ち上がる。
「準備はいい?」
「私はいつでも構わない」
ヨシノさんがアルクの問いに頷いた。
「私もいいけど、1つだけ…………お茶だけでなく、お菓子も出しなさいよ」
礼儀を知らんのか?
「こいつ、絶対に小さいよね?」
「私がこいつの家に行った時、お菓子どころか眠り薬を盛ってきたぞ」
「こいつ、ヤバくない? もう魔女じゃん」
「フィーレでトップクラスのユニーク女だ」
「やっぱり……」
仲良くすんな!
「ミーア!」
「申し訳ございません。私も御二方と同意見です」
俺のミーアが…………
「ほら、クソガキ、さっさと転移魔法を使いなさい」
「はーい」
アルクは素直に頷くと、手をかざす。
すると、目の前が真っ白になった。
◆◇◆
視界が晴れると、さっきのアルクの部屋から縦に長い部屋に変わっていた。
この部屋はおそらく食事をするところだと思われる。
なぜなら部屋の真ん中には長いテーブルが置かれており、晩餐会でもできそうな感じだからだ。
そして、そのテーブルには1人の男性が座っていた。
その男性は立派な髭をたくわえており、軍服にも似た服を来ているおじさまだ。
「あなたがシャルルさんかしら?」
俺は偉そうだし、間違いないだろうと思い、聞いてみる。
「いかにも。私がシャルルだ。一応、フロンティアの王と思ってくれていい」
「国名はないの?」
「ないな。フロンティアにでもしようと思っている」
自分達でつけたがいいと思うんだけどな。
フロンティアって、あんたらからすると、良い名前じゃないし。
「ふーん、まあいいわ。私がエレノアよ。そして、こっちが同行人のヨシノさん」
「どうも。招かれてはないが、エレノアを1人にすると、何をするかわからんからストッパー役としてついてきた」
ストッパー役だったのか……
「うむ。よく来てくれた。ヨシノも歓迎しよう。美しい2人の女性に会えて光栄だ」
言葉が上手いな。
「良い人ね?」
「きっと賢王なんだろうな」
俺とヨシノさんはうんうんと頷く。
「26歳は必死だね…………」
クソガキがポツリとつぶやいた。
「ミーア、そのガキを黙らせろ」
っていうか、自分の部屋に帰れ。
「はい……アルク様、それはないです」
「ご、ごめん」
アルクって、もしかしたらサツキさん以上の挑発レベルかもしれない。
「ウチの不出来な子が申し訳ない。親である私の教育が悪かったようだ」
王様まで謝罪をしてきた。
「いいわよ。13年後に後悔するから」
お前も歳を取るんだぞ。
「すまんな。とにかく、座ってくれ。ミーア、お茶を用意してくれ。あー、そうそう。お茶請けを忘れずにな」
王様が苦笑しながら指示を出した。
「盗み聞きはよくないわねー」
俺はそう言いながら王様の対面に座った。
ヨシノさんも俺の隣に座る。
なお、アルクはパパの隣に座った。
「盗み聞きするつもりはないんだが、ちゃんと説明できるか心配でね」
王様はそう言って、隣に座っている自分の息子を見る。
「立派に説明してたわよ。一言、二言、多いけど……」
「すまんな…………」
王様がまたしても謝罪をする。
「謝られちゃった!」
いや、そらそうだろ。
こいつ、マジで自覚がないんだな…………
「それで王様。私から回復ポーションと透明化ポーションを買いたいということで良いのかしら?」
俺はアルクを無視することにした。
「そうなるな。だが、その前にまず、確認がしたい。お前は錬金術師でいいな?」
「いいえ。私のジョブは剣士よ。錬金術のスキルを持っていることは確かだけど、あくまでも剣士ね」
「剣士…………ユニークスキルを持っているのにか……スキルレベルが6もあると、そっちになるのかな?」
あんたらが知らねーのに俺が知ってるわけねーだろ。
「そうかもね。まあ、錬金術を持っているのは確かだし、ジョブなんかどうでもよくない?」
「まあ、そうだな。では、お前が作れるものを知りたい。話を聞く限り、キュアポーションも作れるみたいだな?」
俺がキュアポーションの話をした時、メイドのミーアの動きが変だった。
キュアポーションを欲しているのは間違いないだろう。
「そうね。それは作れる。でも、作れるようになったばかりだから在庫があまりない」
「すぐに作れんか?」
「量にもよるけど、1日、2日の時間が欲しいわね。いくつ欲しいの?」
「レベル2を1000、いや、2000は欲しい」
キュアポーションをそんなに?
在庫が100くらいしかないんだけどなー。
「そんなにないわ。やはり1日、2日は欲しい」
「わかった。だったらどうだろう? 少しの間、ここに滞在せんか? 歓迎しよう」
滞在?
泊まりってこと?
「泊まりねー……」
せっかくだし、泊まりたいという気持ちはある。
こんな機会は滅多にないし……
「どうする?」
俺はヨシノさんに聞いてみることにした。
「私は別にいいけど」
「仕事は?」
「ウチのパーティーはもう仕事納めをしたから冒険はないし、本部長も協議だからな。私はすでに休みに入っているんだよ」
この人も冬休みか。
「王様、手紙をギルドに送れるかしら? 滞在することを伝えたいんだけど」
カエデちゃんやサツキさんに外泊することを伝えないといけない。
「ああ。それはもちろん可能だ」
だったらいいか。
「じゃあ、そうしようかしら?」
俺はヨシノさんを見る。
「そうだな」
ヨシノさんも頷いた。
「では、そうしよう、後で客室に案内させよう」
俺とヨシノさんは世界で初のフロンティアに滞在した人になりそうだ。
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