第170話 謎だらけのフロンティア人


 フロンティア人に会うか、逃げるか……

 逃げると稼げなくなるのは嫌だな。

 十分な貯金はあると思うが、俺とカエデちゃんの人生はまだ先がある。

 この先、何が起きるかわからないことを考えると、金儲けの手段を閉じるのは早計だろう。


「会うしかないかなー……」

「すまん。私もサツキ姉さんも何とも言えない。この件は君の判断に任せる」


 うーん、逃げたら稼げなくなる。

 フロンティア人に会ったらどうなるかはわからない……


「まあ、会ってみるか……」

「いいのか?」

「連れ去られそうになったら斬ればいいでしょ。そんで逃げる」


 それでエレノアさんに二度とならなければいい。


「…………今、君と会ってから一番怖いよ。よくそんなことしようと思えるな」

「いや、誘拐犯じゃないの。抵抗するに決まってんじゃん」

「フロンティア人なんか得体のしれない連中だぞ」


 知らねーわ。


「万が一の話よ。そもそも私はフロンティア人ではないのだから問題ないわ」

「うーん、まあ、君がそう言うなら任せるよ…………」

「それでフロンティア人とやらと会うのはいいんだけど、どうやって会うのよ?」

「それも不思議なんだが、ゲートをくぐればいいらしい」


 はい?


「どういうこと?」

「いや、よくわからないけど、ゲートをくぐった先に面会するフロンティア人がいるらしい」

「ゲートってどこのゲートよ?」

「どこでもいいんだってさ」


 意味不明なんだけど?


「え? 他の皆も行けるの?」

「いや、君だけ」

「マジで意味がわかんないんだけど…………」

「だから私達も同じ気持ちなんだよ」


 さすがはフロンティア人。

 ミステリアスさは俺以上だ。


「えっと、じゃあ、私は池袋のギルドに行って、ゲートをくぐればいいの?」

「そうなるな。あそこは閉鎖中だし、ちょうどいい。ちなみに、総理と本部長も来られる」

「一緒に行くの? さっきは私だけって……」

「いや、総理と本部長はギルドで待ってる」


 暇なんか?


「いらないわよ」

「取り調べの結果をいち早く知りたいんだ。君がお友達に圧力をかけさせたんだろ」


 あ、プレジデント。

 仕事しすぎ。


「サービスの翻訳ポーションはなしね」

「とにかく頼むぞ」

「他にも来るの?」

「護衛とか秘書が来るんじゃないかな?」


 ふーん……


「ユニークスキル持ちとかはいないわよね?」

「あー、総理と本部長以外は遠慮してもらうように言うか…………」

「できるの?」

「君からの要請っていう名の脅しって言えばいい。向こうはそれで察する。この前の地獄耳を看破したのが効いてるんだよ」


 あー、なるほど。

 向こうは俺が何らかのユニークスキルを持ってると思っているんだ。


「じゃあ、それでお願い。日時は?」

「君の都合に合わせるそうだよ。でも、早めにお願いだってさ。ほら、政府もギルドもこんな大ニュースなのにだんまりだろ? これ以上は支持率的なものがね……」


 大変だねー。

 今度、与党に投票してあげるよ。


「じゃあ、明日ね」

「急だなー」


 ヨシノさんが早めにって言ったくせに……


「じゃあ、明後日」

「そのくらいかな? 明後日の午後でいい?」

「いいわよ」

「じゃあ、それで調整するよ。当日は私が迎えにくる。今はちょっとギルド前にマスコミ連中が集まってるし、タクシーもマズいだろ」


 ヨシノさんの車の中でチェンジすればいいか。


「そうしてちょうだい」

「よし! 決まった! じゃあ、私はこの事を本部長に伝えにいくから失礼するよ」

「もう帰るの? 大変ねー」

「私はまだいいよ。サツキ姉さんや本部長は目が死んでる」


 何かごめんね。

 俺は何も悪くないけど、ごめんね。


「じゃあ、帰る。ところで、カエデは?」

「お風呂。あの子は長いのよ」


 カエデちゃんはお風呂が大好きなのでゆっくりなのだ。


「へー。まあいいや。カエデにもよろしく伝えておいて」

「はいはい」

「じゃあ、明後日ね。お邪魔した」


 ヨシノさんは残っているコーヒーを一気飲みすると、立ち上がった。


「いえいえ。わざわざ悪かったわね」

「これも仕事さ。ナナポンもばいばい」


 ヨシノさんがナナポンに手を振る。


「はい。お疲れ様です」

「ん」


 ヨシノさんは返事をすると、足早に帰っていった。


「ハァ…………めんどうなことになったわね」


 ヨシノさんが帰ると、俺はため息をついた。


「でも、有無を言わさずって感じではないですし、一安心ですよ」

「まあね。さすがに私をフロンティア人認定してこないと思うし、明確に否定してほしいものだわ」


 でも、そうなると、ゲートの脅しの効果が弱まるな。

 よし! 濁す感じにしてもらおう!


「――あー、いいお湯だったー」


 カエデちゃんがお風呂から上がってきた。

 カエデちゃんはパジャマから部屋用の私服に着替えている。


「カエデちゃんは今日もかわいいね」

「えへー……そうですかぁ?」


 カエデちゃんは満面の笑みである。

 この子は本当にかわいいって言われるのが好きなのだ。


「ホント、ホント」


 カエデちゃんが可愛くない時なんかないよ。


「……こういうのが嫌だからカップルの家に来たくないんだよなー」


 ナナポンがぼそりとつぶやく。


 無視、無視。

 デイリーミッションは毎日やるもんなんだよ。

 正直、飽きないのかなとは思う。


「そういえば、ヨシノさんは? 来られたんですよね?」


 結局、風呂に入ったままだったカエデちゃんが聞いてきた。


「説明したらすぐに帰ったわね」

「何かわかりました?」

「有無を言わさない身柄要求ではないっぽいわね。要はどこぞの国の偉い人が私をフロンティア人認定して、フロンティアに問い合わせをしたらしいのよ。それでフロンティア人が確認をしたいと言っている。明後日に会うことになったわ」


 かいつまんで話せばこんな感じだろう。


「フロンティア人に会う!? すごいことになりましたね。世界中でも数える人しか会ったことがないんですよ」

「歴史の教科書に載るかしら?」

「先輩、お願いですから挑発したり、イキったりしないでくださいよ。最悪な意味で教科書に載るのは勘弁してください」


 エレノア・オーシャンがフロンティア人を怒らせたため、ゲートを閉じられた。

 うん、最悪。


「わかってるわよ。向こうが何もしてこなければ友好的にいくわ」

「えー…………ケンカを買う気満々じゃないですか」

「こういうのは舐められたらダメなの。強気とは言わないけど、私に落ち度はないんだから堂々といかないと!」


 俺は悪くない。

 むしろ、貴重な時間を割いてやったんだ的な感じでいこう。

 そして、フロンティア人ではないような気がするけど、ミステリアスな魔女ってことにしてもらおう。


「この人、大丈夫かな?」


 カエデちゃんがナナポンを見る。


「トップクラスのユニークさんですからね。ちょっと怖いですが、物怖じしないのは良いと思います」

「心配だなー……」


 大丈夫だっての。


「そんなことよりもフロンティア人ってどんなのかしらね? ネットでは色々書かれたけど」

「さあ? どんなのがありましたっけ?」

「グレイみたいなの、エルフみたいなの、私達と変わらないとかだったかな? ナナカさんは他に知ってる?」


 ナナポンはこういうのに詳しそう。

 ガキだし……


「エイリアンとかもありましたよ」

「さすがにエイリアンが出てきたらビビるわ」


 会話できんのか?

 翻訳ポーションでも飲んでいくかね。


「どれも信憑性はないですからね。ただ、クーナー遺跡を見る限り、私達とそうは変わらないんじゃないかという説が主流です」


 なるほど。

 さすがに詳しい。

 確かにあそこを見る限り、エイリアンはなさそうだ。

 ちょっと安心。


「あとは相手の能力ね。スキルや魔法もあると思う」

「ユニークスキル持ちかもしれませんね」

「あり得るわね」

「あのー、私もついていきましょうか?」


 ナナポンを連れていくか……

 もし、ステータスカードを持っていれば相手のスキルを看破できる。


「いや、やめておきましょう。危険だし、呼ばれているのはあくまでも私だからね」

「ですか……」

「あなたは大人しく大学に行ってなさい。ちなみに聞くけど、進級できそう?」

「なんとか…………テストはほぼ100点ですから問題ありません」


 問題は出席日数だからな。


「気をつけなさいね」

「大丈夫です。今日も午後から授業に出ますし」


 午後から?


「もう12時前だけど?」

「あ、帰ります」


 ナナポンは時計を見ると、慌てて帰っていった。

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