第169話 状況説明


「あなたって、本当に最低ですね!」


 ナナポンがぷんすかと怒っている。


 俺はナナポンが風呂から上がると、2名の女子の痛い目線を無視し、風呂に入った。

 そして、風呂から上がり、ソファーでゆっくりしていると、コーヒーを飲んでいたナナポンが怒りながらやってきたのだ。

 なお、カエデちゃんはお風呂に入っている。


「女性同士じゃない」

「あなたは半分、男でしょ!」


 半分、男……

 オカマみたいだな。


「冗談だったんだけど、面白くなかったみたいね」

「1つも笑えない冗談でしたよ! そういうのは朝倉さんにしてください」

「あの子、最近、リアクションもしてくれなくなったからつまんない」

「どんだけやったんですか…………」


 ほぼ毎日。


「まあ、大丈夫よ。本気で見る気はなかったから」

「あなたの気持ちはどうでもいいです。これは犯罪ですね」

「前に100万円あげたじゃないの」

「さいてーです」


 ひどい。


「ヨゴレさんなら許してくれるのに」

「あの人はとんでもない額の慰謝料を請求すると思います」


 …………っぽいな。

 ヨシノさんにはしないようにしよう。


 俺が巨乳の罠にはまらないように決意をしていると、ピンポーンとインターホンが鳴り響いた。

 リビングに備付けられているモニターまで行くと、モニターにヨシノさんの姿が見える。


「ナナカさん、ヨシノさんを迎えにいって」

「え? 家主がやってくださいよ」

「沖田君じゃないからダメ」


 玄関の扉すら開けたくない。


「あー、なるほど。わかりました」


 ナナポンは素直に頷くと、立ち上がり、リビングを出ていった。

 俺も立ち上がると、キッチンに向かう。

 そして、用意していたコーヒーメーカーを手に取り、ヨシノさんの分のコーヒーを淹れて、リビングに戻った。


 リビングに戻ると、すぐにヨシノさんを連れたナナポンが戻ってくる。


「やあ! おはよう!」


 ヨシノさんは元気に挨拶をしてきた。


「あなたは残業でお疲れじゃないの?」

「私は正式なギルドの人間ではないからね」


 あー、本部長に雇われた冒険者か。


「ふーん、まあ、座りなさい。コーヒーを淹れたわ」

「どうも君からのコーヒーは素直に受け取れないなー……」


 ヨシノさんはぶつくさ言いながらもテーブルにつく。

 俺もその対面に座った。


「まだ気にしてるの?」

「そらな。男に眠り薬を飲まされ、部屋に連れ込まれたし」


 人聞きが悪いなー。


「何もしてないわよ」

「どうだか? 正直、絶対に触ったと思ってる。根拠は君の普段の視線」


 本当に触ってないのに……


「私、さっきこの男に着替えを覗かれそうになりましたよ!」


 ナナポンが最悪な援護射撃をした。


「うわっ……犯罪者じゃないか」


 やめーや。


「事故よ、事故」

「絶対に故意でしたよ!」


 うるせーなー。


「いいからあなたも座りなさい。そして、大人しくしてなさい」


 俺はナナポンの腕を引っ張り、隣に座らせる。


「絶対に忘れませんからね」

「わかったから。ごめんね。はい、終わり」

「えー……軽っ」


 未遂なんだから軽くもなるわ。


「それで? サツキさんからあなたが説明してくれるって聞いたけど?」


 俺は俺を犯罪者にしようとするナナポンを黙らせ、本題に入る。


「それな。どこから話そうか…………」


 ヨシノさんが悩みだした。


「そんなに説明が難しいの?」

「というか、複雑。まあいいか。結論から言うと、君の身柄要求はない。フロンティアはそんなことを要求していない」


 ほっ……

 とりあえずはセーフ。


「じゃあ、何よ?」

「実はな、とある国の大統領がエレノア・オーシャンのことをフロンティア人と決めつけ、フロンティアに問い合わせをしたそうだ」


 はい?


「大統領? なーに? 私のフレンドのアメリカの大統領?」

「いや、違う……というか、そこと敵対している国だな」


 どこだよ……

 アメリカさん、敵が多すぎてわかんねーわ。


「なんで問い合わせなんかをしたのかしら?」

「君がアメリカと密接な関係を築いたからだ」

「密接って…………別にそこまで仲良くないわよ」

「しょっちゅうハリーやクレアとラーメン屋に出没してるだろ。しかも、クレアと商売してる。傍から見たら十分に密接だ」


 うーん、確かに友達っぽい。


「ラーメンにハマったバカに無理やり連れられているだけだけどね。あと、クレアには騙されたし」

「まあ、事実はどうでもいいんだ。日本に出現した謎の魔女がアメリカと密接な関係を築いているっぽい…………これで十分、敵対国は焦る」


 まあ、そうかもね。


「それで問い合わせねー…………というか、問い合わせなんかできるんだ」

「みたいだな。繋がりがある国は借りているフロンティアのエリアのことや支援物資のことがあるから問い合わせはできるみたいだ。もちろん、ギルドもできる」


 へー……

 知らんかった。

 そんなことは教科書に書いてないしな。


「それで?」

「その国はエレノア・オーシャンというフロンティア人がこちらに来ているがそれはいいのかと問い合わせた」


 決めつけんなっての。


「本当に私がフロンティア人って思ってるの?」

「多分な……さすがに戸籍がないこともエレノア・オーシャンという人間が突如現れたことは調べればわかる。そして、そんな謎の魔女が派手にアイテムを売り出せばな……」


 クレアも俺がフロンテイアのお姫様って思ってるっぽいしな。


「なるほどねー。フロンティアの答えは?」

「ウチの世界にエレノア・オーシャンという人間はいない。しかし、偽名の可能性もあるし、何とも言えない、だそうだ」


 否定しろや!

 何とも言えない、じゃねーよ!


「何それ? 答えになってないじゃない……」

「そうだ。それでギルドに話が来た…………」

「どこから?」

「フロンティア人からだ」


 えー……

 微妙に読めてきたぞ。


「私を取り調べたいってこと?」

「そういうことだ。フロンティアではフロンティア人がこっちに来ることを禁じている。それで君と会ってフロンティア人ならば連れて帰るし、そうでないならおとがめなし」

「それがこの前の報道か…………」


 俺がフロンティア人ならば身柄を要求で間違いはないだろう。

 だが、俺はフロンティア人ではない。


「そうなる。実はな、この件はかなり内密に進んでいた。もし、君がフロンティア人だとしたら普通は逃げるだろ」

「まあ、そうでしょうね。捕まるわけだし」


 強制送還で済めばいいが、あっちの法律的に死刑の可能性もある。

 その辺はよくわからないけど。


「だから内密に緻密に計画を練っていたわけだな」

「あなたは知ってたの?」

「いや、知らん。もっと言うと、本部長も知らん」

「え? 本部長が知らないの?」


 マズくね?

 偉い人じゃん。


「非常にめんどくさい話だが、管轄というか、所属が違うんだ。本部長は日本政府の所属だから正式にはギルド職員ではない」

「あー、前に聞いた気がする。何なの、それ?」

「政府とギルドを繋ぐ役職と思ってくれていい。ギルドはどこの国にも所属しない機関だからな」


 ふーん、わかんない。


「まあいいわ。だから本部長もあなたも知らなかったわけね」

「ああ。流れを言うと、ギルドでどうするかの結論を出し、日本の本部長に伝える。本部長がそれを政府に伝えるって感じだった。だが、そうなる前にマスコミに漏れた」

「ダメじゃん…………」

「そう……ダメだ。それでこんな混乱が起きた。本部長も知らない。各ギルドの支部長達も知らない。もちろん政府もその他の外国も知らない」


 当人である俺も知らないっと。


「パニック?」

「そうだ。しかも、半分事実なうえに噂がどんどんと広まっていってしまった。エレノア・オーシャンというの魔女はそれほどまでに知名度と影響力を持っていた」


 ふふっ……黄金の魔女だもの。


「得意げになるなよ……」

「さすがはエレノアさん、大物ですね」


 まあね!


「それでどうすんのよ?」

「とりあえず、フロンティア人に会って、取り調べを受けてくることだな。それで潔白を証明できるだろ」

「え? どうやって?」

「それは…………フロンティア人の不思議パワー?」


 なんじゃそりゃ?


「え? 適当言ってる?」

「いや、すまん。私も本部長もサツキ姉さんもフロンティア人に会ったこともないし、知らないから何とも言えないんだ」


 あー、サツキさんやヨシノさんが複雑そうにしてたのはそれか。


「逃げることは可能?」

「沖田君に戻って、一生、性転換ポーションを飲まなければいい。それで逃げれるだろ。もっとも、稼げなくなる。何しろ、逃げるってことはフロンティア人であることを認めることになるからな」


 そうなっちゃうね。

 さて、どうするか……

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