第168話 マナー(笑)
「せんぱーい、おはようございます……」
俺がクレアとの電話を終え、考え事をしていると、カエデちゃんがパジャマ姿のまま眠そうな顔でリビングにやってきた。
「おはよう。珍しくゆっくりだね」
「最近、忙しかったですからねー。というか、先輩の布団、気持ちよすぎでしょ」
俺が毎朝、苦しんでいる理由がわかったか?
「この家に住む際に新調した高いやつだからな。そんなに良いんだったら毎日寝てもいいぞ」
一緒に寝ようぜ!
「うーん、私も買おうかな……?」
スルーですか……
「買った方がいいよ。疲れが取れるし」
まあ、疲れが取れているのは回復ポーション健康法のおかげな気もするけど。
「そうしますかねー? ところで、先輩はなんでエレノアさんのままなんですか?」
カエデちゃんがちょこんと俺の隣に座る。
「ナナポンに聞け。あと、クレアと電話してた」
「クレアさん? 進展があったんですか?」
「調べてくれたんだけど、政府は何も知らないっぽい。ただギルドは何か知ってるっぽいね」
「ギルドですか……もしかしたら日本のギルドじゃないかもですね」
日本じゃない?
「どういうこと?」
「ギルドって世界中の国々にありますし、世界的に独立した組織なんですよ。多分、どっかの国のギルドで出た話じゃないですかね? それが漏れた」
「え? じゃあ、マジで俺の身柄要求があったってこと?」
「それはわかりません。とにかく、サツキさんに聞いてみましょうよ。何かわかったかもしれないし」
そうするか……
「電話するけど、ナナポンが風呂から上がったらお前も入っていいぞ」
「いや、待ってますよ」
いい子。
好き。
「じゃあ、電話するわ」
俺はスマホを操作し、サツキさんに電話をかける。
「どうでもいいですけど、エレノアさんなんですね」
スマホから呼び出し音が鳴り出すと、カエデちゃんがツッコんできた。
「ナナポンがうるせーんだもん…………あ、もしもし、サツキさん?」
俺はカエデちゃんに返事を返していると、呼び出し音が止んだので慌てて声をかけた。
『ん? ああ、エレノアの方か?』
「ナナカさんが来ててね。昨日のオークションを一緒に見てたんだけど、遅くなっちゃったから泊まらせたのよ」
『あー、なるほど。結構な値段で落札されたな』
「そうね。1がいっぱい並んでた」
なんだあれ?
『1円で勝つためのものだな。まあ、あんまり意味ないけど。ゲン担ぎみたいなものだ』
ああ……1000円より1001円、1110円より1111円という発想か……
「まあ、売れるならなんでもいいわ。売買はよろしくね」
『任せておけ』
オークションのことはサツキさんに任せておけばいいだろう。
「それでなんだけど、例の件はどうなってるの?」
『それな。うーん、何と言っていいのやら…………』
「クレアに聞いたんだけど、政府は関知してないそうね? ギルドが知ってるって」
『クレアに聞いたのか…………なあ、お前、何かしたか?』
何か?
「何もしてないわよ。どっかの大統領さんを買収しただけ」
『それでか…………対応やら何やらで政府とギルドはてんやわんやだよ』
ごめん…………
「使えるものは何でも使おうと思って」
『そうだな。それが良いと思う。おかげで私は昨日寝てない』
ひえ……
「回復ポーション飲みな。いくらでもあるし」
『栄養ドリンク代わりに飲むか…………』
高い栄養ドリンクだわ。
「それでどうなのよ?」
『すまん。私は昨日のオークションこともあるし、対応に追われている。お前、今、家か?』
「そらね。あれから一歩も外に出てないわ」
『そうか……まあ、そうだろうな。今からヨシノを向かわせるからヨシノから話を聞いてくれ…………っと、すまん、別の電話が入った』
めっちゃ忙しそうだな。
「わかったわ。切るわ」
『ああ……』
サツキさんは元気がなさそうに電話を切った。
「大変そうだなー」
「ですね……」
サツキさんには悪いけど、頑張ってほしいもんだ。
「これからヨシノさんが来て説明してくれるんだってさ」
「みたいですね。先輩、先にお風呂に入って、着替えてください」
それもそうだな。
俺、ジャージだし、昨日、風呂に入ってないから髪の毛がひどいことになってそう。
「そうするか…………ナナポンはまだ風呂かな? 見てくるか」
「え?」
俺は歩いてリビングから出ると、風呂場に向かう。
そして、脱衣所の扉を開けようとした。
――ガンッ!
「ん? 鍵? ナナカさん?」
我が家の脱衣所はカエデちゃんが何故か鍵を取り付けたのだ。
「え!? エレノアさん? え? 今、開けようとしました?」
「ヨシノさんが来るらしいから早く上がりなさい」
「あ、もう上がって着替えているところですけど…………いや、開けようとしました?」
「早くしなさいね。人と会うのにお風呂に入ってないのは嫌だから」
マナーが大事。
「あのー、普通、ノックもせずに開けようとします? というか、鍵がなかったら見られてました?」
うるさいなー。
「待ってるからね」
「え? え? 無視?」
俺はナナポンを無視し、リビングに戻った。
そして、カエデちゃんが座っているソファーに座る。
「あいつ、鍵かけてやがった」
「先輩…………ひどすぎます」
冗談やんけ。
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