第167話 10時半は朝


「――ノアさん……エレノアさん」


 俺は誰かが呼ぶ声で目が覚めた。


「眠いよー」

「朝ですよ。起きてください」


 俺はうるせーなーと思いながらもカエデちゃんが起こしに来たんだなと思い、顔を声がした方に向けた。


「ん? ナナポンじゃん。俺のカエデちゃんは?」

「あなたの朝倉さんはまだ寝てます」

「じゃあ、俺も寝る……おやすみ」


 カエデちゃんが寝てるのに起こすなよな…………


「あの、電話が鳴ってますよ。相手はクレアさんです」


 クレア?

 あ、クレア!


「マジ?」


 俺はすぐに起き上がると、ナナポンを見る。

 ナナポンは髪の毛のあちこちが跳ねており、こいつも起きたばっかりのことがわかる。


「マジです。私もさっき起きたんですけど、エレノアさんのスマホがずっとぴかぴか光ってますよ」


 俺はそう言われて、目の前に置かれたローテーブルの上にあるエレノアさん用のスマホを見ると、確かに画面が光っており、その画面にはクレアの名前があった。


「ホントだ。出るか…………ナナポン、お前は風呂でも入ってこい。昨日、入ってないだろ」

「あなた達もでしょ…………じゃあ、入らせてもらいます。あと、電話に出る時は口調をエレノアさんモードに戻してくださいね」


 あー、完全に寝ぼけてるわ。

 しかし、戻すってなんだよ……


「わかった。あ、ついでにカエデちゃんを起こしておいて…………いや、やっぱいいわ。俺が起こす」


 カエデちゃんは鍵のかかっていない俺の部屋で寝てる。

 俺が起こしてあげよう。


「…………私が起こしますから電話に出てください。大事な話でしょ」


 チッ!

 ナナポンのくせに。


「はいはい。入浴剤なり、シャンプーなりは勝手に使っていいからね」

「ありがとうございます」


 ナナポンは礼を言うと、リビングから出ていった。

 俺はナナポンが出たことを確認すると、通話ボタンを押す。


『あ、やっと出た』


 クレアの声だ。


「あなた、何時だと思ってんのよ」


 俺は苦言を呈する。


『10時半ね。文句を言われる時間ではないと思うわよ?』


 あれ?

 もうそんな時間?

 ナナポンのくせに早起きだなと思ったが、十分に遅かったわ。


「ごめんなさい。寝てたわ」

『でしょうね。声がガラガラだもの』


 酒のせいだな。


「昨日、遅くまでオークションのお祝いをしてたのよ」


 寝たのは2時くらいかな?


『あなたって余裕があるのね…………』

「1憶を超えたからね。そら、嬉しいわよ」

『良かったわねー。また、そのことで次の商売の話をしたいわ』

「そうね。それはまた今度。今は違うことが大事」


 今大事なのは例の身柄要求だ。


『その件で電話したのよ』

「何かわかったの?」

『まずなんだけど、あなたに言われた通りにプレジデントに伝えたわ』


 あ、マジで伝えたんだ。


「なんて?」

『レベル3の回復ポーションと2000キロのアイテム袋にものすごく食いついたわよ。そんでもって、本当に日本政府に圧力をかけた。そっちの首相に直で電話したわ』


 首相さん、ごめんね。


「で?」

『結論から言うと、日本政府はまったく関知してない。寝耳に水で対応に追われているみたいよ』


 政府が知らない?


「それ、もうフェイクニュースで当たりじゃない?」

『それがそうとも言い切れないのよ』

「何かあるの?」

『プレジデントはよほど嬉しかったのね。ついでにギルドにも圧力をかけたのよ』


 働き者だねー。

 おまけで翻訳ポーションもつけてやろう。


「ギルドはどうだったの?」

『今はまだ言えないって言葉を濁したみたいよ』


 今はまだ言えないって…………

 後で言うことがあるってことかよ。


「え? ホントに要請が来てるの?」

『それはわからないけど、ギルドが何らかのことを知ってるのは事実ね。私達が調べられるのはここまで。あとはそちらの伝手でやってちょうだい』


 サツキさんとヨシノさんか…………

 ギルドなんだからそうなるか。


「わかったわ。後はこっちで探ってみる。ありがとう。今度会った時にプレジデントにクリスマスプレゼントを用意しておくから渡しておいて」

『喜ぶと思うわ。何せ、1000キロのアイテム袋がオークションに出された時に絶対に落札しろって命令を出したくらいだからね』


 マジかよ……

 そして、落札に失敗してるし……


「いい子にしてたら来年もサンタさんが来るよって言っておいて」

『あなた、魔女じゃないの』


 まあね。

 髭のおっさんではない。


「どっちも怪しい点では一緒よ。あなたもありがとうね」

『別にいいわよ。大口の客を失うわけにはいかないもの』


 確信した。

 少なくとも、こいつは護衛の仕事を完全に忘れている。

 商売のことしか頭にないわ。


「何かわかったら連絡するわ」

『お願い。じゃあ、切るわよ』

「はいはい。おやすみなさい」

『二度寝すんな』


 クレアは笑いながらそう言うと、電話を切った。


「うーん、ギルドか……」


 俺は電話を終えると、ソファーに背中を預け、天井を見ながら考える。


 ギルドが何かを知っている?

 となると、ヨシノさん経由で本部長に聞くか、サツキさんに聞くか……

 うーん、まずはサツキさんに聞くか。

 サツキさんも探ってくれてるだろうし。

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