第163話 え?


 サツキさんはナナポンの金の延べ棒を叩いたり、さすったりしている。

 ナナポンは金の延べ棒を取り返そうと、必死に手を伸ばしているが、小さくて非力なナナポンは簡単にサツキさんに抑えられてしまっていた。


「返してくださいよー」

「まあ、待て」


 おもちゃを取られた子供みたいだ。


「終わったわよー」


 俺はそう言いながらカエデちゃんと共にはサツキさんとナナポンの対面に座った。


「ご苦労さん。本物の金だったな。いやー、すごい。これは10キロはあるか?」

「重いし、そのくらいかもね」

「50本だったな。500キロの金か…………すごいな、おい!」


 サツキさんが興奮している。


「まあね。内5本はヨシノさんにあげた。ナナカさんも5本ね。私は40本」

「うんうん。早速だが、見せてくれ」


 サツキさんにそう言われたので床に40本の金の延べ棒を山のように積み上げていく。


「すごーい!」

「まぶしいなー。これが金の輝きか!」


 40本の金の延べ棒を目の当たりにしたカエデちゃんとサツキさんは目を輝かしている。


「サツキさんに1本あげるからそれはナナカさんに返しなさいよ」


 可哀想だろ。


「そうか? じゃあ、もらおう」


 サツキさんは嬉しそうに金の延べ棒を手に取ると、眺め始めた。

 ナナポンは返してもらった金の延べ棒をすぐにうさぎさんリュックに入れる。


「色々と大変だったわ」

「話は大まかにナナポンから聞いたな。まあ、そういうこともあるかもなとは思っていた」


 自衛隊が俺の金の延べ棒を奪おうとしたことだ。


「そうなの?」

「金は人を狂わせるからな」


 そりゃわかる。


「まあ、いいでしょ。殉職した4人は可哀想だとは思うけど、私の知ったことではないわ」


 それは自衛隊の問題であり、ちゃんと言われた仕事をした俺には関係ない。


「まあな。それよりもどうする? 売るか? 正直な話、金はそれだけで資産だから売らない方がいいぞ」


 金の値段は年々上がっているって聞くしなー。


「でも、売らないとダメでしょ。そういう約束だったじゃない。本部長さんが怒るわよ」

「数本売ればいいだろ。別に全部売らなくてもいい。全部売るとは約束してない」

「あれ? そうだっけ?」


 そういう話じゃなかった?


「今回の調査で得たものはギルドに売るかオークションに出すって約束だ。時期は指定してない。持ってて、売る時はギルドに売ればいい。というか、推定400キロの金を買い取る金を急には用意できんだろ」


 そうかも。

 いくらで売れるかはわからないが、10億は超えそうだ。


「なるほど」

「ああ、だから普通に資産として持っとけ」

「了解。じゃあ、10本ほど売るから本部長さんにそう伝えておいて」


 100キロも売れば本部長さんも文句は言わんだろ。


「わかった」

「それと緊急依頼のことは内緒ね」

「そうだな。これは持っておくカードだ。そう簡単に切るべきではない」


 発想が従妹と一緒だわ。


「そうね。それとキラキラ草を買い集めてちょうだい」

「キラキラ草? 強化ポーションの素材だったか? なんでだ?」

「建物の中や地下の壁が電灯みたいに光ってたんだけど、その塗料の名前がキラキラ塗料なのよ。大事な材料だし、奪われたくない」


 攻撃力が上がるポーションがいるかと言われると微妙だけど、ストックは欲しい。


「ふーん、まあいいぞ。カエデ、頼む」

「了解です!」


 カエデちゃんが敬礼をする。


「こんなものね。後は地図を売った」

「まあ、それがメインの仕事だしな」

「楽なものよ。雑魚ばっかりだったし」


 あそこはホントに骨ばっかりだ。


「雑魚でしたか? ジャイアントスケルトンはめちゃくちゃ強そうに見えましたけど?」


 俺の戦いを見ていたナナポンが首を傾げた。


「でかくて速くて力が強いだけの骨よ」

「でかくて速くて力が強いのは普通に強いのでは?」


 まあね。


「動きが丸見えだもん。雑魚よ、雑魚。ヨシノさんだってそう思ってたわよ。じゃなきゃ助けに来る」


 ヨシノさんはアドバイスこそくれたが、動く気配はまったくなかった。


「へー。私は勝てるイメージがまったく沸きませんでした」

「そりゃ、あなたはそうよ。魔法使いじゃないの」


 勝てるわけねーじゃん。


「うーん、あなたがすごいのはわかるんですけど、何故、素直に称賛できないんでしょうかね?」


 知るか。

 しろや。


「そりゃ、この男の言葉の端々から自分はすごい、自分以外は雑魚、的なニュアンスを感じるからだろ」


 おい!


「あー、それだ!」


 おい!


「……………………」


 カエデちゃん、何か言え。

 フォローしろ!


「もういいわ。帰る」


 ふんだ!


「お疲れさん。来週にはオークションが終わるし、それまではゆっくり休め」

「そうするわよ。あ、即決の話は聞いた?」


 昨日の夜にレベル3の回復ポーションをミネルヴァとかいう組織に売ったことをサツキさんに伝えるようにカエデちゃんにお願いしたのだ。


「カエデから聞いたな。怪しい組織なんだって? 気を付けろよ。スキャンダルでお前と一緒に記者会見するのは嫌だ」

「私も嫌よ。まあ、大丈夫。今度からはクレアに任せるから」

「お前ら、仲いいな」

「いい加減、天ぷら食べたいってハリーに不満を持っている同好会よ」


 別にラーメンは嫌いじゃないが、毎回はない。

 クレアも寿司と天ぷらを食べたいって言ってる。


「いつもネットに上がってるもんな。ラーメン魔女な」


 だっせぇ……


「ひどいわね、それ…………まあいいわ。今度は天ぷら屋さんに行くから。じゃあ、私は帰る。金の延べ棒を10本置いて帰るから売るなりしといて」

「了解。売却額が決まったら連絡する」

「お願い」


 俺は金の延べ棒を10本残し、残りをカバンに収納すると、家に帰ることにした。

 カエデちゃんを待って、一緒に帰ってもいいが、時刻はまだ4時前なため、さすがに待つのはやめる。


 俺はいつものように裏口から出ると、誰もいない場所で透明化ポーションを飲んだ。

 そして、沖田君に戻り、家に帰った。


 家に帰ると、当然、誰もいないため、ソファーに座り、テレビを見ながらカエデちゃんの帰りを待つ。


「そういえばレベルが上がったかもしれない」


 俺は何体かの八腕スケルトンとジャイアントスケルトンを倒している。

 もしかしたらレベルが上がっている可能性がある。


「どれどれ…………おっ! 上がってる!」




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名前 エレノア・オーシャン

レベル11

ジョブ 剣士

スキル

 ≪剣術lv6≫

 ≪話術lv1≫

 ≪挑発lv3≫

 ≪気配察知lv1≫

☆≪錬金術≫

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レベル11

  回復ポーションlv1、性転換ポーション

  眠り薬、純水

  翻訳ポーション、アイテム袋

  透明化ポーション、鑑定メガネ、鑑定コンタクト

  回復ポーションlv2、強化ポーション(力)

  強化ポーション(速)、強化ポーション(防)

  オートマップ、回復ポーションlv3

  生命の水、キュアポーション

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「キュアポーション?」


 キュアってなんだ?


「あー、病気が治るのね」


 回復ポーションでも治るんじゃないのかね?

 でもまあ、どのレベルの病気が治るのはかはわからないが、風邪を引いたら飲めばいいのだろう。

 インフルエンザにも効きそうだ。


「冒険というよりかは日常生活用だな。えーっと、材料はっと…………」


 材料は回復ポーションと回復ポーションらしい。


「ん? えーっと、あー、そういうことか…………」


 キュアポーションにもレベルがある。

 つまり、レベル1の回復ポーションを2個使えば、レベル1のキュアポーションができて、レベル3の回復ポーションを2個使えば、レベル3のキュアポーションができるらしい。

 なお、レベル1の回復ポーションとレベル3の回復ポーションを使うと、レベル2のキュアポーションができることはなく、レベル1のキュアポーションができるっぽい。


「これはすぐに作れるし、ストックを用意しておくか…………」


 しかし、これ売れるか?

 回復ポーションは飲料水らしいけど、キュアポーションは薬じゃね?


「サツキさんに相談だな」


 俺が売るのは難しいかもなーと思っていると、テレビからピンコーン、ピンコーンという大きな音が聞こえてきた。


「緊急速報?」


 地震でもあったか?


 俺は何だろうと思いながらテレビの上の文字を読む。




【フロンティア政府がエレノア・オーシャン氏の身柄を引き渡すように要求していることが判明】




 …………よし! 引退しよう!

 皆さん、さようなら!

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