第162話 しゅーりょー


 ジャイアントスケルトンとかいう雑魚門番を倒した俺は部屋の奥に積み重なって置いてある金の延べ棒のもとに行く。


「ふへへ」


 積み重なった金の延べ棒の前に来ると、ヨシノさんが下品な声を出した。


「落ち着きなさい。大事なのはここから」


 俺は品のないヨシノさんを諫めると、金の延べ棒を1つ手に取った。


「重っ!」


 金の延べ棒は見た目よりもずっと重かった。


「幸せの重みだなー。へへ」

「あなたはそのだらしない顔をなんとかしなさいっての。まだわかんないんだから」

「わ、わかってる!」


 俺は再度、ヨシノさんを諫めると、金の延べ棒をじーっと見ながら鑑定をする。


【金のインゴット】


 鑑定の結果、これは偽物ではなく本物だった。


「ヨシノさん、だらしなくしてもいいわよ。本物の金ね」

「やった! 本物だ! ばんざーい!」


 ヨシノさんが子供のようにはしゃぐ。


「え? 何です? 本物でしたか!?」


 ヨシノさんの反応を見たナナポンが走ってこちらにやってきた。


「本物よ。本物の金の延べ棒が……えーっと………………50本あるわね」

「50!? いくらになるんでしょう?」


 知らない。

 金が高いのは知っているが、いくらかは知らない。


「帰って調べてみましょう。あなた達の取り分は10パーセントだから5本ね」

「5本!? すごい!」

「飾ろうっと!」


 ナナポンとヨシノさんはニヤニヤしながら金の延べ棒をカバンに収納していく。

 ヨシノさんは俺と同じ肩にかけるタイプだが、ナナポンは背中のうさぎさんだ。

 ナナポンがリュックを下ろし、金の延べ棒を収納していると、心なしかうさぎさんも嬉しそうな顔をしているように見えた。


 俺も嬉しそうな2人と1羽(?)に倣って、40本の金の延べ棒をカバンに入れていく。


「嬉しそうなところをすまんが、ちょっといいか?」


 俺がニヤニヤしながら金の延べ棒をカバンに入れていると、後ろから柳さんの声が聞こえた。


「何よ? 奪う気だったらかかってらっしゃい。なます切りにしてあげる」

「奪わんわ。回収した仲間の隊員証を渡してくれないか?」


 あ、忘れてた。


 俺は金の延べ棒の回収を一旦止めると、カバンから4つの手帳を取り出した。


「はい、これ」

「ああ、すまん」


 俺が隊員証を渡すと、柳さんと前田さんが一つずつ確認していく。

 だが、確認するにつれ、その表情が暗くなっていくのがわかった。


「合ってた?」

「ああ、先行した者たちのもので間違いない。おそらく、あのジャイアントスケルトンにやられたんだろう」

「ジャイアントスケルトンはあんなに速くないし、頑丈でもないってヨシノさんが言ってたわね?」

「そうだ。あの個体は異常な強さだった」


 そうか? 雑魚じゃん…………とは言えない。

 そんな雰囲気ではないのだ。


「多分、その認識があったから奇襲をかけられたのね」

「そうだろうな。ジャイアントスケルトンは遅いという先入観で対応が遅れたんだと思う」


 俺は初見だからまったく慌てることはなかった。

 知らないからそういうモンスターなんだろうと思っただけだもん。


「お気の毒ね」

「こういう仕事さ。まあ、君らもだけどな」


 まあね。

 自衛隊も冒険者もモンスターと戦う危険な仕事だ。

 両者ともに毎年、少なくない犠牲者を出している。


「ここで終点だし、地図は出来たわ。帰還しましょう。あ、でも、ちょっと待ってなさいね。回収がまだだから」


 俺は急いで金の延べ棒をカバンに収納していく。


「時間はある。ゆっくりでいいぞ」


 そうするよ。


「エレノア、手伝ってやろうか?」


 黙れ、ヨシノ!

 絶対に自分の懐に入れる気だろ!

 お前はおっぱいがデカすぎて入らねーよ!




 ◆◇◆




 金の延べ棒を回収し終えた俺達は来た道を引き返し、建物まで戻った。

 そして、待っていた三浦さんと合流すると、建物を出て、梯子を昇る。


「はい、これが地下遺跡の地図。あの開かなかったドアの向こうはさすがに無理だけど、地下の地下までちゃんと描いてあるわよ」


 俺は上に上がると、柳さんに地図を渡した。

 柳さんは地図を受け取ると、その場で確認しだす。


「…………確かに。では、これと緊急依頼の代金は後日渡そう。緊急依頼はともかく、地図は精査とかで時間をもらうと思うが、支払いは別々がいいか?」

「振込よね?」


 防衛省に取りに来いとか嫌だぞ。

 絶対にお偉いさんが絡んでくるじゃん。


「そうなると思う」

「じゃあ、別々で良いわ」

「了解した。詳細な明細書なんかの書類を郵送したいんだが、どこに送ればいい?」


 家はマズいな。


「池袋のギルドに送ってちょうだい」

「うーん……わかった。そう報告しておく」


 微妙っぽいな。

 まあ、今回の事はギルドに隠すって言ってたしな。

 サツキさんにはチクるけど。


「よろしく! じゃあね。疲れたし、帰るわ」

「ああ、ご苦労だった。また何かあれば頼むかもしれん」

「黄金があれば行くわ」


 私は黄金の魔女なのよ!

 はーっはっはー!


 仕事を終えた俺達はギルドに帰還することにし、建物を出た。

 地下も明るかったが、やはり外の方が気持ちがいい。


「今日は解散でいいかな?」


 外に出て、少し歩くと、ヨシノさんが聞いてくる。


「そうね。私とナナカさんはサツキさんに報告するけど、ヨシノさんはどうする?」

「私も本部長に報告だな」


 あー、そっちも報告があるのか。


「緊急依頼は黙っておくんじゃないの?」

「それは黙っておく。まあ、仕事が終わったことと金の延べ棒があったことの報告だな」

「あなたの取り分も報告するの?」

「するわけないだろう?」


 だろうね。


「了解。今度、打ち上げでもしましょうよ。奢ってあげるから」


 割り勘にすると、ファミレスになりそうだ。


「そうだな。また連絡をくれ。じゃあ、ナナポンを連れて先に帰るよ」

「お願い。ナナカさん、先にサツキさんの所で待ってて」

「わかりました。早く来てくださいね」

「そうするわ」


 この前みたいにラブレターをもらいたくないし。


「じゃあな」

「はい、お疲れ様」


 俺は先に帰っていくヨシノさんとナナポンに手を振ると、近くの建物裏に行き、フワフワ草の採取を始めた。

 そして、5分くらい経ったのでゲートに向かう。


 今は土曜の3時なため、すれ違う冒険者が多かったが、特に絡まれることなくゲート前の広場までやってきた。

 ゲート前の広場もやはり人が多かったが、そのまま足早に広場を抜けると、ゲートをくぐり、帰還する。

 そして、ギルドに戻ると、カエデちゃんがいる受付に向かった。


「ただいま」

「おかえりなさい。奥で支部長が待ってます。こちらです」


 俺がカエデちゃんに声をかけると、カエデちゃんはすぐに立ち上がり、受付の端に向かった。


 うーん、今はエレノアさんだからあまり話が出来ないのは仕方がないけど、あっさりすぎじゃない?


 俺がちょっと悲しみながらも受付の中に入り、奥にあるサツキさんの部屋に向かっていると、カエデちゃんが身体を寄せてきた。


「…………へへ、早く金の延べ棒を見せてくださいよぅ」


 カエデちゃんが小声でいやらしい声を出す。


 どうやらあっさりしていた原因は早く金の延べ棒が見たかったかららしい。


「…………すげーぞ。めっちゃ重い」

「…………素晴らしいですね」


 カエデちゃんはめっちゃニヤニヤしている。

 カエデちゃんが笑っていると、俺も自然と口角が緩む気がした。

 これが夫婦の愛だと思う。


 俺達がサツキさんの部屋の前に来ると、カエデちゃんが扉をノックする。


「支部長、エレノアさんが帰還されました」

「おう! 入れ、入れ!」


 扉の向こうからご機嫌なサツキさんの声がした。


 俺達もご機嫌で部屋の中に入ると、俺があげた鑑定メガネをかけたサツキさんが金の延べ棒を手に持って見ていた。

 その隣にはナナポンが座っているが、金の延べ棒を返してほしそうに手を伸ばしている。

 そして、サツキさんはそんなナナポンの顔を手で抑えていた。


 いや、返してやれ。

 すげー可哀想な絵面になってるぞ。

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