第156話 何にもねーじゃん


 梯子を降りた俺は周囲を見渡す。


「やっぱりちょっと明るいな……」


 周囲を見渡していると、その理由がわかった。

 建物がある空洞の方向がこの前来た時より明るいのだ。

 おそらく、昨日の調査で自衛隊が光源のスイッチを見つけたのだろう。


 俺は少し明るいため、梯子を見上げてみた。

 すると、他の4人が続々と慎重に梯子を降りてきているのが見える。


 あのうさぎはナナポンだな……

 わかりやすい。

 それにこの明るさなら下から見上げたら俺のローブの中身が見えるわ。


 俺は皆が降りてくる様子を見ていると、4人が無事に梯子から降りてきた。


「この前より明るいな」


 ヨシノさんが周囲を見渡しながらつぶやく。


「ああ、昨日の調査でスイッチを見つけたんだ。だが、この洞窟にはスイッチがなかった。だからこの洞窟は暗いままだ」


 柳さんが説明してくれる。


 うーん……

 まあ、あっちの空洞の光量である程度は見えるからいいのかな?


「なるほど。ここはシェルターみたいなところなんだな」


 ヨシノさんが頷きながら言う。


「と言いますと?」


 よくわかってないナナポンがヨシノさんに聞く。


「ここは戦時とかの危機に王族とかが避難する場所なんだよ。隠してあるからこの洞窟には灯りがないんだ。ここが明るかったら上から見えるからな」

「なんで王族?」

「建物の規模だな。住民が避難するには狭い。だが、一家族が避難するには広すぎる」


 あと、金の延べ棒があるからだな。


「なるほどー」


 俺もそんな気がする。

 最初は宗教関係の施設かと思っていたが、それにしては祭壇みたいな偶像がない。

 施設と言うよりは屋敷だ。


「実は我々もそうではないかと思っている。まだ2階を調査していないからなんとも言えんが、もしかしたら別の出入口があるのではないかと予想している」


 自衛隊もヨシノさんと同様の考えなようだ。


「あるとしたら2階か地下ね」


 どっちかに地上に繋がる別の道があるのだろう。

 さすがにここまでのものを作っておいて袋のネズミになるようなことはしないと思う。


「だと思う。それで注意してほしいのだが、その脱出口の先がフロンティアから許可を得たエリアかどうかがわからん。地図を作るために先行してもらっているが、あまり気軽に進まないでくれ。下手をすると、条約を破ることになるかもしれん」

「大丈夫でしょ。フロンティアは地下遺跡を好きにしていいって言ったんでしょ?」


 確かそう聞いている。


「まあ、そうだが、念の為だ」


 慎重くらいがちょうどいいか……


「了解。じゃあ、2階の調査を始めましょう」


 俺はそう言うと、ナナポンを連れて、明るくなっている洞窟の先を目指し、歩き出した。

 他の3人も俺とナナポンに続き、歩き出す。


 俺がどんどんと歩いていくと、徐々に視界が明るくなっていき、ついには洞窟を抜け、建物がある大きな空洞に出てきた。


「明るいわねー。昼間みたい」


 一昨日来た時は自衛隊が設置したライトだけだったため、部分的にしか明るくなかったが、今は空洞や建物全体がはっきりと見えている。


「明るいだろう? ここもあの建物の中と同様に壁全体が光っているんだ。これを見てくれ」


 柳さんはそう言って、石壁のとある部分を指差す。

 そこは何かで砕いたように少しだけ石壁が削れていた。


「ハンマーか何かで砕いたの?」

「そうだ。さすがに建物の壁は壊せんからな。この石壁を砕いてみたんだ」

「ふーん、光ってないわね」


 周りの砕かれてない石壁は光っているのに砕かれた部分の穴は光ってなかった。


「多分、何かの塗料が塗ってあるんだと思う。それが光っている」


 壁が光っているのではなく、蛍光塗料みたいなものが光っているのか……


「それは調べたの?」

「今、調べているところだ。まあ、何もわからんかもしれん」

「ふーん……」


 俺は光っているカベをじーっと見ながら鑑定してみる。


【キラキラ塗料】


 文字通り、キラキラネームだな……

 いや、キラキラ…………

 チッ! 原料はキラキラ草か。


 光っている成分はおそらくキラキラ草から抽出した何かだろう。

 もしくは錬金術で作っている。


 いずれ作れるようになるのか?

 それとも…………うーん、わからん。

 だが、わかっていることが一つある。


 この塗料にキラキラ草が関係しているということは鑑定をすればわかる。

 つまり自衛隊というか、国もいずれその結論に至る。


 マズいな……

 キラキラ草が高騰する可能性がある。

 キラキラ草は強化ポーション(力)の材料だ。

 高騰されるのも嫌だし、数が採れなくなるのも困る。


 帰ったら金に糸目はつけず、採取依頼を出してもらうようにカエデちゃんに頼むか……

 今ならそこまで高騰せずに採取してもらえるだろう。

 

「エレノア、どうかしたか?」


 俺が壁をじーっと見たまま黙っているので不審に思ったであろうヨシノさんが聞いてくる。


「別に……柳さん、これを削ったのは昨日よね?」

「そうだな。昨日、この辺りを調査した時に削って採取した」


 まだ鑑定はしていないのか?

 いや、してるか……

 自衛隊も政府も腰が重いからすぐに買い占めには動かないと思うし、俺が動く方が早いかな?

 最悪はクレアに頼むのもいいかもしれん。

 アメリカが借りているエリアにキラキラ草が生えているかはわからないが、別のルートがあるかもしれない。


「了解。まあいいわ。行きましょう」


 俺は不審に思っているであろう4人を無視し、建物に向かった。

 建物までやってくると、扉を開け、建物の中に入る。


 建物の中はすでに明るかった。


「あら? 明るいわね」


 この前は切って帰ったはずなんだけど。


「朝まで壁の調査をしていたからな。多分、建物の壁も調査したんだろう。さすがに削れんがな」


 ふーん……

 調査ねー……


「そう。じゃあ、2階に上がりましょうか」


 俺は少し気になったが、ナナポンが特に反応しないため、保留することにした。


 俺達が2階に上がると、ちょうど1階にある左右の通路の上に通路があることがわかった。


「1階と同じ構造かしら?」

「さあ? 行ってみましょう」


 俺はナナポンにそう急かされたのでまずは右の通路に行ってみる。

 すると、通路は10メートル程度しかなく、扉が一つあるだけだった。


「あら、これだけ?」

「みたいですね」


 ナナポンがそう言うなら本当に部屋が一つだけなんだろう。


 俺はそのまま通路を進んでいくと、扉を開いた。

 部屋の中はこれまでの10畳程度の部屋ではなく、その倍以上はある広い部屋だった。

 だが、相変わらず、白い壁だけで何もない。


「何もないわね」

「さっきのヨシノさんの予想が正解ならここが王様の部屋でしょうか?」


 そうかもしれない。

 広いし。


「その可能性はあるわね。でも、何もないわ。つまんない」

「じゃあ、今度はあっち側に行ってみますか……ふっ」


 ナナポンが自虐的に笑った。


 こりゃ、向こうも一緒か……

 まあ、何かあれば事前に教えてくれるだろうからなー。


「じゃあ、今度はあっちね」


 俺は部屋を出ると、左側の通路に向かう。

 左側の通路も右側と同様に10メートル程度しかなく、扉が一つあるだけだった。

 そして、そのまま部屋に入ると、こちらの部屋も広かったが、何もなかった。


「2階はショボいわね。脱出口とやらもなさそう」


 俺は部屋を見渡しながら言う。


「ですね。どうします? 思ったより早く2階の調査が終わっちゃいましたけど」


 うーん、どうしよう?


「柳さん、どうする? 早めのご飯にする? それとも地下に行く?」


 俺は柳さんに確認することにした。


「地下に灯りがあるかはわからんし、早めの昼食にするか……一旦、建物の外に出よう。ここはスケルトンが出るからな」


 昼食は外か……

 食事中にスケルトンが出たら面倒だし、それがいいわな。


「わかったわ。一度、出ましょう」


 俺達は早めの昼食にすることにし、1階に下りると、建物を出た。


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