第157話 休憩


 俺達は昼食のために一旦、建物を出た。


「ん?」


 俺が先に出ると、外に迷彩服を着た自衛隊の人が1人で待っていた。

 というか、上で警備してた人だ。


「何よ?」


 俺は建物から出てきた俺を見ている自衛隊員に聞く。


「柳さんはいるか?」

「柳さん? 柳さーん! お仲間が来てるわよー!」


 俺はまだ建物の中にいる柳さんに声をかけた。


「何?」


 柳さんは俺の呼び声を聞いて、慌てて外に出てくる。


「三浦か? 何だ?」


 この人は三浦さんという名前らしい。


「隊長がお呼びです」

「隊長が? 今、調査中なんだが……」


 柳さんがチラッと俺達を見た。


「すぐに済むとのことです」

「うーむ、すまんが、少し外してもいいか?」


 柳さんが聞いてくる。


「どうぞ。どっちみち、昼食タイムじゃないの」

「それもそうだな。わかった。じゃあ、君達はここで食事にしてくれ。私達は少し外す。前田」

「はっ」


 柳さんが前田さんに指示を出すと、前田さんがカバンか折りたたみのテーブルと椅子を出した。


「どうぞ、使ってください」


 テーブルと椅子の設置を終えた前田さんが勧めてくる。


「あら、気が利くのね。ド変態のくせに」

「それ、やめてもらえません? 変態じゃないですから」


 ユニークスキル持ちが何を言う?

 まあ、すげーブーメランなんだけども……


「何のことかわからんが、30分もかからないと思うから先に食べててくれ。前田、行くぞ」

「はっ!」


 柳さんと前田さんは三浦さんと共に上に上がってしまった。


「よくわからないけど、ご飯にしましょうか」


 俺は前田さんが設置してくれたテーブルにつく。

 すると、ナナポンが俺の隣に座り、ヨシノさんが対面に座った。

 そして、各々が用意してきたご飯を食べだす。


「何なんでしょうね?」


 ナナポンがサンドイッチを頬張りながら聞いてくる。


「さあ? やることが多いんでしょうよ」


 自衛隊は大変なんだろう。


「なあ、そんなことより、今日のお前らが私を蔑むような目で見てくるのはなんでだ?」


 ヨシノさんがきれいな三角おにぎりを食べながらジト目で聞いてきた。


「ふふっ、あなたがユニークって話よ」

「ミス・ユニークです」

「は? どういう意味だ? 君達に言われたくないんだが」


 俺もあんたには言われたくない。


「ユニークスキルを持っている人間は皆、個性的な性格をしてるっぽいって話」

「………………ホントだ」


 ヨシノさんが俺とナナポンを交互に見ながら頷く。


「鏡を持ってくれば良かったわ」


 ミス・ユニークのくせに。


「私は三枝さんよりかはマシです」

「いや、そんなことはないと思うぞー」


 ヨシノさんが人をバカにしたように笑う。


「あなたほどの個性的な人間がいる?」


 いねーよ。


「君だろ。まずその姿の時点でトップクラスだ」

「まあ、1位は決定でしょうね。2位が三枝さんです」


 エレノアさんのことは言わない約束なのにー。


「しかし、言われてみると、そんな気がするな。まったく気付かなかったが……」


 まあ、誰しもが自分はまともと思うからね。


「ハリーとクレアに聞いたんだけど、向こうは把握してるっぽいわね」

「なるほど…………しかし、これは本部長に報告しづらいな」


 まあ、私は変ですって自己紹介するようなもんだしな。

 多分、本部長さんもヨシノさんを見てすぐに納得するだろうけど。


「報告することがいっぱいあるし、軽く流しなさいよ」

「そうするかー……まず、この謎の明るさを説明するのが面倒だな」

「今のうちにスマホで撮っておきなさいよ。誰もいないし」

「そうするか……」


 ヨシノさんはスマホを取り出すと、辺りを写し始めた。

 そして、ある程度、写真を撮ると、最後に俺とナナポンにスマホを向ける。


 俺はなんとなくピースをするが、ナナポンがサッと顔を隠した。


「私はNGです!」

「別に誰にも見せんよ。ただの思い出だ」

「ホントですー?」

「ホント、ホント。というか、君はピースしか能がないのか? ネットで上がっているのも全部ピースだろ」


 俺はそう言われたのでピースサインを横向きにし、目の所に持っていき、ウィンクをした。


「うわっ……沖田君がやってると思うと、引く」

「殺すぞ、ヨゴレ!」


 お前がやれって言ったんだろうが!

 おっぱいしか長所のないヨゴレのくせに!


「ヨゴレって言うな。しかし、写真に撮っても明るいな」


 ヨシノさんがそう言って、撮影した写真を見せてくれる。

 写真に写っていたのはパリピな魔女とそれを横で若干、引きながら見ているナナポンだった。


「引くんじゃないわよ」


 俺はナナポンを睨む。


「似合ってなさすぎたもんで。エレノアさんって笑顔が似合いません。ぶきみ……怖いですもん」


 不気味っておい!

 やっぱり写真の時は笑わないようにしようかな。


「なあなあ、この光っている壁も物だから私達の物にならないかな?」


 ヨシノさんが変なことを言い出した。


「は? どういうこと?」

「この塗料かなんかを削って売れないかなって」


 さすがはミス・ユニーク。

 すげーユニークなことを言い出した。


「ヨシノさん、そういうところよ…………」

「さすがに無理がないです? というか、売れるんですかね?」


 微妙そう……


「無理かー」


 ヨシノさんが残念がっている。


「それで儲けたかったらキラキラ草を買い占めることね」

「ん? なんでキラキラ草? キラキラしてるからか?」

「さっき鑑定したら【キラキラ塗料】って出たわ。多分、キラキラ草ね」

「あー……君が長考してた時か…………君、鑑定を持っているんだね」


 あれ?

 鑑定メガネのことを言ってなかったっけ?


「そういうアイテムがあるのよ。私のカラコンがそう」

「…………そんなもんがあるんかい」

「あまり表に出せなくてね。カエデちゃんの職を奪っちゃうかもだし」

「あー、確かにそれが市場に出回れば鑑定士は君を恨むだろうね」


 鑑定士は高給取りだろう。

 だが、メガネで代用できるなら不要になる。

 クビにはならないだろうけど、給料は著しく下がりそうだ。


「出回るとしたらカエデちゃんが沖田君のところに永久就職する時ね。来年くらいかな?」


 いつにしようか?


「…………こいつこそユニークだよな。それも怖い方の」

「…………たまに恐ろしい発言をしますよね。前はカエデちゃんが俺の子供を産んでくれるって言ってました」

「うわっ……ヤバすぎ」


 2人でコソコソすんな。

 2人で引いてんじゃねーよ。


「冗談じゃないの」

「いや、あなた、絶対に本気ですよね」


 本気だけど。


「うるさいわねー。別に変じゃないでしょ。リンさんも似たようなことを言ってたわよ」


 子供が欲しいって言ってた。

 俺も欲しい。

 ほら、一緒や。


「前提がおかしいだろ。リンは普通に結婚してる」

「俺もそのうち、するわい」


 そう言ってんだろうが。


「もう何も言うまい。お幸せに……」

「ごしゅうしょ、おめでとうございます」


 ご愁傷様って言いたいのかな?


「いいからさっさと食べなさい!」

「食べますよー。そろそろ柳さんと前田さんが戻ってきそうですし」


 ナナポンが何もない壁を見上げた。


「前田さんのド変態ー」

「急に何を言い出すんですか……」

「聞こえてるかなって思って」

「まだですよ…………あ、今です」


 ナナポンが合図をくれた。


「あなたって、誰かに見られるかもしれないというスリルで性的快感を覚える変態さんなのよね? スマホを見せてごらんなさい。絶対に自分のヤバい写真ばっかりでしょ」

「ひっど…………」

「さすがに言いすぎですよ。そんなわけないじゃないですか」


 だって、絶対にそうだもん。

 じゃなきゃ、こんなところでイチャつかねーよ。


 その後、ちょっとすると、柳さんと前田さんが戻ってきた。


 残念ながら前田さんは『なんで知ってるんですか!?』と発言してしまい、ヨシノさんとナナポンに白い目で見られることになった。


 俺はユニークスキル持ちなことを絶対に言わないと心に決めた。

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