第155話 ユニーク!
俺はこの日、8時に目が覚めた。
俺的には早いのだが、当然、カエデちゃんはすでに出勤しているのでいない。
この日は10時に集合のため、9時過ぎには家を出ないといけない。
俺はカエデちゃんが用意してくれた朝食を食べ終えると、ランチボックスを持って、部屋に戻り、エレノアさんにチェンジする。
そして、着替え終え、すべての準備を終えると、タクシーでギルドに向かった。
ギルドの裏に着くと、裏口から入り、受付に向かう。
なお、今日は土曜日なため、そこそこ他の冒険者もいる。
「こんにちは。今日もクーナー遺跡ですか?」
すべてを知っているカエデちゃんが確認してくる。
「そうね。夕方には戻るわ」
「了解です。ちなみに、まだ時間はあるのでゆっくりでいいと思いますよ」
この言葉の意味するところはまだナナポンは来ていないということだ。
時刻はまだ9時40分だし、遅いと評判のヨシノさんと待ち合わせている以上、ゆっくりだろう。
「わかったわ。じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃいませー」
俺はカエデちゃんから武器を受け取ると、ゲートに向かった。
そして、ゲートをくぐると、クーナー遺跡にやってくる。
クーナー遺跡は土曜日なだけあって、いつもより人が多かった。
当然、俺に向けてくる視線も多く、うっとうしい。
俺はカエデちゃんにああ言われたが、さっさと行こうと思い、速足でゲート前の広場をあとにした。
さすがにゲート前を離れると人の数は減るが、それでもすれ違う冒険者は多い。
クーナー遺跡は相変わらずの人気だなー。
ナナポンとヨシノさんが絡まれないといいけど……
俺は巨乳とチビのコンビが心配になったが、俺が迎えにいくとさらにひどくなるのはわかっていたので、2人に任せ、地下遺跡に行ける集合場所に急いだ。
集合場所である建物までやってくると、この前と同じ自衛隊員2人が見張りをしていた。
「止まれ」
この前と同様に威圧的に命令される。
「それをやめなさいって言わなかった?」
「規則なんだよ……ステータスカードを頼む」
俺はしゃーないなーと思い、カバンからステータスカードを取り出し、名前以外を指で隠しながら見せた。
「確かに確認した」
ステータスカードを見た自衛隊が頷いた。
「はいはい。絶対にナナカさんにそんな態度はダメよ」
「やってない。あれ、何歳だ? 子供じゃないか」
子供に見えるらしい。
まあ、小さいうえに背中のうさぎがなー。
ガキんちょ感がすごい。
「一応、大学生よ。でも、子供ね」
「大学生? あれが? いやまあ、そういう子もいるか……」
「どっちみち未成年だから気を付けなさいね。最近の子はすぐにネットにつぶやくし」
「やめてほしいんだが、よくされるな」
だろうね。
「苦労するわねー。私も盗撮の嵐よ。ギルドはともかくゲート前がひどい。フロンティア内の撮影はダメじゃないの?」
ギルドもダメだけど。
「ハァ……報告して取り締まりを強化するように言っておく…………ったく、年末は忙しいってのに」
「お疲れ様。柳さんと前田さんは?」
「中で待機だ。行ってくれ」
自衛隊員が親指でクイッと建物の方を差したので俺は建物の中に入っていく。
建物の中ではこの前と同じように柳さんと前田さんが座って待っていた。
「こんにちは」
俺は挨拶をすると、前田さんの対面に座る。
「はい、こんにちは」
「早いな。10分前だ」
「まあね」
俺は適当に返事をすると、前田さんをじーっと見る。
「えっと、何でしょうか?」
ずーと見てくる俺に前田さんが困惑している。
うーん、普通の人にしか見えない。
でも、絶対にユニークなところがあるはずだ。
「あなた、人と比べて変だなーと思うところはない?」
「え? 変ですか? えーっと、背がちょっと高い?」
確かにこの人は女性にしては高い。
だが、バレーボール選手のように極端に高いわけではない。
「身体的なことじゃなくて、性格的なことね。落ちている食べ物を食べる趣味があるとか子犬を蹴るのが好きとか」
「それ、危ない人じゃないですか!? そんなことはしません!」
じゃあ、性癖だ。
きっとド変態だな。
でも、さすがにこれは追及できない。
セクハラにもほどがあるし、彼氏さんが目の前にいる。
「まあいいわ。早く来てごめんなさいね。邪魔だったでしょ?」
「え!?」
前田さんはそう言って、右手で首筋を抑えた。
「…………え?」
「え?」
何故に首筋を抑える…………
痕でもあるんですかね?
「ド変態で当たりか…………」
「ち、違います! 何もしてません!」
公務中ちゃうんか?
税金ちゃうんか?
さすがはユニークスキル持ち。
普通ではなかった。
「いいわ。私は何も見てないし、何も知らない。お幸せに…………」
これでユニークスキル持ちの共通点が確定した。
ユニークスキルは変な奴が持っている。
間違いない。
…………ちょっと傷つくな。
「あの、違うんですよ。ホントです」
前田さんが必死になっている。
「前田、静かにしろ」
「す、すみません……」
柳さんが真顔で窘めるが、首筋に何かをしたのはお前だろ。
何を自分は関係ないですよみたいな顔をしてんだ。
「こんにちは」
「やあ。今日は早めに来たぞ…………って、どうしたんだ?」
思ったよりも早めにやってきたナナポンとヨシノさんが挨拶をしてきた。
「こんにちは。なんでもないわよ」
俺は返事をすると、前田さんの様子を見て、首を傾げているヨシノさんをじーっと見る。
「ん? どうした? 私の顔に何かがついているか?」
この人は本当に言うまでもなく、ユニークだわな。
安い、せこい、ヨゴレ。
「ふっ…………なんでもないわよ」
「おい! 今、明らかに私を笑っただろ! ケンカを売ってるのか!?」
「安い挑発はやめてちょうだい。私は乗らないわよ」
挑発レベルが上がってしまう。
「いや、笑ったのは君だろ。しかも、憐れみを含んでいた!」
素晴らしい観察眼だ。
「なんでもないわよ。ナナカさん、一昨日の考察は当たりよ。全員、そうだったわ」
「でしたかー……あなたがその筆頭ですもんね」
ナナポンがうんうんと頷いているが、性別を変えている手前、否定しにくい。
「何の話だ?」
ヨシノさんはわかっていないようで首を傾げた。
「後で教えてあげるわ。それよりも揃ったわけだし、地下遺跡の調査を始めましょう」
「気になるなー。絶対にバカにされてるだろうし…………まあ、仕事を優先するか。柳さん、地下への階段の件はどうなった?」
ヨシノさんが無理やり納得した後、柳さんに尋ねる。
「ああ、地下の地図も作ってもらうことになった。とはいえ、先に2階をやらないか? 地下の広さがわからんし、もし明かりがない場合は危険だ。午前中に2階を調査し、昼食後に地下に行くのはどうだろうか?」
「良いと思う。エレノア、それでいいか?」
まあ、どっちみち2階の地図も作らないといけないわけだしね。
「いいわよ。暗いところでご飯は嫌だしね」
じごくのきしもいるし、ナナポンの安全のためにはその案でいいだろう。
「ナナポンもそれでいいか?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、決まりだ。柳さん、そういうわけで」
俺とナナポンの同意を得たヨシノさんは柳さんに向かって頷いた。
「よし! では早速、降りよう…………エレノア、行ってくれ」
柳さんは俺の服装を見て、レディーファーストを勧めてくる。
「まあ、そうなるわよね」
俺はしゃーないと思い、梯子に手をかけた。
「君、普通の格好で来れないの?」
「うっさい、普通じゃない女」
ミス・ユニークめ!
「どういう意味だ!?」
「まあまあ、三枝さん、落ち着いて」
ナナポンがニヤニヤしながらヨシノさんを宥める。
「ナナポンのその顔はなんだ?」
「普通ですよ」
仲間同士の親愛の顔だよ。
多分、ナナポンはこの人よりはマシだと思っているんだろうけど。
「君達、なんか変じゃないか?」
変って言うな!
「まったく……先に行くから早く来なさいね」
俺はそう言って、梯子を降り、暗闇の中に入っていった。
あれ?
でも、一昨日よりもちょっとだけ明るい気がするぞ?
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