第153話 裏取引
カエデちゃんとナナポンの3人で飲んだ後、2次会でカラオケに行き、楽しんだ後にタクシーでナナポンを送った後に帰宅した。
そして、翌日。
「せんぱーい、もう昼になっちゃいますよー」
カエデちゃんの声が聞こえる。
「あと、5分……」
俺は布団にもぐる。
「いや、もう11時ですよ?」
「あれー? カエデちゃん、仕事は? 辞めたん?」
「お休みですって」
そういやそうだ。
「起きるか……ねみー」
俺は掛布団をどかし、上半身を起こした。
「あれ? カエデちゃんがパジャマじゃない」
普通に着替えてるし、髪もちゃんとセットしてある。
「私は1時間前に起きましたよ」
「早いなー」
「いや、それでも10時なんで遅いですよ」
まあ、遅いと言えば、遅い。
でも、寝たのが3時過ぎだったからしゃーない。
「まあねー。さて、準備をするか」
「お風呂を入れましたよ。入ってください」
おー!
なんて気の利く子だろう!
さすがはカエデちゃん。
「じゃあ、入ってくるわ」
俺はベッドから降りると、クローゼットに行き、エレノアさんの下着や服を取り出すと、机に置いてあるカバンを持って脱衣所に行く。
そして、服を脱ぐと、TSポーションを飲み、エレノアさんに変わった。
俺はそのまま風呂場に入ると、身体を流した後に浴槽に入る。
「あー……酒が抜けていく気がするー」
昨日は居酒屋でも飲んだし、カラオケでも飲んだ。
ナナポンもかなり飲んでいたが、足元はしっかりしていたし、かなり強い方だと思う。
あと、うさぎちゃんを背負ったドチビがデスメタルを歌ったのは笑った。
「今日は怪しいじいさんから話を聞くとして、明日は金の延べ棒探しか……俺が冒険者になる時に想像していた冒険とは違うが、充実しているなー」
公私共に充実していると言っていい。
「あー、もう12月か……」
この歳になると、年々、1年が短くなっている。
でも、今年の後半は濃密だった。
というか、前半と後半の落差がすごい。
俺は幸せを掴む喜びと共にもうちょっと頑張ろうと思い、お湯に浸かり、しばらくすると、風呂から出た。
そして、身体を拭き、髪をドライヤーで乾かすと、服を着る。
「髪を結ぶのも慣れてきたなー」
俺は長い金髪を器用に結ぶと、鏡に映る自分を見ながら頷いた。
「まあ、こんなもんだろう」
俺は脱いだ沖田君の服を洗濯物を入れるカゴに放り投げると、脱衣所を出て、リビングに向かう。
リビングに入ると、食事用のテーブルにはご飯が用意されていた。
「あ、上がってきた。ご飯をどうぞー」
カエデちゃんはテーブルにつき、スマホを弄りながらご飯を勧めてくる。
「用意してくれたんだ。ありがとー」
「いえいえー。私はもう食べましたんで」
俺は席に着くと、朝食というには遅く、昼食というには早いご飯を食べだした。
「もう12月になったなー」
「そうですねー。早いもんです」
「金の延べ棒で今年を締めるか」
最高の締めだ。
なお、去年は31日も仕事だった。
「夢があって良いですねー。あ、そうだ。今のオークションもですけど、お祝いしましょうよ」
「いいねー。またナナポンでも誘うか」
どうせ暇だろ
あと、エレノアさんが誘えば来る。
「良いと思います。そのためにも金の延べ棒は絶対に入手ですよ!」
「任せとけって。敵も強くないし、余裕だよ」
八腕スケルトンはまだ遭遇してないけど、そんなに強くないっぽいし、柳さんと前田さんの2人なら大丈夫だろう。
「頑張ってください! 今日はレベル3の回復ポーションでしたね。どこに行くんですか?」
「池袋のギルド裏。あそこなら何かあってもハリーとクレアが助けてくれる」
「なるほど……しかし、ウチのギルド裏が闇取引の場所になってますね」
なってるね。
相手は主にクレアだけど。
「警備員さんはめっちゃ怪しんでるだろうね」
「でしょうね。まあ、サツキさんが説明してるでしょうし、大丈夫ですよ」
「かねー? まあ、遅くても夕方には帰るよ」
「今日はお鍋ですからねー」
おー!
カエデちゃんの得意料理の鍋かー。
「楽しみにしとくわ」
「はいはーい」
俺は朝食を食べ終えると、家を出て、池袋のギルドに向かうことにした。
◆◇◆
タクシーでギルド裏にやってきた俺はタクシーを降りると、駐車場をキョロキョロと見渡す。
すると、黒いセダンの車のライトが一瞬光った。
あれか……
俺はハリーとクレアのタクシーがあることを確認すると、黒いセダンの車に近づき、後部座席を覗く。
すると、後部座席にはスーツを着た初老の男性が見え、その男性は俺に軽く頭を下げた。
俺はこの車で間違いないと思い、ドアを開き、乗り込んだ。
「昨日の電話の相手はあなたで合ってる?」
車に乗り込むと、一応、確認する。
「はい。急な申し出で申し訳ありません」
「いいわよ。ちなみに聞くけど、あの若い男に手紙を託したのもあなた?」
「そうです」
「あなた、冒険者なの? いくつよ?」
このじいさんは身体も細く、とてもモンスターと戦えるような体ではない。
「60歳を超えています。あなたに接触するために資格を取ったんですよ」
そんなじいさんでも取れるんかい……
「ふーん、絡まれなかった?」
「声はかけられましたが、絡むといった感じではありません。単純に心配されましたね」
あのガラの悪い冒険者達でもさすがにこのじいさんでは心配にもなるか。
「何て返したの?」
「一度、フロンティアを見たかったとかそういうのですね。海外の金持ちはそういうのをやります」
へー。
まあ、金持ちだったらあの高い講習代も普通に払えるわな。
宇宙旅行みたいなもんだろう。
「問題ないならいいわ。それで、レベル3の回復ポーションを即決ってどういうことよ?」
俺は挨拶はそこそこにして、本題に入ることにした。
「説明します。エレノア様はサッカーはお好きですか?」
サッカー?
まあ、嫌いではない。
ワールドカップなら見る。
その程度だけど。
「普通? 嫌いではないわ」
「でしたらブラジルのペドロという選手をご存じですか?」
「そのレベルなら知ってるわ」
ブラジル代表だし、どっかの強豪クラブのエースストライカーだろう。
詳しくはないが、名前くらいは知っている。
「彼が先日、暴漢に襲われました」
マジ?
大事件じゃん。
「ニュースになってないわね」
「まだ発表はしてません」
「大丈夫なの? 生きてる?」
「生きてます。問題は足をやられたことです」
足……
サッカー選手の命と言っていいだろう。
「つまりレベル3の回復ポーションで治したいと?」
「そういうことです」
「私、あまり詳しくないんだけど、スポーツ選手のポーションの使用はドーピングに当たらないっけ?」
回復ポーションは疲労も怪我も治る。
だが、スポーツ選手の使用はまだ認められてないはずだ。
「そうです。だから内密にということです」
なるほど……
「バレないの?」
「バレません。何故ならドーピングと違い、検査では見つけることができないからです。ここだけの話、サッカー選手にとどまらず、各界の一流どころは疲労回復のために皆、飲んでます」
何億も稼ぐスター選手なら当然か……
たかが50万でパフォーマンスを保てるんだから飲むわな。
「あなたはその代理人って感じ?」
「そうです。仲介人ですね。さすがに表立っては購入できませんので」
色んな商売があるなー。
「ふーん、明日までに欲しいというのは?」
「さすがにこれ以上は隠せないのです。スター選手ですからね。マスコミやパパラッチが多い」
俺もだけど、有名税ってホントに大変だな。
「なるほどね。事情はわかりました。私としては売れるなら何でもいいわ」
「ありがとうございます。それでは即決していただけるということでよろしいですね?」
「悪いけど、オークションはやめないわよ」
「それは…………しかし、時間が」
多分、ペドロ選手はスター選手だし、金はある。
いくら払っても落札する気ではあるが、問題は時間。
オークションの終了は来週なのだ。
「別にオークションは関係ないわよ。私はレベル3の回復ポーションを1つしか持っていないとは言っていない」
「え……?」
「この前もクレアに売ったわよ」
「クレア……クレア・ウォーカーですかな?」
じいさんは窓からチラッとタクシーを見た。
「あら? あそこにクレアがいることを知っているのね」
「それはもちろん。クレアはお得意様の1つですからね」
そうなんだ。
まあでも、クレアは商売人だもんな。
クレアから回復ポーションを仕入れているのだろう。
「ふーん、まあいいわ。では、本題。いくらで買うの?」
「1億出しましょう。もちろん円です」
「1億5000万円は出しなさい。選手生命の危機でしょう」
「さすがにそれは…………」
渋る気か?
「ペドロって何十億も何百億も持ってるでしょ。それにこれからいくらでも稼げる。ケチるところ?」
「…………良いでしょう。1億5000万円で買います」
あれ?
あっさりだな……
これ、もっと出したな。
2億って言えば良かったかな?
――――――――――――
ちょっと宣伝です。
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