第151話 皆、酔ってる


 カエデちゃんが衝撃な事実に気がついた。


 現在、俺が知っているユニークスキル持ちは俺、ナナポン、ヨシノさん、桐生、ハリー、クレアだ。

 俺はまあ、置いておくとしても、ナナポンは卑劣なカンニング女、ヨシノさんは説明不要、桐生はヤリチン、ハリーとクレアは誘拐犯。


 あれれ?

 マジでロクなのがいないぞ。


「うーん、でも、そうなると、サツキさんが持ってないのはおかしい」

「確かに! あの人こそ、クズの王様ですよ!」


 後でチクっとこ。


「まあ、可能性の話ですよ。悪いところなんて皆、ありますしね」


 言い出しっぺのカエデちゃんがフォローをしてくれる。


「うーん、ユニークスキル、ユニーク、ユニーク……ユニーク!」


 俺はナナポンを指差す。


「あなたに言われたくないです! あなたが一番ユニークですよ。人斬りサイコパスなダメ男のくせに」


 黙れ、ブラックナナポン!


「あー、そっちかー……クズな方じゃなくて個性的な資質を持つ人間がユニークスキルを持っているんだ。サツキさんはクズだけど、思考は普通の人ですもん。ヨシノさんを始め、先輩達はお察し。やることなすこと常人では考えられない行動を取りますもん」


 ぐっ!

 旦那(予定)に何てことを……

 でも、合ってるっぽい。


「個性って大事だよな?」


 色々と察した俺はナナポンに同意を求める。


「そ、そうですね。有象無象の没個性とは違うんです」


 ナナポンも察したっぽい。


「私は常識人だったんだな」


 カエデちゃんがうんうんと頷いた。


「おかしいな、この人が持ってないのは絶対におかしいな」


 ナナポンがカエデちゃんをじーっと見る。


「なんで? 私、普通だよ」

「沖田さんと一緒に住むという選択をする時点でかなり――あいた!」


 さすがに頭を叩いた。


「お前、カエデちゃんが我に返ったらどうするんだよ」

「催眠術でもかけてるんですか? あ、ポーションだ! 怪しいポーションを飲ませているんだ!」


 どこの世界の住人だよ。

 俺はエロゲの主人公じゃねーわ。


「してねーよ」

「どうだか……あなたの正体は怪しい魔女じゃないですか」

「逆だよ。怪しい魔女の正体が誠実な俺なの」

「誠実(笑) あ、でも、そうなると、あの前田さんも個性的なんですかね?」


 そういえば、あの人も地獄耳とかいうユニークスキルを持ってたな。


「真面目そうに見えたが…………実はド変態かもしれん」

「ですかねー」

「少なくともオフィスラブってるな」


 あの距離感は怪しい。


「え? そうなんです?」

「お前、気付かなかったのか? あの2人、絶対に付き合ってるぞ。よく見るとわかる」

「へー……明後日、注視してみます」


 多分、すぐにわかると思う。


「あ、それです。今日はどうでした? 延べ棒は?」


 カエデちゃんが目をキラキラさせながら聞いてきた。


「地下にあるって言ってたな?」


 俺はナナポンに確認する。


「はい。地下の奥ですね。ただ、地下には八腕? 八腕スケルトンがいます」


 スケルトンしか出ないなと思っていたが、じごくのきしは地下にいたのか。


「地下ですかー。やっぱり普通のところにはないんですね」

「だと思う。地下遺跡は建物だったけど、もぬけの殻だった」

「となると、やはり金の延べ棒に期待ですね」


 他にあればいいけど、あんまり期待できそうにないしね。


「だなー。ただ、今日、地下への隠し階段を見つけたんだけど、待ったがかかったわ」

「待った?」

「自衛隊的には地下は想定外だったらしい。だから上の判断を仰ぐんだってさ。地下の捜索は認めないってことはないよな?」


 地下は自分達で捜索しますって言われたら最悪だ。


「それは大丈夫ですよ。今回の調査はこっちの判断で決めて良いことになってます」

「どういうこと?」

「地図作成をどこまでするかはエレノアさんの判断で決めるってことです。表向きは危険を感じたらそこで止めるって言ってあります。なので地図は歩合制です」


 なるほど。

 表向きってことは本当の狙いは金の延べ棒の横取り防止か。

 俺が調査を止めるって言わない限り、決定権はこちらにあるわけだな。


「じゃあ、地下には行けるな」

「はい。ただ、同行してる自衛隊員としても、報告はしないといけないですし、判断を仰ぐというのはそういう意味です。自衛隊としてもエレノアさんを敵に回したくないから約束を反故することもないです」

「よし! ナナポン、金の延べ棒でベッドを作ろうぜ」


 俺はナナポンの肩をバンバンと叩く。


「ふへへ。掛布団は万札ですかね?」


 暖かそう!


「ユニークな師弟ですねー」


 ビール片手に万札で扇いでた女が何かを言っている。


「あ、そういえば、今日の電話は何だったんですか?」


 ナナポンがさっきギルドでの電話のことを聞いてきた。


「電話?」


 カエデちゃんがかわいらしく首を傾げる。


「はい。エレノアさんがゲートのところで電話してました。何かの怪しい取引っぽいです」

「へー。何ですか、それ?」


 カエデちゃんの視線がこっちを向いた。


「今日、帰る時にこれをもらったんだよ」


 俺は若い男から受け取った手紙をカエデちゃんに渡す。


「うーん、怪しい」


 カエデちゃんもそう思うらしい。


「何て書いてあるんです?」


 ナナポンがカエデちゃんに聞く。


「えーっと、取引をしたいから電話が欲しいだって。差出人の名前はなし」

「怪しい……」


 まあね。


「それで電話したんですか?」

「そうそう。それを受け取った後、すぐにギルドに戻って電話した」


 明後日はまた調査の仕事だし、早い方がいいと思ったのだ。


「取引の内容は何でした?」

「今、オークションにかけているレベル3の回復ポーションを即決で落札したいんだと」

「即決……急ぎな感じです?」

「みたいだね。明後日までに欲しいだってさ」


 いくらなんでも急すぎる気がする。

 もっと早く接触すればいいのに…………いや、しようと思ったのにエレノアさんの居場所がわからなかったのかもしれない。


「早いですねー。それでどうするんです? オークションの即決はないですけど、中止はありますよ」

「いや、オークションは続ける。これは値段決めだから最後までやる。明日、会う予定でその時の話次第かなーっと」

「まあ、レベル3の回復ポーションも何個もありますもんね」


 それこそ俺とカエデちゃんが回復ポーションを毎日飲むという健康法をやってるくらいには在庫がある。


「そうそう。だから明日の昼はちょっと出かけてくるわ。ごめんね」


 せっかくの休みなのに、親愛なる先輩はちょっとお出かけ。


「いや、別にいいですよ。それよりもお金です。ふっかけるんですよ! 予想落札額は8000万円ですけど、最低でも1億。相手の状況次第では粘りましょう!」


 うーん、そうは言うものの交渉事は苦手なんだよなー。

 最初に1億5千万でふっかけるか…………


「わかった。頑張る」


 よーし、カエデちゃんのために頑張るぞー!


「沖田さんって朝倉さんと会話する時に人間が変わりますよね」


 お前は黙って、その桃の酎ハイを飲んでろ。

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