第145話 俺には他人の幸せを憎まない余裕がある


 自衛隊の2人と顔合わせをした翌日、俺は昼になると、昼食を食べ終え、ギルドに向かった。

 そして、受付でカエデちゃんに武器をもらうと、ゲートをくぐり、久しぶりのクーナー遺跡に向かう。


 クーナー遺跡に到着すると、相も変わらず、ゲート前にはたくさんの冒険者が集まっており、たむろしていた。

 なお、カエデちゃんから聞いた話ではまだナナポンは来てないらしい。


 俺がヨシノさんはいるかなと思いながら冒険者達を見渡していると、冒険者達が徐々に俺に気付き、チラチラと見てくる。


 ヨシノさんはいないか……

 まあ、あの人、遅いからなー。


 俺はこれ以上、ここにいると、冒険者達に絡まれそうなのでさっさと待ち合わせの建物に向かうことにした。

 普段はチラチラと見られたり、スマホで盗撮されるぐらいであるため、声をかけられることはあまりない。

 だが、今はレベル3の回復ポーションのオークションの真っ最中なため、あれこれ聞かれる可能性があるのだ。


 俺は足早にゲート前から立ち去ると、待ち合わせの建物を目指す。

 道中は数人の冒険者とすれ違う程度でスケルトンとは遭遇しなかった。


 俺が指定の建物に近づくと、レンガで作られた住居っぽい建物の入口前にはヘルメットに迷彩服の自衛隊員2人が立っているのが見えた。

 俺は警備の人だろうなと思い、近づく。


「止まれ」


 俺が自衛隊員の2人に近づくと、1人の自衛隊員の男が威圧的に命令してくる。


「は? 帰っていいの?」

「正直に言えば、用件はわかっている。だが、これは規則なんだ。すまんが、目的を言ってくれ」


 めんどくさいなー。

 まあ、自衛隊だからしゃーないけど。


「エレノア・オーシャンよ。地下遺跡の調査の仕事で来たわ」

「聞いている。ここを通す前にステータスカードを見せてくれ」


 は?


「え? ケンカを売ってる? 死にたいの?」


 というか、帰るぞ。


「規則なんだ。身分証明だよ。もちろんスキルやジョブなんかは隠してくれていい。確認したいのは名前だけだ」

「私は本物よ」


 見ればわかるじゃん。


「確認はされてないが、姿を変えることができるスキルがあるかもしれないだろ」


 確かに……

 そんなユニークスキルもあるかもしれない。


「しょうがないわねー……」


 俺はカバンからステータスカードを取り出すと、指でスキル、レベル、ジョブなどを隠し、見せる。


「…………確かに。では、通ってくれ。中で柳と前田が待っている」


 もう来てるのか。

 まあ、遅れるようなことはないか。


「じゃあ、通るわ。あ、それとこの後、Aランクの三枝さんと一緒に女の子が来るけど、その子にはそんな威圧的な態度はダメよ。男性恐怖症の臆病な子だから泣いちゃうかもしれないし」


 多分、泣かないけど。


「…………わかった。配慮する」


 男はもう1人の自衛隊員と顔を見合わせると、頷いた。


「よろしく」


 俺はそう言うと、そのまま自衛隊員の脇をすり抜け、建物の中に入る。

 建物の中には棚や暖炉があり、中世の住居っぽかった。

 ただし、かなり朽ち果てており、使えそうにはない。

 そんな中、部屋の中央には明らかに現代の机と椅子が置かれており、そこには昨日会った柳さんと前田さんが座っていた。


「こんにちは」


 俺は隣通しで座っている2人に声をかけると、対面に座った。


「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」


 前田さんが挨拶をしてくる。

 どうやら昨日の落ち込みや恐怖からは立ち直ったようだ。


「こんにちは。まだ三枝さんと…………えーと、エージェント・セブンは来てない」


 柳さんはナナポンのコードネームを思い出すように言う。


「横川でいいわよ。今日は普通の格好で来ると思うし」

「そういえば、そんなことを言っていたな」

「あれはないわ。そんなことより、あなた達はいつからいたの?」


 どうでもいいけど、こいつら近くない?

 隣通しで座っているが、肩が当たりそうな距離だ。


「私達は朝からいる。仕事だからな」


 大変だなー。

 お疲れさん。


「ふーん、まあいいわ。ところで、地下への入口ってどこよ?」

「そこだ」


 前田さんが指差した方向には暖炉があった。


 俺は何もねーじゃんと思ったが、よく見ると、暗い暖炉の中に銀色の鉄っぽいものが見えている。


「梯子?」


 俺は立ち上がってよく見てみると、暖炉の中に下に通じる梯子が見えた。


「あれは我々が設置したものだ。当初は朽ち果てた木製の梯子だったんだよ」


 それは危ないし、使えないわな。


「しかし、こんな一般民家みたいなところに地下遺跡があるの? それ、ただの倉庫じゃない?」

「いや、実はかなりの広さなんだよ。地下に大きな建物があるんだ。詳しくはわからんが、神殿か城か……」


 まあ、狭かったらすぐに金の延べ棒を発見しているだろうしな。


「なんでこんなところなのかしらね? 普通は教会とかもっといい屋敷に隠さない?」


 RPGの王道はそんな感じな気がする。


「わからん。このエリアは廃墟だしな」


 知る人がいないもんな。

 フロンティア人なら知っているかもしれない。

 逆に私がここで噓八百を並べれば、信じるかな?


「実はね、そこは私のお城なの」


 だから全部、俺のもん。


「…………何て答えていいかわからん」

「もう少しオーバーなリアクションが欲しかったわ」


 つまんねー男だよ。


「冗談ですよね?」


 前田さんがちょっと引きながら聞いてくる。


「あなたは素直でかわいいわー。嘘に決まってるじゃない」

「そ、そうですよね」


 これは信じ切れてないな。

 まあ、これでいい。

 ミステリアス路線を保てる。


「こんにちは」

「やあ、皆、揃っているようだね」


 俺がしめしめと思っていると、ナナポンとヨシノさんがやってきた。

 ナナポンはいつもの赤いカーディガンを羽織っており、背中にはかわいい白のウサギを背負っている。


「表の自衛隊が威圧的じゃなかった?」


 俺はナナポンに確認する。


「いえ。やけに優しかったですよ」

「あれはなんだ? 優しすぎて逆に不審者に見えたぞ」


 やりすぎたか……


「あなたのことを思って忠告しておいたのよ」

「あー、なるほど。ありがとうございます」

「いえいえ。あなたがヨシノさんの背中に隠れるんじゃないかと思ってね」


 ナナポンってすぐに隠れるし。


「それはやってたな。弟の小さい時を思い出す」


 どっちみち、やったのか……

 それにしてもヨシノさんって弟がいるんだ。

 だから面倒見がいいのかな?


「とにかく、これで全員揃ったな。早速だが、地下に行こう。エレノア、これに地図を描いてくれ」


 柳さんはそう言って、俺に紙を渡してくる。


「ん。了解。ちょっとあっちを向いてなさい。魔法を使うから」


 俺は柳さんと前田さんにレンガの壁の方を向くように指示を出す。

 2人は立ち上がると、素直に後ろを向いた。

 それを確認した俺はカバンからコンパスと鉛筆を取り出し、オートマップを作成する。

 そして、ペンで縮尺を書き、オートマップを起動させると、カバンにしまった。


「もういいわよ。準備はできた」


 俺が許可を出すと、2人が振り向く。


「もういいのか?」

「ええ。準備は完了。行きましょうか」

「わかった」


 俺達は仕事を始めることにし、暖炉の前に集まった。


「暗いわねー」


 暖炉にある縦穴は真っ暗であり、何も見えない。


「この下は洞窟になっている。降りてちょっと行けば遺跡だ。地下遺跡の入口付近には我々自衛隊がライトを置いたので明るいと思う。だが、建物の中は暗いだろう」


 ふーん。

 口ぶりからして相当広いのかもしれない。


「了解。じゃあ、降りましょう」

「ああ。我々が先行しよう」


 柳さんがそう言うと、暖炉の前でしゃがみ、梯子に手をかけた。


「柳さん、ちょっと待ってくれ」


 ヨシノさんが柳さんを止める。


「うん? なんだ?」


 柳さんは急に止めてきたヨシノさんを見上げた。


「エレノア、君が先に行け」


 え?

 こんなくらいところに先に行くの?


「嫌よ」

「君、自分の格好をわかってるか? ローブだから下から見上げたら中身が見えるぞ」


 えー……


「最低ね、あなた」


 俺は柳さんを軽蔑するように見下ろす。


「え? い、いや、そんなつもりはないぞ!」


 柳さんが慌てて否定した。


「ハァ……これだから男は…………あなたもそう思うでしょ?」


 俺は前田さんに振る。


「え!? いや、彼はそんなつもりではないかと…………」


 彼?

 これ、マジで付き合ってんな。


「ふーん、お幸せに。じゃあ、私が先に降りるわ」


 俺は2人を祝福すると、柳さんをどかし、しゃがむ。


「暗いわねー。あなた達、間違っても足を滑らせて落ちてこないでよね」


 下にいる俺は確実に巻き添えを食う。


「わかってるよ。じゃあ、先に行ってくれ」


 俺はヨシノさんにそう言われたのでカンテラの電源をつけると、狭い暖炉の中に足を突っ込み、梯子に足をかけた。


「古代フロンティア人ももうちょっと入口を考慮してほしいもんだわ」

「文句の多いヤツだな。皆、待っているんだから早く行ってくれ」


 ヨシノさん、うるさいな……

 でも、下から見上げると、マジででかいな、この人……


 俺はちょっとハッピーな気持ちになりながら梯子を下りていく。


「いや、本当に何も見えないわよー!」


 叫んだのが誰も返事をしてくれなかった。


 もしかしなくても調査が終わるまで毎回、この道を通るの?

 暗いし、怖いんですけど…………


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