第144話 オフィスラブ? ★


「帰ったか?」


 私は見てわかることを敢えて、確認する。


「はい。3人共、ゲートをくぐり、それぞれのギルドに帰還したと思われます」


 前田もまた真面目に答えた。


「どうだった?」

「何がでしょう?」

「決まってる。あの3人だ。まあ、三枝ヨシノは初めてではないし、問題はないだろう」


 三枝ヨシノはベテランのAランクだし、何度かフロンティアで見たことがある。

 ギルド本部本部長の部下で金に汚いと聞いているが、冒険者としては真面目で面倒見がいいと評判の人物である。


 問題は他の2人……


「ですね。三枝さんはいつも通りです」

「あの魔女をどう思った?」

「正直、あれは本物の魔女ではないかと思っています。私とは初見なはずなのに私のユニークスキルを看破されました」


 やはりか…………


「お前が急に地獄耳の詳細を言い出したから何かと思ったぞ。あれはなんだ?」


 さすがにあれはびっくりした。

 魔女に魔法でもかけられたのかと思い、動揺を隠せなかった。


「私にしか聞こえない小声で地獄耳の詳細を言い当てられたうえに脅されました」

「スキルを知るすべがあるということか…………魔女のスキルか魔法か?」

「わかりませんが、ありえます」


 本当に得体のしれない魔女だな。

 いまだに正体がまったく掴めていない幽霊のような存在だし、本物かもしれんな。


「お前、誰かから密命を帯びているのか?」

「それは…………」


 帯びているんだな……

 しかし、言えんか。

 まあ、だから密命なんだろうが……


「スミレ、言ってくれ。あの魔女はお前をカエルにして踏みつぶすと言っていた。このままだと本当に事故に見せかけられて殺されるぞ」


 俺は部下の前田のことをしたの名前で呼んだ。

 同僚には内緒だが、まあ、そういう関係なのだ。


「でも……」

「どうせ魔女の素性を調査しろとか、アイテムの入手方法を調査しろとかだろうが、ギルド、政府、それにアメリカが調査してもわからなかったことを一自衛隊員が調査できるわけがない」


 おそらくはスミレの地獄耳に期待したんだろうが、速攻で看破されてしまった。

 これ以上はマズい。


「…………わかった。無理でしたと素直に報告するわ」

「そうしてくれ。お前を外して別の人に代えてもらおう」


 正直、外してほしい。

 スミレに何かがあったら困る。


「それなんだけど、無理っぽい」

「ん? なんでだ?」

「どうも、私って向こうの指名なのよ」


 指名?

 何故?


「どういうことだ?」

「ほら、横川さんがいたでしょ。あの子、女子高出身で男性が苦手みたいなの。それで若い女性を同行してほしいって要請があったみたい」


 横川ナナカか……

 馬子にも衣裳を絵にかいたような子だった。


「確か未成年の大学生だったか…………男が苦手なくせに、よく冒険者になったな」


 普通は避けると思うんだが……


「あの子も何かあるかもしれないわね。横川さんの行動が少し気になったわ」

「何かとは?」


 スミレは何かに気付いたようだ。


「最初、エレノアと三枝さんが私達から距離を取ったでしょう?」

「ああ。商売の話って言ってたな」


 ホントかどうかはわからない。


「それは本当に商売の話だったわ。どうやらあの魔女は育毛ポーションなるものを売る気みたい」


 育毛ポーションか……

 将来に向けて買っておくか?


「それもスライムからドロップか?」

「いや、どうやら育毛剤に回復ポーションを混ぜればできるみたいなの」


 回復ポーションか……

 最低でも50万円。

 …………貯金しておこう。


「その情報を絶対に漏らすなよ。漏らしたら殺される」

「わかってる。その時なんだけど、横川さんが2人に何かを見せたの。そうしたら2人が急に黙ったわ」


 何かを見せた……


「その時、横川はしゃべったか?」

「いえ……」

「もしかしたらお前のスキルを看破したのは横川かもしれんな」


 どうしてあの魔女が未成年の大学生を連れているかが疑問だったが、もしかしたら有用なユニークスキル持ちなのかもしれん。


「そんな気がする。そうやって見てみるとね、鉱山の中でも実際に先導しているのは横川さんだった」


 鑑定のような何かを把握する力か?

 それで鉱山の中やスミレのスキルを把握した?


「なるほど……そういえば、横川は明かりを持っていないどころかサングラスをかけていたな」


 目だな……

 鑑定の強化版のユニークスキルかもしれん。


「ねえ、エレノアは無理でも横川さんを調査するのはどうかな?」

「それはダメだ。横川は未成年だぞ。それにあの子の親はマスコミ関係らしいから絶対に深入りするなと通達が来ている」


 横川は見た目が小さくて可愛らしいから絶対にマスコミが食いつく。

 そして、俺達は世間から大バッシングを受ける。


「そっか…………」

「とにかく、余計な詮索はやめよう。俺の方からも上に言ってやる。これ以上は俺達の命どころかゲートの存続まで怪しい、とな」


 実際、そんなようなことを言っていたし。


「わかったわ」

「俺達の仕事は地下遺跡の調査だ。いらぬことをして虎の尾を踏むことはないだろ」

「そうね…………ねえ」


 スミレが見上げてきた。


「任務中だぞ」

「こんな所は誰も来ないわよ」


 それもそうだ。




 ◆◇◆




 ゲートをくぐり、ギルドに帰還した俺とナナポンは受付にいるカエデちゃんのもとに行き、サツキさんの部屋に通してもらった。

 そのまま4人でしばらく待っていると、ヨシノさんがやってきた。


「お疲れ様。遅かったな」


 サツキさんが笑いながら言う。


「別に遅くないでしょ。新宿からならこんなもん」


 1時間半は待ったね


「シャワーを浴びて、化粧までしてきただろ」

「別に良くない?」

「私を待たせるな」

「サツキ姉さんは相変わらず、ひどいなー。そう思うよね?」


 ヨシノさんが何故か俺に振ってきた。


「別にゆっくりでもいいわよ。今日は早かったし」


 まだ4時を過ぎたところだ。


「ほらー」


 ヨシノさんが俺を指差しながらサツキさんを見る。


「わかったからさっさと座れ」


 サツキさんがそう言うと、ヨシノさんはサツキさんの隣に座った。

 2人の対面に俺とカエデちゃん、ナナポンが座っている形である。


「ようやく話が始められるな。で? どうだった?」


 サツキさんが俺に聞いてくる。


「来たのは2人。柳っていう男の人と前田っていう女の人」

「男女2名か。まあ、お前らが3人だし、多すぎてもダメと思ったのかね?」

「さあ? その辺はわからないわ。でも、2人共、そこそこの実力だったし、地下遺跡でも問題はないと思う」


 スケルトンとじごくのきしだから余裕だろう。


「そこそこ、ね」

「沖田君って、自分上げのためにとことん人と自分を比べるよね」


 ヨシノ、黙れ。


「まあ、男の子だし、そういうこともあるだろうよ」

「サツキ姉さんもだけどね」

「ヨシノ、黙れ」


 多分、俺とサツキさんの心が一致していると思う。


「とにかく、明日からの調査で危険はないと思う。問題は前田さんのスキルね」

「前田……女性隊員か…………ユニークスキルがあったか?」

「あったわ。地獄耳だってさ」

「すごい名前だな」


 確かに……


「ナナカさんが見つけてくれてよかったわ」

「私が言っておいたんだ。絶対に何かをしてくると思ったんでな」


 そういや、ナナポンがそんなことを言ってたな。


「自衛隊なら国民を守ってほしいもんだわ。なんで探りを入れてくるんだか」

「悪い魔女から国民を守るために探るんだろ」


 まあね。


「私は全然悪くないと思うわ」


 実際、アイテムを売っているだけで犯罪はしていない。


「いや、散々、脅してたでしょ」

「カエルにして踏みつぶすって言ってました」


 ヨシノさんとナナポンがチクった。


「お前、ステータスカードを見てみろ。もう挑発レベルが3になったんじゃないか?」

「さっき見たけど、レベル2よ。もうしないから」


 これ、何度も言っている気がする。


「ふーん、もうちょいだな…………まあいい。それより、地獄耳ってどんなのだ?」

「最初は聴力を上げるスキルかと思ったんだけど、そうではないっぽい。人の会話を盗み聞きするスキルね。効果範囲は50メートルで遮蔽物があると無理だってさ」


 カンニングはできないけど、フロンティアでのパトロールには適したスキルだ。

 そういう意味では頑張ってほしい。


「遮蔽物か。建物の中ならセーフというわけだな。しかし、やけに詳しいな」

「ちょっと脅したらすぐにゲロったわ。というか、やっぱりゲートを閉じるうんぬんが効いてるっぽいわね」

「だろうな。嘘と断定できないのが恐ろしい」


 俺のミステリアス路線が功を奏したわけだな。


「だからあまり深くは探ってこないと思うわ」

「ん。わかった。だが、会話には十分、気を付けろ」

「わかってるわよ」


 注意すべきは錬金術のことや沖田君のことだな。


「それで本格的な調査はいつになる?」

「明日の午後からね。明後日はナナカさんが大学だから休み」

「ふむ。カエデ、明日の休みはなしな」

「しょうがないですね……」


 カエデちゃん、明日が休みだったのか。

 悪いなー。


「明後日は休みにしろよ。カエデちゃんが病んじゃうだろ」

「別に病みはしないだろうが、いいだろう。カエデ、明日と明後日の入れ替えな」

「わかりました」

「カエデちゃん、ごめんね」


 俺はカエデちゃんに謝った。


「仕方がないですよ。それに休みがなくなったわけではないですからね」

「明日は早く帰るから飲みにでも行こうぜ」

「いいですね。行きましょう」


 よしよし。


「あー、私、こいつら嫌いだわー」


 ひがむなっての。


「うるさい人…………それよりもナナカさん、ハンドサインを決めましょう」


 俺は隣に座っているナナポンを見る。


「ハンドサイン?」

「私もだけど、あなたのスキルもバレたくない。先導もモンスターを見つけるのもあなただからハンドサインや合図を決めときたいの」

「あー、そうですね」


 俺とナナポンはハンドサインや合図を決め、明日に備えると、解散となった。





――――――――――――


ちょっと宣伝です。


本作は6/30に書籍が販売となります。

書影の公開も解禁となりました。

詳しくは近況ノートをご覧ください。

カリマリカ様に素晴らしい絵を描いていただきましたので手に取ってもらえると幸いです。


近況ノートURL

https://kakuyomu.jp/my/news/16817330658755719986

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