第139話 悩める男の救世主(魔女)


 俺は電話を切ると、服を着て、池袋のギルドに向かった。

 もちろん、途中でコンビニに寄り、コーラを2つ買った。

 そして、タクシーで池袋ギルド裏にやってくると、タクシーから降り、またタクシーに乗り込むという謎の行為をする。


「はい。ダイエットコーラを買ってこなかった私に感謝しなさい」


 俺はそう言って、クレアにコーラをレジ袋ごと渡した。


「悪いわね。ドルでいい?」

「いらないわよ。差し入れ」

「ありがとう」


 クレアは感謝しながらコーラを運転席のハリーにも渡す。


「ダイエットはないよな。コーラヘの侮辱だぜ」


 知らんわ。


「それで用事って何よ?」


 俺はコーラを飲み始めたクレアに聞く。


「その前にあなたの用事を聞かせてよ」


 まあ、俺からでいいか。

 たいした話ではないし。


「実はね、育毛剤に回復ポーションを混ぜてみたのよ」


 俺はそう言いながらさっき作った育毛ポーションを取り出し、渡した。


「…………なんで? アホなの?」


 失礼な!


「いやね、回復ポーションをシャンプーとかボディーソープに混ぜるとすごいのよ。ほら」


 俺は自分の結んでいる髪を掴んでクレアに見せる。


「ほう……へー……」


 クレアは俺の髪を触り、手を撫でてきた。


「すごいでしょ」

「すごいわね…………売れるか? 女優に売れそうね……でも、数が捌けないか……」


 クレアが俺の髪をすきながら考え込む。


「まあ、そこはいいわよ。その延長で育毛ポーションを作ったわけ。ちょっと試してみてよ」

「俺は短髪だけど、ハゲてねーぞ」


 ハリーが話に入ってきた。


「あんたじゃないわよ。知り合いにハゲがいないかを聞いてるの」

「言い方よ……ノーマンは……ハゲてねーな」


 誰だよ、そいつ。


「ウチの従業員で試してみましょうか?」


 クレアが提案してくる。


「それでお願い。ついでにあなたのところで売って」

「育毛剤を? うーん、ハリー、あなた、もしハゲたら100万円で買う?」

「買うな」


 ハリーが即答した。

 なお、俺も買う。


「売れるか……育毛ポーションをスライムからドロップしたでいい?」

「それなんだけどさ、これ、鑑定すると、【育毛剤に回復ポーションを混ぜたもの】って出るのよね」

「ふーん、どれどれ…………あー、確かに」


 どうやらクレアは鑑定のスキルを持っているらしい。


「あなた、鑑定を持ってるの?」

「これがあったから商売を考えたのよ」

「へー」

「これだと売れるのは1回こっきりね。鑑定されたらバレるし」


 誰だって50万円で回復ポーションを買うわな。


「1回でいいから売ってよ」

「いいけど、マージンをもらうわよ」


 まあ、手数料はいるだろう。


「いくら?」

「10パーセントくらい?」

「それでいい」

「じゃあ、これ、もらうわね。本国に送って試してみようかな」


 クレアはそう言って、俺が渡した育毛ポーションをカバンにしまう。


「いくらで売るの?」

「もうちょっと調査をしてからね。私は女だから需要がわかんないし。ちなみにだけど、いくつ作れる?」

「育毛剤しだいかなー? さすがに同じ商品のほうがいいし」


 売るわけだし、別のメーカーを使うのはちょっと避けたい。


「育毛剤はこっちで用意するわ。あなたは回復ポーションを用意してくれればいい」

「だったら何個でもいいわよ。今の在庫は2000くらいかな?」


 暇だから作りまくっている。


「2000って…………レベル2は?」

「500かな? レベル3は100もいってない」


 レベル3の回復ポーションは作り始めたばっかりのため、数がないのだ。


「ちょっと待ちなさい! レベル3って今、オークションをやってるやつでしょ!」


 あ、そうだった。


「ごめん、ごめん。レベル3は1個ね。貴重なアイテムだし、あなたもオークションに参加しなさい」


 高値を出しな?


「私は降りるわ。アホらしい……後で買う」


 チッ!

 完全な失言だった。


「今なら即決で8000万円で売ってあげる」

「ちょっと待って…………いけるか? うーん…………希少価値からいって8000万は超えるかな? それに念のため、保持しておきたいし…………うーん、1個! 1個買うわ」


 クレアは悩みに悩み抜き、1個だけ買うらしい。


「現金で円よ?」

「わかってるわよ。用意しておくわ」

「じゃあ、おねがい。それであなたの用件って何よ?」

「日本のエリアの中で未発見エリアが見つかったの?」


 地下遺跡のことだな。


「さあ?」

「見つかったのね……」


 あれれ?


「知らないっての」

「そんなにやけながら言われてもねー」


 笑ってたかな?


「私は知らない。間違っても私から聞いたとか言わないでね」

「そうするわ」

「あなた達も狙ってるの?」

「無理よ。さすがに許可が下りない。日本政府だって譲らないわ」


 そらそうだ。


「ただの地下遺跡だけどね」

「地下遺跡? 何よそれ。どうでもいいわ」


 クレアは興味がないらしい。


「お金は貯めておきなさいね」

「…………どういう意味よ?」

「世界に黄金を見せてあげるわ」


 文字通りね。


「地下遺跡とやらに何かあるのか…………とはいえ、私達ではどうしようもない、か……」


 クレアが考え込む。


「おーし! 着いたぞ!」


 ハリーがタクシーを停車させた。


「またラーメン?」

「今日はつけ麺だよ」


 だからラーメンだろ!

 俺、お前のせいでネットでラーメンが大好きな魔女って呼ばれてるんだぞ!


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