第138話 あっ……じゃねーよ!


 地下遺跡にヨシノさんとナナポンの3人で行くことになったため、今週の冒険はお休みとなった。

 というか、ナナポンの大学もあるため、地下遺跡の調査以外の冒険の時間は取れないのだ。


 翌日、暇になった俺は自室で新たなる実験をしていると、スマホから着信音が流れてきた。

 俺が実験の手を止め、スマホ画面を見てみると、電話の相手はヨシノさんだった。


「もしもしー?」

『あ、沖田君かい?』

「エレノアさんが良かったか?」

『いや、君でいい』


 ヨシノさんはエレノアさんのことがあまり好きではないからなー。


「まあ、家だし、沖田君だよ」

『家? 今日はお休みかい? 電話大丈夫だった?』


 その気遣いは昨日欲しかったわ。

 ヨシノさんは良い人なんだけど、金が絡むとダメになるのが難点だな。


「休みだね。カエデちゃんもいないし、実験中」

『実験? 理科? 魔女?』

「さあ? どっちだろ? 今、育毛剤に回復ポーションを混ぜてみたところ。効果が上がるかなって」

『あー、ポーションシャンプーとかポーションソープのやつね。私もナナポンにもらったけど、いいよね…………そうか、育毛剤か』


 おい!


「言っておくけど、俺はフサフサだぞー。売れるかなって思っただけ」


 まだ26歳だし、悩んでない。

 この前、カエデちゃんに白髪を見つけられた時はショックだったけど。


『ふーん。効果はあったかい?』

「いや、よく考えたら俺はハゲてないし、薄くもないからどうすればいいかわからない。ヨシノさんはハゲてない?」

『見ればわかるだろ…………』


 まあ、きれいな髪をしてるね。


「誰か悩んでそうな人いない?」

『うーん、本部長かな? 最近、薄くなってきてるし』


 いまだに会ったことはないけど、薄いんだ……

 苦労が多そうだしなー。


「本部長にあげるから試してみてよ」

『何て言って渡せばいいんだ?』

「そのまんま言っていいよ。育毛剤に回復ポーションを混ぜてみたってさ」

『それ、ケンカ売ってない?』


 まあ、ハゲって言ってるようなもんだしね。


「いや、本部長と会ったことないからハゲてるかどうかを知らねーし。誰か実験に付き合ってくれるいい人いないかって聞いてみてよ。お偉いさんでもいいし、自分で使ってみてもいいからさ」

『じゃあ、おねがいしてみる』

「上手くいったら売ろうっと」


 世界中の悩める男性を助ける救世主になるんだ。

 あと、一応、将来の自分のため。


『オークションに出せば儲からないか?』

「俺もそう思ったんだけど、鑑定にかけるとバレる。だって、【育毛剤に回復ポーションを混ぜたもの】って出るんだもん」

『あー、それはダメだな。鑑定で製法が即バレなわけだ』

「そうそう。だからギルドには売れないかなー」


 ギルドは回復ポーションは買い取ってくれるだろうけど、【育毛剤に回復ポーションを混ぜたもの】は買い取ってくれないだろう。


『そこはクレアに売った方がいいんじゃないか? クレアは確かアイテムを売買する会社を持っていただろう』


 おー!

 それだ!


「そうするわ。クレアに電話してみよっと」


 データが本部長だけだと、不安だし、他の人で試してもらおう。


『あー、待て待て。私の用件が済んでからにしてくれ』


 あ、そういえば、用事があったから電話してきたんだ。


「何?」

『調査の件だが、正式に私達に指名依頼を出すことになった』


 早いな、おい!


「昨日の今日じゃん」

『かなり前から話はあったからな』

「ふーん。いつ行くの?」

『それなんだが、行く前に顔合わせというか、打ち合わせをしたいそうだ』


 めんどくせ。


「調査の時でいいじゃん」

『自衛隊は慎重に事を運ぶからな。こればっかりは仕方がない』


 公務員だしなー。

 しゃーないか。


「わかった。どこでやるの?」

『一応、極秘任務だからまずダイアナ鉱山で会いたいそうだ』


 どっちも暗いからかな?

 人もいないし。


「俺はいいよー」

『…………明日でもいいか?』


 だからはえーよ。


「早くない?」

『お役所仕事で年内に終わらせたいらしい』


 さすがだぜ……


「あっそ。俺は暇だからいいけど、ナナポンだな。あいつは大学がある」

『ちょっと聞いてみるよ』

「任せるわ」

『ん。じゃあ、また電話する』


 ヨシノさんはそう言うと、電話を切った。


「クレアに電話するか……」


 俺はその場で服を脱ぐと、TSポーションを飲む。

 そして、暖房が効いて、暖かいため、全裸のままクレアに電話をかけた。


『んー? 何か用?』


 クレアだ。

 しかし、ハローくらいは言えよ。


「ハロー」

『あなたって翻訳ポーションがないと英語ヘタクソよね』


 うるせー!

 これでも大学時代に良も取ったことあるわい!

 優はないけども!


「ちょっと待ってなさい」


 俺はカバンから翻訳ポーションを取り出す。


『いや、飲まなくてもいいから。あれ、複数の言葉がわかる人間には気持ち悪くてしょうがないのよ』


 さりげに自慢されてるし……


「あっそ。今、電話いい?」

『いいわよ。というか、私も用事があったの』


 用事?


「なーに? ポーションのおかわり?」

『違うわよ。いや、売ってくれるなら買うけど』


 違う用件か。


「じゃあ、何よ?」

『これから会えない?』


 えー、またラーメン?


「私、全裸なんだけど……」

『はい? あなた、裸族なの? それとも何かの健康法? それとも……あっ…………』


 あっ……ってなんじゃい!


「着替えの最中よ」

『そんな時に電話しないでよ。事後かと思ったじゃない』


 どうせすぐ沖田君に戻ると思ったから全裸なだけだわ。


「そんな相手はいないわよ」

『1人で、か……』


 慰めてねーわ!


「それは忘れなさい。それより、あなたは今どこよ?」

『あなたのギルドの裏口前』


 暇そう……


「それ、ギルマスさんは気付いているわよ?」

『別にそれでいいわよ。他組織への牽制だから』

「へー。変なのいた?」

『この前の坊やくらい? あれは渋谷だったけど』


 例のガキね。


「平和で良いわね。じゃあ、そこで待ってなさい」

『あ、コーラ買ってきて』

『俺もー!』


 パシリにされた………

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