第137話 絶対に俺の方がまともだと思う ★
ヨシノさんとの電話が終わり、しばらくすると、ナナポンがやってきた。
「こんにちはー……あれ? エレノアさんは?」
ナナポンは部屋に入るなり、俺がいるのにも関わらず、キョロキョロと部屋を見渡す。
「俺が視界に入ってないのか?」
「…………なんで沖田さんなんですか」
ナナポンは露骨にがっかりしながらソファーにやってくると、俺の隣に座った。
「そのリアクションはひどいな」
「せっかく急いできたのに…………」
沖田君だったら急がなかったらしい。
「別に俺でも良いだろ。今日はお前が大学って言うからこっちなの」
「まあ、良いですけど……」
全然、良くなさそうだ。
「お前らの奇妙な関係はどうでもいい。それよりもナナポン。お前、クーナー遺跡の地下遺跡を知っていたのは本当か?」
サツキさんがナナポンに確認する。
「はい。地下にも建物があるんだなーって見てましたよ」
「何故、言わん?」
「いや、皆、知っているものかと思って……それに私のメイン活動場所はダイアナ鉱山でしたし、クーナー遺跡についてはそこまで調べてないんです」
クーナー遺跡は人が多いから人見知りアンド弱男性恐怖症のナナポンは嫌がっていたのだ。
「ハァ……まあいい。それで金の延べ棒がいっぱいなのは本当か?」
「遠くなんでチラッとしか見えませんでしたが、それっぽいものが積んでありましたね。金かどうかはわかりませんけど」
まあ、見ただけじゃわからんわな。
メッキかもしれないし、そもそも、未知の鉱物の可能性もある。
「うーん、偽物か本物か…………」
サツキさんが悩む。
「サツキさん、どちらにせよ、行く価値はあるでしょ」
「そうですよ。地下遺跡にあるものが偽物とは思えませんし、もしかしたらもっと価値のあるものかもしれません。どちらにせよ、儲かると思います」
欲望にまみれた俺とカエデちゃんはサツキさんの背中を押す。
「まあ、行くのはお前とナナポンだから止めはせん」
行くよ!
金の延べ棒は黄金の魔女にこそふさわしい!
まあ、売るけど……
「あのー……私が行くことは確定してるんです?」
ナナポンがものすごく今さらなことを聞いてくる。
「当たり前だろ。お前が行かないで誰が行くんだよ」
「えー……怖くないです? 幽霊とか出そうですよ」
「1人でダイアナ鉱山に行っていたお前なら大丈夫だよ」
そっちの方がこえーわ。
「怖いなー……」
大丈夫だっての。
「一応、ヨシノさんも誘うし、自衛隊が同行するらしい」
「え? マジです? あなた、自衛隊とケンカしません?」
「なんで俺が自衛隊とケンカするんだよ…………」
俺を何だと思ってんだよ。
「ふっ……国を守る自衛隊の実力はその程度なの? 邪魔だから下がってなさい」
ナナカさん、それは誰のモノマネかしら?
「言いそう……」
「挑発レベル3も近いな!」
クソッ、ムカつく。
「絶対に言わない。俺は愛国心に溢れ、国と国民を守る自衛隊を尊敬してるし」
ありがとう!
「心にもないことってこういうことなんでしょうね」
「先輩の口から愛国心なんて言葉を初めて聞きましたよ」
「金のことしか頭にないくせに」
うるせーなー……
ヨシノさん、早く来いよ。
◆◇◆
しばらくすると、スーツをビシッと決めた有能秘書モードのヨシノさんがやってきた。
やってきたのだが…………
「30パーセントは譲れない」
「お前はただのお守だ。見ているだけで30パーセントはない。20パーセントで十分」
ヨシノさんに金の延べ棒のことを伝えた結果、従姉妹同士の熱いバトルが繰り広げられていた。
「私はベテランのAランクだよ?」
「沖田君曰く、雑魚だろ」
サツキさんがそう言うと、ヨシノさんが俺をキッと睨む。
「俺を巻き込まないでほしいな……」
さっさと25パーセントで手を打てよ。
「今回は自衛隊もいる。あまりエレノアの手の内を見せるべきではない」
「だからその自衛隊が露払いをしてくれるんだろ? なおさらお前はいらんだろ」
サツキさんがそう言うと、またもやヨシノさんが俺をキッと睨んだ。
いや、なんでだよ。
俺、自衛隊じゃねーし。
「沖田君に助けも求めてもカエデがいるからお前の安っぽい色仕掛けは無理だぞー」
めんどくせーな、こいつら。
俺を巻き込むなっての。
「エレノアさんで来れば良かったわ」
「ホントですよ」
ナナポンも同意してくれる。
「俺らははんぶんこでいいな?」
「はい。それでいいです」
ナナポンは素直でいいわー。
それに比べて、こいつらは…………
「自衛隊はエレノアを怪しんでいるし、警戒している。エレノアの性格を考えると、衝突する可能性が高い。だから私が間に入ろう。私はエレノアやサツキ姉さんとは違うからね」
「エレノアだって自重するさ。多分……きっと」
「無理だね。この男は冒険中、自分の剣技を自慢することしか頭にない」
こらこらー。
「うーん……」
おい! 負けんなや!
そんなことないって言えや!
「やんねーわ。もういいから25パーセントでいいじゃん。めんどくさい」
いつまでやるんだよ。
というか、俺のせいみたいになってんじゃん。
「チッ! 23パーセントで行けたのに……」
「チッ! 27パーセントで行けたのに……」
こいつら、絶対に従姉妹じゃなくて姉妹だろ。
「もういいから…………そんなことより本部長は何て言ってた?」
俺は2人の不満を無視し、ヨシノさんに聞く。
「本部長は指名依頼を出す方向で納得した。エレノアが出てくることに疑問を持っていたけど」
「やっぱりか……」
「エレノアは金の亡者と思われているからね」
こいつに言われると腹立つな……
「金の延べ棒があることは言わなくてもいいけど、基本的には地下遺跡で得たものはオークションかギルドに売るって言っておいて」
「わかった。それならギルドに損はないし、本部長も納得する。私がそれとなく伝えておくよ」
ギルドや政府が嫌がるのは貴重なアイテムを他の民間企業や外国に流されることだろう。
「あのー、ヨシノさん、その代わりに同行する自衛隊員も選ぶように言ってくれませんか?」
カエデちゃんがヨシノさんにお願いする。
「選ぶ?」
「先輩とぶつからないような人を選んだ方がいいです」
おい!
後輩!
「お前までそんなことを言うんか」
ひどい!
敬愛する先輩だろ!
「いや、話を聞いていると、何か不安になってきまして…………」
えー……
「お前らのせいだぞ! 俺が自衛隊にケンカを売るわけねーだろ」
「女性隊員を入れてもらうか? 沖田君も女性には優しいだろうし」
「それはそれで良いところを見せようと躍起になるかも…………でも、ケンカするよりはそっちがいいかもしれない。私達3人共女性なわけだし、それを理由にできる」
聞けよ…………
無視すんな。
「出来たら年下がいいと思います。この人、年下には大人ぶる傾向がありますから」
カエデちゃーん。
大人ぶるんじゃなくて大人なんだよー。
「確かに私やヨシノには噛みつくな…………しかし、26歳以下の女性隊員ねー……いるか?」
「さあ? とりあえず、そう言ってみるよ」
うーん、誰も俺を信用してない。
「ナナポンは俺の味方だよな?」
「え? あ、はい」
信じるべきは自分のみか…………
◆◇◆
「本部長、三枝です。ただいま戻りました」
池袋支部に向かっていたヨシノが戻ってきたようだ。
「入れ」
私が入室の許可を出すと、扉が開き、ヨシノが一礼をして部屋に入ってくる。
「話をつけてきました」
「長かったな。どうなった?」
もうすでに夕方になっている。
昼過ぎに出たにしては時間がかかりすぎだ。
「私も同行します。調査は私、エレノア、エージェント・セブンの3名になります」
はい?
「エージェント・セブン?」
「横川です。ナナカだからセブンらしいですね。要は変装です」
例の魔女の弟子か……
しかし、もうちょっといい名前がなかったのかね?
「わかった。魔女の目的は探ってきたか?」
「はい。ですが、はぐらかされました」
まあ、そうだろうな。
「とはいえ、何かがあるのは間違いないです」
「そこが知りたいんだが……」
もしかしたらとんでもないアイテムが眠っている可能性が高い。
「一応、基本的には地下遺跡で得たものはオークションかギルドに売るそうです」
魔女があの地下遺跡に何があるかを知っているのは確定だな。
とはいえ、売ってもいいものらしい。
「オークション…………高価なものがあるということか」
「おそらくは」
その情報があれば、ヨシノのパーティーに行かせるという手もあるが…………
「お前のパーティーだけで行く気はないか?」
「申し訳ありません。他のメンバーは参加しないと思います。皆、大金より安全を取るキャリアになりました」
ベテラン揃いだからな……
清水なんかは結婚しているし、無理か……
仕方がないな。
「わかった。その3名に指名依頼を出す」
「承知しました。それとなんですが、向こうから要望があります」
要望?
「なんだ?」
「これはエレノアからではなく、池袋支部の支部長からですが、同行する自衛隊員を選んでほしいそうです」
はい?
「どういうことだ? 意味がわからんのだが……」
「本部長もご存じの通り、エレノアは大人しい人間ではありません。自衛隊員とぶつかる可能性があります」
うーん、ありえる。
自衛隊もあの魔女を探ろうとするはずだし、魔女がそれに怒ることも考えられる。
「なるほど。要望してみるか」
「出来たら若い女性を入れてください。エレノアも若い女性なら考慮するでしょうし、横川は女子高出身であまり男性を得意としていません」
うーん、まあ、3人共、女性だし、そこを配慮してもらうか。
薄暗いであろう地下遺跡だし。
「わかった。自衛隊はそういうことに配慮してくれるだろうから伝えてみる」
「おねがいします」
「ちなみにだが、お前の取り分はどうなったんだ?」
「それはいいじゃないですか…………」
こんなに時間がかかったのはあの女狐との交渉が長引いたからだな。
ホント、守銭奴なところはそっくりだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます