第136話 管理職は大変 ★


 サツキさんはヨシノさんに電話をするためにスマホをテーブルの上に置いた。

 すると、スマホから呼び出し音が鳴り出す。

 そして、しばらくすると、呼び出し音が鳴りやんだ。


『もしもし? サツキ姉さん?』


 この声はヨシノさんだ。

 当たり前だけど。


「ヨシノ、今、ちょっといいか?」

『えっと、本部長と協議中なんだけど?』


 ヨシノさんは仕事中だったようだ。


「そこに本部長がいるのか?」

『いや、さすがに席を外したよ』

「そうか……まあいい。例のクーナー遺跡の地下遺跡の件で電話したんだよ」

『ちょうど私と本部長もその件で協議してたね。どうする? エレノアを使うの?』


 俺次第でどうするかが変わってくるんだろうね。


「それなんだが、エレノアと…………何だっけ?」


 よくわからないけど、サツキさんがカエデちゃんを見る。


「エージェント・セブンです」


 ナナポンのことね……


「それそれ。エージェント・セブン。その2人が地下遺跡の調査に行ってくれるんだと」

『へー。意外だね。私はてっきり断られるかと思ってた。別にオートマップを売ってくれたら私が行くのに……』

「買うなら100万な」

『高いよ。30万』


 こいつら、ホントに…………

 というか、俺がお試しにあげたやつを売るなよ。


「まあ、値段はいい。とにかく、エレノアとエージェント・セブンがやるから本部長に指名依頼を出すように言ってくれ」

『ちなみに聞くけど、2人はなんで行こうと思ったの? レベル3の回復ポーションのオークションを開催するっていう時期に動くとは思えないんだけど』


 ほら、怪しまれた。


「その話をしたいからこっちに来い」

『えー、協議中だってば』

「協議している内容の話だろ。本部長を通すとお前の取り分がなくなるぞ」

『取り分…………ちょっと待ってね。本部長に適当に話すから』


 ヨシノさんの声色が変わった。


「早く来いよ。裏から来てもいいから」

『そうする。あまり他所の支部に出入りしているところを見られたくないんでね』

「怪しいタクシーがいるがな」


 ハリーとクレアか……


『そっちはエレノアに任せる。じゃあ、ちょっと本部長と話したらそっちに行くよ』


 ヨシノさんがそう言うと、通話が切れた。


「あいつは金ばっかだな……」


 サツキさんはやれやれといった感じだが、どっちもどっちだと思う。


「ハリーとクレアは俺担当なん?」

「そらそうだろ。仲良くラーメンを食べてんじゃん」


 半ば無理やりなんだけどな…………

 俺とクレアは天ぷらに行きたいと思っている。




 ◆◇◆




 ヨシノはあの女狐から電話がかかってきたため、席を外していた。

 私は椅子の背もたれに背中を預け、考え事をしている。


 あの女狐が地下遺跡のことで探りを入れてきているのは把握している。

 おそらく、さっきの電話はその件だろうな……

 エレノアを使うか?

 それともまた都合よく何かをドロップしたか?


 はてさて、どう出るか?


 私が悩んでいると、部屋の扉が開き、退室していたヨシノが戻ってきた。


「すみませんでした」


 ヨシノが謝ってくる。


「いい。どうせ地下遺跡のことだろう?」

「はい。エレノア・オーシャンに指名依頼を出せとのことです」


 やはりか…………


「仕事は測量を中心とした調査だぞ?」

「どうやら得体のしれない魔法かスキルで地図を作成するようです」


 あの女は本当に魔女か……?


「それだけか?」

「詳細は聞いておりませんが、他に目的があるかもしれません」

「だろうな。あそこまで金儲けに躍起になっている魔女がこんな仕事を受けるものか」

「だと思います。魔女ですし、遺跡に興味があるのかもしれませんね」


 もし、あの魔女が本当にフロンティア人だとしたらあの遺跡を知っている可能性もある。

 すなわち、あの遺跡には何かがある。


「あまりあの魔女に行かせたくないな…………」

「どちらにせよ、このままでは冒険者に依頼を出すことになります。そうなったとしても魔女が出てくるでしょう。そこで他の冒険者との衝突も考えられますし、指名依頼にした方が良いのでは?」


 それもあるか……

 何しろ、つい先日、トラブルを起こしたばかりだからな。

 まあ、あの件は魔女は悪くないんだが、他の冒険者が魔女を襲う可能性もある。

 それはマズい。

 あの魔女は報告を聞く限り、大人しいタイプの人間ではない。

 最悪のケースも考えられる。


「仕方がない……上に言って指名依頼を出してもらうか…………」

「池袋支部長に詳細の話がしたいから池袋支部に来るように言われましたで話を聞いてきます」


 詳細ね……


「向こうは何か要求してくる気か?」

「何らかのことはあると思います。自衛隊も一緒に行動することになりますし」


 そうなんだよなー……

 自衛隊とのトラブルが怖い。


「トラブルがないように言え。もしくは、お前が間に入れ」

「私も依頼を受けるということでしょうか?」

「魔女はDランクだったろ? Aランクのお前が補助しろ」


 自衛隊の連中も魔女と地下に行くとなると、Aランクのヨシノがいれば安心するだろう。


「わかりました。そのように交渉して参ります」

「頼む」


 私がそう言うと、ヨシノは一礼し、退室していった。


 ハァ…………

 最近、ため息ばっかり出るな。


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