第135話 大物すぎ


 俺はナナポンのメッセージを見て、こめかみを抑えた。


「先輩、どうしました?」

「ナナポンに断られたか?」


 カエデちゃんとサツキさんが俺の様子を見て、聞いてくる。

 俺は無言で自分のスマホをテーブルに置いた。


 2人は前のめりになってテーブルに置かれたスマホ画面を見る。


「……………………」

「……………………」


 俺とナナポンのやり取りを見た2人は無言になってしまった。


「どうする?」


 俺は黙ってスマホ画面を見続ける2人に聞く。


「沖田君、ナナポンを呼べ」

「ですね。大学なんてどうでもいいでしょ」


 2人の目に欲が見えている。

 俺はスマホを取ると、メッセージを書き込むことにした。


『さっさとこっちに来なさい』

『はーい。あとちょっとで終わるんでその後に行きます』


 俺はナナポンの返事を見ると、スマホをしまう。


「すぐに来るってさ。あいつ、欲がないのかね?」

「わからん。私なら金の延べ棒を見つけた時点で取りにいく」


 俺も行く。


「私も誰かを誘って、行きますね」


 普通、そうするだろう。


「サツキさん、まだナナポンが来てないが、指名依頼の方向で良いな?」

「そうだな。金の延べ棒を他の冒険者や自衛隊に渡してやることもない。私が本部長に言って、そっちの方向で進めてもらおう」


 よしよし。

 金の延べ棒っていくらになるんだろ?

 オークションかな?


「本部長が素直に通してくれますかね? エレノアさんが動くとなると、怪しむのでは? 何しろ黄金の魔女ですからね」


 カエデちゃんが考え込みながらサツキさんに聞く。


「うーん、ありえる。文字通り、黄金を取りにいくわけだし……」


 黄金を産むと言われているエレノアさんが地図を作るなんて慈善事業をするとは思わないだろう。

 ましてや、エレノアさんはフロンティア人説まである。

 絶対に何かを知って、動いていると思うだろうな。


「いっそ、本部長さんを巻き込んだらどうだろう? そして、ヨシノさんを貸してもらおうぜ。正直、自衛隊がいるとはいえ、経験の浅い俺とナナポンでは不安だわ。ヨシノさんとリンさんは…………来ないか…………ヨシノさんだけでも一緒に来てもらった方がいい」


 リンさんは来ないだろうな。

 既婚者で引退を考えてるわけだし、危ない仕事は受けないと思う。

 というか、絶対に旦那が止めるな……


「ヨシノなー…………実はこの仕事の下話はヨシノにしてあるんだ。でも、あいつ、50パーセントも寄こせとかほざいてたぞ」


 さっきの守銭奴発言はそれか……


「普通は30パーセントくらいか?」


 俺とナナポンとヨシノさんで3等分。


「あいつは何もしないだろ。お前のオートマップとナナポンの透視がメインになる。良くて20パーセントだ」


 そんなもんかねー?

 相場がわからん。


「でも、やっぱりAランクは欲しいぞ?」


 安心感が違う。

 どうしてもナナポンが不安なのだ。


「25パーセントあたりの攻防になるな……」


 守銭奴VS守銭奴。


「一緒に来る自衛隊は?」

「あいつらは公務員だからないぞ。お前らの護衛とお前らが余計なことをしないようにする見張りだろう」


 報酬なしかよ……

 自衛隊にならなくて良かったわ。

 まあ、なりたくてもなれないけど…………


「ギルドは?」

「金の延べ棒をオークションで売る。それで私が5パーセント、本部長に5パーセント入る」


 …………どうでもいいけど、ギルドのお金じゃないの?

 その辺はどうなってんのかね?


「残りが俺とナナポンか」

「そうなる」


 俺らは仲良くはんぶんこしよ!


「ギルマス、先輩はお金に目がくらむとアホになりますし、ナナカちゃんはエレノアさんのイエスマンなのでヨシノさんがいた方がいいと思います。あの人はお金に汚い人ですが、長らくリーダーを務めているだけあって慎重です」


 カエデちゃん……

 アホって…………

 でも、初期ノアさんのせいで何も言い返せない。


「いっそ私が行くのはどうだ?」


 サツキさんが手を上げた。


「あなたは自衛隊とケンカをするからダメです」


 マジ?

 自衛隊とケンカすんなよ。


「サツキさん、挑発レベルはいくつ?」

「持ってないな」


 絶対に嘘だな。


「驚異の5ですよ」

「おい! カエデ!」


 5って……

 イキリモンスターだ。


「引くわー……」

「冒険者になって2ヶ月程度でレベル2になったお前よりマシだ」


 イラッ……


「俺はここで打ち止めだから大丈夫」

「無理無理。お前、エリートだもん」

「誰がイキリエリートだ! イキリキングめ!」


 サツキさんよりはマシ。

 絶対にマシ。


「先輩、サツキさんはあなたの挑発レベルを上げようとしているんですよ。やめてください」


 くっ!

 卑怯な!


「リンさんもだけど、お前ら、俺の挑発レベルを上げようとすんな」


 ヨシノさんですら上げようとしている節がある。


「良いことを教えてやろう。挑発レベルと慎重レベルは高いほど低評価だ」

「イキリ野郎とチキン野郎ってこと?」

「そういうことだ」


 へー……


「いや、そんなことはないですよ。挑発はヘイト管理ができますし、慎重はピンチでも冷静でいられます。どっちも大事です」


 カエデちゃん、多分、慎重を持ってるな……

 まあ、触れないでおこう。


「ヨシノさんでいいわ。というか、あんたは引退して、今はギルマスでしょ。フロンティアに行けるん?」

「チッ! 沖田君はヨシノ推しだから困るわ」

「そりゃ、気配察知を教えてもらったし、色々教えてくれるんだもん」


 おっぱい大きいし。


「やだやだ。これだから男は……」

「いつもこんな感じ?」


 俺は隣に座っているカエデちゃんに聞く。


「ですね。これで挑発レベルが5もあります。渋谷支部の支部長を始め、各ギルドの支部長や本部長に嫌われている原因です」


 しかも、したたかな守銭奴か……

 好かれる要因が見事にないな。


「カエデはカエデで男に媚び媚びだし、ホント、嫌だわ」


 …………あんたはリンさんの爪の垢を煎じて飲め。


「いいからヨシノさんに話を通せよ。それとも俺が電話しようか?」

「私がする。お前は交渉事が下手だし、私がやった方がいい」


 サツキさんはそう言うと、自分のスマホを取り出し、操作し始めた。


「任せるわ」


 慕っている従姉の方がスムーズだろ。


「沖田君、本部長がいるかもしれんからお前はしゃべるなよ」


 サツキさんはそう言うと、スマホをテーブルの上に置いた。

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