第133話 オートマップの使い道


 俺は沖田君の姿でギルドにやってくると、受付にいるカエデちゃんもとに向かった。


「おはよー」


 俺はカエデちゃんに挨拶をする。


「それは朝、聞きましたよ」


 そうだっけ?


「覚えてない」

「寝ぼけてましたからね。朝、私が出勤する時に布団に入っている先輩を叩いてたら『おはよう』って言ってましたよ」


 それは起きてないわ。

 起きてるけど、頭は寝てる。

 というか、叩くな……


「DVはやめてよ」

「スヤスヤと気持ちよさそうに寝ている先輩が妬ましくて」


 気持ちはすごいわかるな。

 カエデちゃんに悪いなと思う。

 でも、だからといって、起きる気はない。

 寒いし、眠いんだもん。


「部屋に来なきゃいいのに」

「行ってきますを言おうと思って」


 だったらちゅーぐらいせーや。

 そしたら起きてやる。


「それ、毎朝、言ってるの?」

「ですね。そして、毎朝、一緒に寝ようよーって返ってきます」


 うーん、俺っぽい。

 というか、それは覚えがある。


「ロクに休みもなかった反動かねー?」

「いや、夜更かしですよ」


 カエデちゃんが呆れたように指摘する。

 でも、動画サイトを見るのが楽しいからしょうがないね。


「まあいいや。サツキさんはいる?」

「ええ。こっちです」


 カエデちゃんは立ち上がると、いつもように受付の端に向かったので俺も受付の端に向かう。

 そして、カエデちゃんが受付内に入れてくれたので受付の中を通り、奥にあるサツキさんの部屋に向かった。


「支部長、先輩が来ました」

「はいよー」


 カエデちゃんがノックをして俺の来訪を告げると、部屋の中から適当な返事が聞こえてくる。


「中でソシャゲをしているな」

「だと思います」


 俺とカエデちゃんは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべながらドアを開いた。

 すると、ソファーに寝ころびながらスマホを弄っているサツキさんの姿が見える。


「またソシャゲか?」


 俺はカエデちゃんと共に部屋の中に入ると、ソファーに近づきながら聞く。


「正直、もうやめたいんだが、やめるタイミングがなくて、惰性で続けてるな」


 今、やめればいいじゃん。


「俺はやらないからわからんな」

「おすすめはせんな。よいしょっと…………まあ、座れ」


 サツキさんが身を起こしたため、カエデちゃんと共にサツキさんの対面に座った。


「なんか会うのが久しぶりな気がするわ。忙しかったみたいだね?」


 会う用事が何回かあったのだが、いつも不在だった。


「まあな。色々あったんだよ。お前の方も色々あったみたいだが…………」

「あったねー。生命の水のことは聞いてる?」

「カエデから聞いた。すごいものを作れるようになったな」

「ホントだわ。でも、作れないんだよ」


 材料がない。


「命の結晶な。私の方でも調べてみたが、まったくわからん」

「やっぱり未発見かね?」

「だと思う。まあ、気長に探せ。一応、こっちでも探しておいてやる」


 サツキさんも探してくれるらしい。

 珍しいことだが、それほどまでに生命の水がすごいってことだ。


「あんがとさん。それとカエデちゃんから聞いたけど、昨日は悪かったな。騒ぎだったんでしょ?」

「それな。めんどくさかったわー。しかも、詳しく聞けば、お前は悪くねーじゃん。それなのになんでこっちが対応しなきゃならんのだ。渋谷支部の管轄だろ」


 サツキさんが目を吊り上げる。


「昨日、ヨシノさんに聞いたけど、ヨシノさんや本部長さんも残業だったんだってさ」

「だろうな」


 サツキさんは今度は嬉しそうにうんうんと頷いた。


「従妹の不幸が嬉しいか?」

「色々あったんだよ。あの守銭奴め!」


 何があったんだ…………


「仲良くしろよー。それでそん時にヨシノさんに聞いたんだけど、オークションの許可が下りたんだろ?」

「そうだ。立て込んでたからちょっと時間がかかったが、無事に許可が下りた。早速だが、明日にでも発表して、オークションを開催したいんだが、大丈夫か?」

「大丈夫。さっさと売ろうぜ」

「よし! そうしよう! 期間は1週間だ」


 久しぶりのオークションだな。

 いくらになるかなー?


「落札は来週か……それで値段が決まったらクレアと本部長に売りつけてやろ」

「好きにしろ。ウチはレベル1の回復ポーションで十分だからな」

「転売しないの?」

「転売もやったが、たいして儲からんかったからな。それよりもオークションの方が儲かる」


 やっぱり5パーセントが懐に入るオークションか……


「またアイテム袋でも売るか?」

「それもありだな。でもまあ、その前にお前に相談があるんだよ」


 相談?

 珍しいな。


「何? そういえば、話があるんだっけ?」


 オークションかあのガキのことかと思っていたんだけど、別に用件があるらしい。


「前にお前からノートをもらっただろ? あのオートマップとかいうやつ」

「あー、あげたね」


 歩いたところが地図になるやつだ。

 いまいち使い道がわからないアイテムである。


「あれな、ちょっと使ってみたんだが、すごいわ」

「すごいんだけど、使い道ないでしょ。この世の中、地図アプリで場所がわかるし、フロンティアにしても地図があるじゃん」

「実を言うと、そうでもないんだ。前に測量会社の話をしただろ?」


 オートマップを作れるようになった時に聞いたな。

 国がフロンティア専門の測量会社に依頼をしたうんぬんかんぬん。


「聞いたね。結局、あれなんだったん?」

「実はな、クーナー遺跡で地下遺跡が見つかったんだよ」


 地下遺跡!?

 すげーロマン溢れるものが見つかったな。

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