第132話 人見知りは意外とかまってちゃん


 ヨシノさんに翻訳ポーションを売り、今後のことを話していると、夕方になり、カエデちゃんが仕事から帰ってきた。

 カエデちゃんが帰ってくると、ヨシノさんとナナポンも帰ったため、カエデちゃんと一緒にご飯を食べることにした。


「先輩、襲われたって本当ですか?」


 ギルド職員なだけあって情報が早いな。


「まあね」


 なお、ナナポンが帰ったため、俺はちゃんと沖田君に戻っている。


「なんで言わないんですか……」


 昨日、家に帰った後、謝罪とお礼が無事に終わったことと儲かったことしか伝えてない。

 心配をかけたくなかったのだ。


「たいしたことじゃなかったからなー。雑魚がやってきただけ。カエデちゃんに俺の華麗な回し蹴りを見せたかったわ…………見る?」


 やろうか?


「見ません。というか、先輩はたいしたことじゃないかもですが、ギルドは大騒ぎですよ。第一報がエレノアさんが未成年を返り討ちにした、ですからね」

「してねーよ。普通に警備員が取り押さえたわ」

「続報を聞いてホッとしましたよ。いつぞやの焼肉屋で荒れてましたし、過剰にボコったのかなと……」


 焼肉に行って、カエデちゃんに愚痴を聞いてもらった時ね。

 というか、俺はそんなヤンキーみたいなことをしない。

 平和を愛する者なのだ。


「ちゃんと言えばよかったね。ごめん、ごめん」


 もうちょっと強敵だったら自慢するんだけど、ガキだからなー。

 自慢になんない。


「それでどうするんです? 警察に届けるんですか? 今日、ヨシノさんと話したんでしょ?」

「ギルドにお任せ。あんな一銭にもならん奴はどうでもいい。それよりもオークションの許可が下りたんだってさ。レベル3の回復ポーションを売ろうぜ」

「おー! ついにですか!」


 カエデちゃんも喜んでいる。


「それで月曜あたりに時間が取れないかサツキさんに聞いてくれない?」

「いいですよ。というか、サツキさんも先輩に話があるそうです」


 サツキさんもあるのか……

 じゃあ、ちょうどいいな。


「時間は合わせるから調整してよ」

「了解です。あ、それと、キラキラ草を持って帰りましたよ」

「え? 早くない?」


 頼んだの一昨日なんだけど……


「昨日、依頼を出したら今日提出してきましたね」

「ウチのギルド?」

「いえ、他のギルドからです。ウチにミレイユ街道に行ける冒険者はそんなにいません」


 悲しいなー。


「じゃあ、他所のギルドの冒険者が採ってきたやつか」

「ですね。10束です。後で渡しますよ。それとサラサラ草は調査の依頼を出しました」

「調査?」

「まず、特徴を把握しないと採取依頼は出せませんからね。せめて写真とかあれば大丈夫なんですけど」


 確かにどんなもんかはわからないけど、サラサラ草を採ってこいって言われても無理だわな。

 まず、鑑定のスキルがいる。


「夜にしか咲かないって言うし、時間がかかるかもね」

「そうかもしれません。先輩が夜に行くのは賛成しかねますし、仕方がないです」


 別に夜に冒険するつもりもないが、カエデちゃんは反対か……

 まあ、俺が夜に冒険に行くということはカエデちゃんも出勤っていうことになるしなー。

 あとは単純に心配してくれてるのだろう。


「夜は行かない。怖いし、そこまで真面目にやるつもりもない」

「そうしましょう、そうしましょう。夜はまったり過ごすものです」


 ホントにそうだわ。

 カエデちゃんとテレビを見ながら他愛のない話をするのが一番だわ。


「だよねー」

「ですです。あ、それと例の命の結晶を調べましたが、ギルドのデータベースには載っていませんでしたね。おそらく、未発見アイテムです」


 データベースなんてあるのか……


「やっぱりか……」

「日本が借り受けているエリアにはないのかもしれません」


 となると、海外……


「ハリーとクレアに聞いてみる?」

「やめた方が良いと思います。名前が名前なだけに絶対に食いつきます」


 命の結晶だもんなー。

 軍事力の高いアメリカさんの反応が怖い。


「まあ、保留でいいか……それよりもレベル上げをして、もっと良いアイテムを作れるようになった方が良い」

「だと思います。先輩の考察通り、レベル10は特別なんだと思いますし、作れないなら仕方がないです。レベル11を目指しましょう」


 レベル11か……


「ミレイユ街道でいける?」

「ミレイユ街道はレベル20までは上がると思います。15以降は緩やかですけど、それまでは良いペースで上がると思います」


 こうやって聞くと、ミレイユ街道って難易度が高い気がするな。

 少なくとも、俺やナナポンが行くところではない。


「かなり飛び級してるな」

「まあ、先輩は元が強いですし、ナナカちゃんも先輩も高い武器を持ってますからね」


 ナナポンも高い杖を持ってるしなー。

 グレートイーグルを一撃で灰にしてるし。


「やはり金の力は正義か……」


 桐生みたいな便利系のユニークスキル持ちはこうやって金の力でレベルを上げ、短期間で高ランカーになったんだろうな。

 まさしく、ナナポンと一緒だ。


「高い武器は強力ですからねー。中には借金をする人もいます」

「すごいね」

「上手くいけば元を取れますからね。できなかったらお察しですけど」


 もし、俺がその立場なら借金はしないな。

 怖いもん。


「借金はねーわ」

「先輩はしませんよ。いくら持ってると思っているんですか……」


 いっぱい持ってる!


 俺は借金どころか貯まる一方だなーと思いながらカエデちゃんが帰りに買ってきた1000円もしない総菜を食べ続けた。




 ◆◇◆




 翌日は日曜だが、カエデちゃんが仕事に行ってしまったので1人でアイテム作りと実験に精を出した。

 そして、カエデちゃんが帰ってくると、翌日である月曜の昼にサツキさんとのアポを取ったと聞いた。

 俺はそれを聞いて、ナナポンに連絡を取り、一緒に行くかを聞いたのだが、どうやら大学に行かないといけないらしく、俺一人でサツキさんと会うことになった。


 翌日、今日もカエデちゃんは仕事のため、家にいない。

 俺は昼前に起きると、1人で行くなら沖田君でいいやと思い、エレノアさんにはならず、沖田君のまま準備を始めた。


 カエデちゃんが用意してくれたご飯を食べながらスマホを見ると、ナナポンからメッセージが届いていたので見てみる。


『授業、つまんないです』


 だろうな……

 こいつはテストをカンニングで突破するから授業を受ける意味もないし、ノートもいらない。

 ただ時間を潰すだけだと、マジで暇だろう。


『スマホでも弄ってなさいよ』


 俺はちゃんと沖田君ではなく、エレノアさんで返事をする。


『弄ってます。命の結晶の情報はないですね。あと、冒険者の情報も調べているんですけど、渋谷支部の支部長さんも元Aランクらしいですよ』


 あのゴリラ、元冒険者だったのか……

 しかも、サツキさんと同じAランクか。

 もしかしたら、Aランクになると、ギルマスになれるのかね?

 ヨシノさんのギルドならいいけど、桐生のギルドは嫌だな……


『私の挑発レベルが上がったのは渋谷支部長を煽ったからかもね……』

『何してんですか……あなたはAランクを煽らないといけない病気か何かです?』


 嫌な病気だわ……


 俺は暇そうなナナポンの相手をしながらご飯を食べ終えると、服を着替え、家を出た。

 そして、駅でタクシーに乗り込み、池袋のギルドに向かう。


 その間もずっとナナポンの相手をしている。

 ナナポンは余程暇らしく、メッセージを送ると、すぐに返事が来るし、少し時間を開けると、『エレノアさーん』と返事の催促がきた。


 こいつ、めんどくさいな……


『もうギルドに着いたからこれからサツキさんと話すわ。返事はできないから勉強しなさい』

『そんなー……』


 俺はギルドに着いたのでナナポンの相手を止め、タクシーを降りる。

 そして、表口からギルドに入り、受付にいるカエデちゃんのもとに向かった。

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