第5章
第130話 家に女を2人も呼んだんだけど、俺も女
渋谷支部で色々とあった翌日、この日は家でまったりと過ごす予定だった。
だが、今の俺は沖田君ではなく、エレノアさんである。
理由は簡単、エレノアさん大好きっ子のナナポンが来ているからだ。
「エレノアさん、新しい服を買ったんですねー」
俺がエレノアさんの姿でソファーに座っていると、隣に座っているナナポンが俺の服やスカートを摘まんでくる。
どうでもいいけど、スカートを捲るな、ガキ。
「冬物を買えってカエデちゃんに言われたからね。まあ、選んでもらったんだけど」
女物の服の合わせ方とかわからんし、すべてカエデちゃんにお任せだ。
「お似合いですよ!」
「ありがと……」
あんまり嬉しくない。
俺がナナポンと他愛のない話をしていると、チャイムが鳴った。
俺はソファーから立ち上がると、モニター画面を見にいく。
「ヨシノさんですか?」
「そうね」
俺は来客の顔を確認すると、頷いた。
今日は昨日の件や今後のことでヨシノさんとナナポンと話し合いをする日なのだ。
俺は玄関に向かうと、扉を開けた。
「やあ、やっぱりエレノアか」
ヨシノさんが笑顔で手を上げ、挨拶をしてくる。
今日のヨシノさんは例の勝負服ではなく、普通の私服だ。
「ナナカさんがいるからねー」
「君も大変だな」
「慣れたわよ」
「慣れてほしくないなー」
まあね。
俺はヨシノさんを迎え入れると、リビングに戻った。
「適当に座ってちょうだい。お茶を淹れるわ」
「うん。ありがとう。でも、眠り薬は入れるなよ」
「入れねーわ」
俺はキッチンに向かうと、あらかじめ用意していたコップにお湯を注いでいく。
そして、コーヒーができると、砂糖とミルクを持ってリビングに戻った。
ヨシノさんはソファーではなく、テーブルに座っていたため、テーブルにコーヒーを置く。
「悪いね」
「いえいえ」
俺はナナポンのいるソファーとヨシノさんが座っているテーブルのどちらに座ろうか悩んだが、テーブルに座ることにした。
「昨日はどうだった?」
俺が席に着くと、ヨシノさんが昨日の渋谷支部のことを聞いてくる。
「まず親御さんの謝罪とお礼は受け取ったわ。断りたかったけど、渋谷支部長が受け取れって言うし」
「まあ、受け取った方がいいだろ。渋谷支部長としても穏便かつ、さっさと終わらせたいんだ」
でも、80万円は高いわー。
最悪でも回復ポーションの料金だけで良かったのに。
「なんにせよ、無事に終わって良かったわ。お父さんも普通の人だったし」
「それは良かったな。本部長も安心しておられた。それでその後は?」
「支部長に話があるって言われて残ったんだけど、予想通り、探りを入れてきたわね。あの質問内容から考えて、桐生が何かしらの方法で聞いていたことは間違いないと思う」
もし、あらかじめ知っていなかったらベラベラと嘘をついて色々特定されたかもしれない。
少なくとも、アイテムを作っていることはバレただろう。
ナナポンがいてくれてよかったわ。
「桐生はやはり危険だな……」
「一応、脅しは入れておいたし、問題ないと思う。今後、来るならヨシノさんの方じゃない?」
「あいつが来るのか…………」
ヨシノさんが嫌そうな顔をする。
「適当にはぐらかして答えなさいよ」
「わかっている。このことは本部長と協議をしているし、部下にも徹底させた」
「早いわねー」
「さすがに真偽のスキルだからな。とはいえ、脅威ではあるが、対策を徹底させれば何とかなる」
恐ろしいスキルではあるが、バレたらどうしようもないな。
「なるほどね。じゃあ、私の考察を伝えておくわ。多分だけど、あのスキルには何かの制約があると思う」
「制約? 何故、そう思う?」
「私はテレビの討論番組に出てる。そこで色々と嘘を言っているのにも関わらず、昨日、確認してきた。多分、テレビはダメなんだと思う」
俺はテレビでポーションやアイテム袋をスライムからドロップしたと発言している。
それなのに昨日、また聞いてきた。
間違いなく、把握できていないからだ。
俺が出演したあの番組はネットにいくらでも落ちているし、見ることはできるはずだから見逃したという線はない。
「制限か……エレノア、その場に桐生はいなかったんだな?」
「そうね。隠れるところもなかったし、気配もなかった」
俺は気配察知を持っている。
隠れててもわかるはずだ。
「そうなると、直接、聞かないとダメという線は薄いか……リアルタイムじゃないとダメか?」
「かもね。もし、やろうと思えば、支部長が録音機を持っていけばいいわけだし、わざわざ桐生を連れていく意味はないわ」
前に本部長との協議に渋谷支部長が桐生を連れてきたことがあると言ってたが、変な話だ。
「うーむ、わかった。本部長に報告しておく」
「昨日はそんなところね」
「うん? 大事なことを忘れてないか? 昨日、私や本部長が残業する羽目になったことがあっただろ」
残業だったのか……
俺は悪くないけど、ごめんね。
「帰りに例のクソガキがナイフを持って襲ってきたわね」
「え!?」
ソファーで寝ころんでいたナナポンが驚きの声と共に顔を上げる。
「大丈夫だったんですか?」
顔を上げたナナポンが心配そうに聞いてきた。
「私が幽霊に見える? というか、あんなガキに何ができる? 目をつぶっても勝てるわ」
「無駄に後ろ回し蹴りをしたらしいな?」
詳しいな、おい。
「聞いたの?」
「受付嬢を聴取したからな」
あの子か……
「へー。まあ、その元グラドルの受付嬢がいたからかっこいい技を選んだのよ」
「そうか。その受付嬢から伝言だ。『スカートであれはやめてください。パンツが見えましたよ』だってさ」
かっこよさでなく、そっちを見たか……
「以後、気を付けます」
あまりスカートの感覚がないんだよな。
「そうしろ。それと無駄に挑発しないでください、だそうだ」
「それねー、ものすごく反省しているわ。おかげで挑発のレベルが上がったし」
挑発のレベルが2になってしまった…………
「そうか。私に追いついたな。さすがだ。この調子でリンを越えろ」
クソッ!
リンさんの嬉しそうな顔が目に浮かぶ。
「以前の腹いせだったんだよ」
助けたのにハイエナ呼ばわりは思い出すたびに腹が立つ。
「だろうな」
ヨシノさんがうんうんと頷いた。
「その件で残業だったの?」
「そうだ。あの子の親御さんを呼んだりと色々だ」
大変そう……
俺は何一つ悪くないけど、ホントにごめん。
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