第129話 辻褄が合う ★
俺は魔女との取引を終えると、支部長室に戻り、自席でタバコを吸っていた。
すると、部屋にノックの音が響く。
「入れ!」
俺が入室を許可すると、桐生が部屋に入ってきた。
「いやー、参りましたよー」
桐生は備え付けてあるソファーに座る。
「何があった?」
「盗聴してたのが見事にバレてましたよ」
「何!?」
「支部長が精算に行っている間に忠告されました。『盗撮は嫌いだけど、盗み聞きはもっと嫌い』だってさ」
バレている……
いや、今思えば、今日のヤツの回答は変だった。
テレビとかでは適当に答えていたくせに今日に限っては明言を避けていた。
「お前のユニークスキルがバレてるのか?」
「それ以外にないでしょ。完全に空振り。わかったことは魔女が本当に回復ポーションを水道水程度に思っていること、ヨシノさんと何かしらの繋がりがあること、池袋を動く気がないこと、魔女の目的が金なことくらいかな?」
つまり新しい情報はなしということか……
「何故、お前のユニークスキルがバレる? お前は魔女と接触していないんだろう?」
「してませんね。魔女の魔法かスキルか……どちらにせよ、思った以上に厄介な相手です」
得体の知れないバケモノか……
「ヤツの目的は金で良いんだな?」
「ええ。支部長の今後もアイテムを売っていくのかという質問の答えに嘘はなかったですし、儲かって嬉しいという言葉にも嘘はありませんでした」
金儲けが目的か……
経済支配でもする気か?
「まったく……わけのわからないバケモノだな」
「銃を持ってたらしいですね?」
盗聴していたから知っているか……
「偽物ではないだろうな。どうせ、アメリカの連中が流したものだろう」
ハリーとクレアはあの魔女の護衛だし、それ以外にも繋がりがあるのはわかっている。
おそらく護身用に渡したんだろう。
「銃や魔法に頼る相手なら何とかなる気がします」
「やめておけ。魔女が剣の使い手という情報は嘘ではないらしい。俺相手に余裕しゃくしゃくで挑発してきやがった」
俺だって元Aランクの冒険者だ。
あの魔女がその情報を知っているかはわからないが、お前なんか相手にならないと顔に書いてあった。
「ますます人間なのかを疑いますね」
「フロンティア人説が当たりかもな。あれほどの人間が急に現れるなんて変だ。しかも、戸籍なし」
「アメリカ人なのでは? 実はハリーやクレアと同じ工作員」
「どうかな? アメリカさんも振り回されている感じだったし、言葉や顔は日本人だ。しかも、お前には伝えてないが、あれは元々、黒髪らしい。美容院で染めたんだと」
調査の結果、腰まである黒髪ジャージの女が美容院に髪を染めに来たという情報を掴んでいる。
「変装?」
「変装であの髪を染めるか? まずは切るだろ」
目立つのは髪の色ではなく、長さだ。
あんな長い髪は人が多い東京でも滅多に見ない。
「いまいち、行動が読めませんね。何を考えているのか…………」
「もしくは何も考えてないんだろうよ」
冒険者を始めるために心機一転したとかあるし、考えても答えは出ない。
ましてや、女の考えることなんかわかるわけがない。
「どうしましょう? ミレイユ街道ですよね? 接触しましょうか?」
「うーん……」
どうしようかね?
俺が悩んでいると、扉の方からノックの音が聞こえた。
「入れ!」
「失礼します」
俺が入室を許可すると、魔女を送っていった受付嬢が入ってくる。
「帰ったか?」
「はい…………ただ、少し問題が……」
問題?
「何があった?」
「裏口でエレノア様が襲われました」
は?
「襲われただと!? どういうことだ!?」
「落ち着いてください。犯人は宇野君です。ほら、例の……」
宇野……
魔女に暴言を吐いて、本部長をキレさせた男子高校生か……
免許取り消しになったはずだが……
「逆恨みか?」
「そのようです。エレノア様に散々、言いがかりをつけたうえにナイフを取り出し、襲いました」
バカだ……
いくら未成年でもアウトすぎる。
「何故、奴がここにいる? 出禁なはずだろ」
「おそらく、SNSで誰かがつぶやいたのを見たのでしょう」
チッ!
それで来たのか。
そして、出禁がゆえに、表口の警備員を避け、裏に回ったのか……
「それでどうなった?」
「エレノア様のきれいな後ろ回し蹴りでナイフを飛ばされ、警備員に取り押さえられました。現在は裏の倉庫にいます。警察に連絡しましょうか?」
後ろ回し蹴りねー……
あの魔女、本当に好戦的だし、武闘派だな。
「俺から本部長に連絡する。こっちで対処できる問題じゃない」
あのじじいから嫌味をたっぷり聞かされるんだろうな……
クソッ!
「かしこまりました、引き続き、倉庫に閉じ込めておきます。ですが、ご両親のこともありますし、早めでお願いします」
未成年の問題が終わったと思ったらまた未成年か……
未成年を冒険者にするのが嫌になってくるぜ。
でも、そうしないと、有望株を他所に取られてしまう。
「魔女はどうした?」
「宇野君を脅した後、タクシーに乗り込みました。あれはハリーとクレアかと……」
あいつらは魔女の護衛らしいからな。
何もしてないが……
「脅しってなんだ?」
「腕を折って、回復ポーションで回復させるということを繰り返すそうです」
拷問じゃねーか!
「さすがは魔女だな。発想が怖い」
「なお、ゴリラ支部長といけ好かないAランクに伝言があります」
俺と桐生、か?
「なんだそれ?」
「エレノア様がそう言っていました」
まあ、わかっていたことだが、桐生のことが完全にバレてるな。
「…………伝言は?」
「2度目は許さないそうです」
怖っ!
「桐生、エレノアへの接触はやめろ」
俺はソファーに座っている桐生に指示をする。
「…………そうしますよ」
おや、女好きが珍しく素直だ。
「ビビったか?」
「腕を折られて、回復ポーションで回復させられるループはごめんです」
俺も嫌だ。
「ヨシノを攻めろ。あっち方面で情報を探れ」
どこまで探れるかはわからないが、魔女を直接攻めるのはやめた方がいい。
バケモノの尾を踏む必要はないのだ。
今日だけで大量の回復ポーションを仕入れることができた。
政府連中や本部長が言うように、放置して金の卵を産ませた方がいいに決まっている。
「わかりました」
しかし、池袋支部の女狐はどうやってあの魔女を手懐けたんだろうか……
「白石、気付いた点はなかったか?」
俺は見送っていた受付嬢に聞いてみる。
「エレノア様ですが、おそらく男性を好まれていない人かと思われます」
うん?
「どういう意味だ?」
「直接的に言えば、女性が好きな女性です」
レズ?
同性愛?
「何故、そう思う?」
「あなた方に対してやたら辛辣なことと私を見る目に欲が感じられました」
えー……
「本当に?」
「はい。胸元や足をチラチラ見ていました。あれはどちらかというと男性の視線です」
マジかよ……
あの魔女、ソッチなのか?
本当に?
いや、待てよ……
「そうなると、色々と納得がいくな……見ず知らずの女子高生に回復ポーションを使う、池袋の女狐のところから動こうとしない、その女狐の従妹の巨乳女と接触する、変なチビ女を連れている…………」
あ、あの魔女、マジでソッチだわ。
「そりゃ、俺がいけ好かない呼ばわりされるわけだわ」
桐生も納得したように頷いている。
「白石、仕事を頼めるか?」
ちょうどここに見た目麗しい餌がいる。
「嫌です」
だろうな……
「…………ウチのギルドに女冒険者は…………」
いねーな。
いてもぺーぺーのルーキーだけだ。
「そういえば、ここに女性冒険者っている?って聞かれましたね」
こりゃ確定だ。
「何と答えた?」
「正直に答えましたよ」
ここに移籍するメリットがないってそういうことかよ…………
「お前ら、この情報を流すなよ。ウチはどうしようもないが、新宿ギルドが怖い」
あそこは女しかいない。
「…………別に漏らしませんけど、そこまでのことです?」
「あの魔女は何を考えているかわからないんだ。俺達の常識が通じると思うな」
あれはアホかバケモノのどちらかだ。
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