第128話 心臓よりもラーメン


「下がりなさい」


 俺は逆恨みをしてきたガキを制しようした受付嬢を止めた。

 この人では止められないからだ。


「え? でも……」

「いいから下がりなさい。危ないわよ」

「え?」


 俺は受付嬢の肩を引き、無理やり下がらせた。


「私に恨みがあるのはわかったわ。でも、やめておきなさい。それを出したらあなたは終わるわよ?」


 この子はずっとポケットに手を突っ込んでいる。

 それも右手だけ…………


「うるさい! お前さえいなければ上手くいっていたんだ!! ユウカだって、きっと俺のことを!!」


 あかん……

 こじらせすぎてる……

 ダメだこりゃ。


「ユウカさんだって、きっとあなたのことをわかってくれると思うよ?」


 俺はなんとか説得を試みる。


「黙れ! 告ったらフラれたわ! お前のせいだ!」


 それは俺のせいではない。

 お前が悪い。


「私は関係ないでしょ」

「エレノア様の方が良いだとよ!!」


 わーお。

 俺、女子大生に引き続き、女子高生にまでモテちゃった。

 エレノアさんは魔性の女だったらしい。


「ふっ」


 俺は鼻で笑い、指で自分の髪を払った。


「て、てめー!!」


 男の子の目は吊り上がっており、完全にキレている。


 あっ……

 あかん。

 挑発のスキルが発動したっぽい。

 JKにモテた嬉しさのあまり、調子に乗っちゃった。


「許さねーっ!!」


 男の子はついにポケットからナイフを取り出した。


「や、やめなさい!!」


 受付嬢が叫ぶが、もう遅いだろう。


 男の子は俺にナイフを向ける。


「バカねー。そんなチンケな物で私をどうにかできるとでも思ったのかしら?」

「ク、クソがーっ!!」


 どうやらまた挑発が発動したらしく、男の子が俺にナイフを向けたまま、突っ込んできた。


「やっぱりダメね。シロウトだわ」


 俺は突っ込んでくる男の子を見ながら片足を膝くらいの高さまで上げた。

 そのままタイミングを見計らうと、上げた片足を回転させながら前に踏み込ませ、その反動で身体を回転させる。

 そして、身体を回転させると同時にもう片方の足を上げ、蹴り払った。

 要は後ろ回し蹴りを放ったのだ。


 俺の足がナイフを握っている男の子の手に命中すると、握られていたナイフが宙を飛んでいく。


「――ぐっ!」


 男の子は蹴られた手を抑え、その場でしゃがみ込んでしまった。


「何をしているか!?」


 男の人の声がしたので声がした方を振り向くと、裏口にいた警備員2人が走って、向かってきていた。


「この子を取り押さえて! ナイフを持って襲ってきたわ!」


 受付嬢が警備員に指示をする。


「――なっ! クソッ!」


 男の子は受付嬢の言葉を聞き、びっくりしたように顔を上げると、すぐに立ち上がり、逃げようとする。

 だが、それよりも警備員が駆けつけるのが早かった。


「大人しくしなさい!」

「クソッ! 放せ! 俺は悪くない! 俺は悪くない!」


 男の子は2人の警備員に取り押さえられると、ジタバタと暴れながら叫んでいる。


「ケガはない?」


 俺はもう大丈夫だろうと思い、後ろにいる受付嬢に聞く。


「え? 私よりエレノア様では?」


 まあね。

 この人は後ろにいただけで何もしてないし。


「あんな雑魚にケガをさせられたら恥よ、恥」


 ばーか。


「クソッ! お前、絶対に許さないからな!」


 俺の言葉が聞こえたらしい男の子が俺に向かって恨み言を叫んだ。


「許さなくて結構。だって、あなたはわるーい魔女に攻撃したんだもの。死ぬわね」

「え?」


 俺の言葉を聞いた男の子が呆ける。


「呪ってあげるわ」

「へ?」

「だーかーらー、呪ってあげる。ばいばーい」


 俺は男の子に向かって笑顔で手を振った。


「――や、やめ!」


 男の子の目に恐怖の色が見える。


「自分は攻撃するのに私はダメなの? おかしくない?」

「ち、ちがう……!」


 何が違うのかがわからない。


「わかった! 呪うのはやめてあげましょう。代わりにあなたの心臓をもらうわ。今日の晩御飯にする」

「「「「え!?」」」」


 男の子だけじゃなく、受付嬢と警備員2人も驚いたように俺を見る。


「…………冗談だったんだけど」

「エレノア様、失礼ですけど、ユーモアのセンスがないですね」


 俺の何がダメなんだろう?


「ふん! そこのガキ、次に襲ってきたら腕を折るからね。そして、回復ポーションで回復させるというループを永遠にお見舞いしてやるわ」


 俺は震えているクソガキを見下ろしながら脅した。


「エレノア様、それは冗談です?」

「マジで言ってるわよ。2度目は許さないってこと。あのゴリラ支部長といけ好かないイケメン風Aランクにもそう伝えておきなさい」

「わかりました。ゴリラといけ好かない男に伝えておきます」


 受付嬢が素直に頷いた。


「じゃあ、私は帰る。あ、ユウカさんに頑張るように伝えて」

「かしこまりました。本人も喜ぶと思います」


 今度会ったらサインを書いてやろう。


「じゃあね」


 俺はそう言いながら手を上げると、何故か近くに止まっているタクシーのもとに向かった。

 すると、タクシーの後部座席のドアが開いたため、俺は隣にブロンド女を着けてくれるサービスで定評のあるタクシーに乗り込んだ。


「あなた達って、私の護衛じゃなかったっけ?」


 俺は運転手のハリーと後部座席に座っているクレアに聞く。


「あんなのに助けなんかいらないでしょ」

「というか、どう見ても高校生だろ。学生は問題になるからパスだわ」


 使えないヤツら……

 マジで何しに来てんだろ……


「あー、今日は厄日だわ……」


 トラブルばっかり。


「そういう日もあるさ。よし! 俺が奢ってやろう!」

「どうせラーメンでしょ」


 また仏頂面呼ばわりされるやんけ。


「いやいや、この間、新発見したんだよ」


 ハリーもようやく真の日本食に目覚めたか。

 寿司でも天ぷらでもなんでもいいぞ。


「何を発見したの?」

「お前、担々麵って知ってるか?」


 やっぱりラーメンじゃねーか!

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