第127話 不審者


「あら?」


 俺が応接室を出ると、扉の前にはここを案内してくれた受付嬢が待ってくれていた。


「支部長より、裏口に案内するように言われております」


 どうやら先程、振り込みに行った際に指示していたようだ。

 まあ、勝手にギルド内をうろつかれても困るからだろう。


「じゃあ、お願い」

「はい、こちらです」


 受付嬢が階段のある方向とは別の方向に歩いていったため、ついていくことにした。


「ねえ? あなたって元グラビアアイドル?」


 俺は前を歩く受付嬢に聞く。

 なお、他意はない。


「売れなかったですけどね」


 おー! マジかー!

 確かに胸も大きかったし、服越しでもスタイルの良さがわかるもんなー。


「ここって、給料良いの?」

「良いですよ。エレノア様も冒険者を引退なされたら受付嬢になっては?」

「私は無理よ。不愛想だもの」


 ネットでめっちゃ仏頂面って言われた。

 写真を撮られる際にどうすればいいのかがわからないのだ。

 すぐに満面の笑みになれるクレアとハリーがうらやましい。


「エレノア様は魔女ですものね」

「ふふっ。魔女ねー」


 今さらだけど、魔女って何だろ?


 俺は自分で自分のことがおかしくなり、思わず笑みが出た。


 受付嬢と話しながら廊下を歩いていると、俺が昇ってきた階段とは別の階段が見えてくる。


「暗いわね」

「非常階段ですよ。ここを下りれば裏口です。裏口から右にまっすぐ行けば、駅に出ますのでそこからお帰りください」


 なるほどね。

 じゃあ、駅でタクシーを拾って帰るかね。


 俺は受付嬢と共に階段を下りると、すぐ近くの扉を開き、外に出た。

 裏口は池袋支部と同様に駐車場になっており、何台かの車が止めてある。

 また、出入り口近くには警備員が2人立っており、このあたりも池袋支部と同じであった。


 受付嬢は外に出てもそのまま歩いていく。

 どうやら駐車場の外まで見送ってくれるらしい。


 俺は引き続き、受付嬢についていくと、駐車場の出入り口で受付嬢が足を止めた。


「エレノア様、本日はご足労いただきありがとうございます」


 受付嬢は立ち止まると、俺に頭を下げながらお礼を言ってくる。

 なお、その際、予想通り、チラッとグラビアアイドルらしいものが見えた。


「いえいえ、いい商売もできたし、良かったわ。もう来たくないけどね」


 この受付嬢は目の保養になるが、やっぱり敵地は嫌だ。

 男がいっぱいいるし……


「エレノア様はそう思われるかもしれませんね。まあ、気持ちはわかります…………ああ、そうそう、せっかくなので1つアドバイスをしますと、テレビに出られる際は見られてるという感覚を忘れることが重要ですよ」


 テレビに出てた俺があんまり良くなかったんだろうな……


「実体験?」

「いえ、元事務所の方にそう教わっただけです。私はたいして売れてないのでテレビもロクに出てません」


 とはいえ、出たことはあるのか……


「そう……今度があるかはわからないけど、参考にさせていただくわ」

「ぜひ。私もエレノア様がテレビに出られるのを楽しみしていますので…………では、私はここで。エレノア様の今後のかつや、くを…………?」


 受付嬢がしゃべるのを途中でやめた。

 しかも、目線的に俺を見ておらず、俺の後ろを見ている。


 俺は気になって、後ろを振り向くと、1人の坊主の男が立っていた。

 その男は若い。

 というか、制服を着ているところを見ると、高校生だろう。


 その男の子はポケットに手を突っ込みながら俺を睨んでいる。


「あの、エレノア様、お知り合いですか?」

「知らない。あなたは?」

「いえ、私も…………」


 誰?


「――ふざけるな!!」


 俺と受付嬢が顔を見合わせながらはてなマークを浮かべていると、男の子が怒鳴ってきた。


「え?」

「何?」


 俺と受付嬢は急に怒鳴ってきた男の子にびっくりする。


「お前のせいだ! お前のせいで!!」


 俺のせい?

 俺、何かした?


「あなた、誰よ?」


 俺はこの坊主頭の言っている意味もわからないし、埒が明かないから聞いてみることにした。


「俺はお前のせいで免許をはく奪されたんだ!!」


 免許?

 え? この子、もしかして、あの時、俺に暴言を吐いた子?


「…………エレノア様、髪型が変わっているので私も気付きませんでしたが、よく見たら例の子です」


 受付嬢が俺に耳打ちしてくる。


「あー……」


 坊主になってたから気付かなかった。

 でも、確かにこんな顔でこんな声だったと思う。

 多分、免許をはく奪されて、親か誰かに頭を丸めさせられたのだろう。


「お前のせいで! お前のせいで!!」


 俺のせいなのかね?


「私は何もしてなくない?」

「黙れ! どうせ、お前が金の力で俺のせいにしたんだろう!! ハイエナのくせに! おかげで俺は免許はく奪されたうえにあいつらにも責められ、学校で孤立した! 全部、お前のせいだ!」


 すげー……

 これぞ逆恨みだ。


「あなたね! あの件はすべてあなたが――え?」


 受付嬢は俺の前に出て、言いがかり男を制しようしたのだが、途中で俺が彼女の肩を掴んだため、こちらを振り向く。


「下がりなさい」


 俺は前に出ようとする受付嬢を止めた。


 ったく……女は下がっとけよ。

 …………まあ、俺も女だけど。

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