第126話 回復ポーションはどこでも売れるなー


 以前に助けた子のお父さんから謝罪とお礼を受け取り終え、用件は済んだのだが、渋谷支部の支部長はそう簡単に帰してくれないらしい。


「話って何?」


 俺はソファーに座りながら足を組み、ミステリアスを意識しながら聞く。


「単刀直入に聞く。お前は何者だ?」


 難しい質問をしてくるな……

 とはいえ、答えるしかない。

 注意すべきはこの場に真偽のスキルを持っている桐生がいないが、どこかに隠れているかもしれないし、カメラや盗聴器で聞いているかもしれないということだ。


「何者と聞かれても困るわ。ただのDランク冒険者よ」

「回復ポーションを何故、あんなに大量に持っている? お前がレベル1の回復ポーションを池袋支部に売っていることもレベル2の回復ポーションを本部長やクレア・ウォーカーに売っていることも調べがついている」


 クレアはともかく、本部長に売ったこともバレてるのか……

 このおっさん、どう見ても脳筋だが、そうではないらしい。


「あまり顧客のことは言いたくないわね。信用に関わる」

「信用? 魔女のお前がか?」

「魔女だろうが、何だろうが、商売をするなら信用が大事よ」


 俺が売ったということはわかっているんだろうが、わざわざ明言することもないだろう。


「どうやって回復ポーションを手に入れている? ドロップか?」


 ドロップかと断定して聞いてきたか……

 これで桐生が聞いていることが確定したな。

 普通だったら気付かない質問だが、相手が真偽のスキルを持っていることを知っていれば、不自然な質問に聞こえる。


「さあ? どうでもいいでしょう。少なくとも盗んだものではないし、問題はないわ」

「…………お前、本部長と繋がりがあるのか?」

「会ったことはないわね。以前、進藤先生に邪魔されてしまってね」

「ああ……それは聞いている。災難だったな。あの人はよくウチにも来てた」


 アクティブな人だなー。

 そして、めんどくさい人だ。


「そう、だから会ったことはない」

「では、契約はヨシノだな?」


 質問がイエスかノーで答える質問ばかりだわ。


「どうかしら? さっきも言ったけど、顧客のことは言いたくない。でも、三枝さんとは面識があるわね」

「ふーん……お前はフロンテイア人か?」


 これは答えられんな。

 否定してもいいが、脅しの効果が薄まってしまう。


「質問ばかりでいい加減、うっとうしいわよ。その手の質問は辟易してるの。あとで紙にでも書いて送ってちょうだい。書いて送るから」


 俺はわざと不機嫌っぽく、支部長を睨む。


「俺も冒険者の平穏を守るギルドの代表だ。不審人物を見逃せん」

「だったら何? 私を捕まえる? 殺すわよ? きっと正当防衛が認められると思うわ」

「魔法でか?」

「そんなものはいらない」


 俺はカバンからクレアからもらったハンドガンを出す。


「銃…………何故、そんなものを持っている?」


 支部長が腰を浮かし、睨んでくる。


「誰かさんにもらった。あと、襲い掛かって銃を奪おうとしても無駄よ。あなたより私の方が速い」


 腰を浮かしたのは失敗だったな。

 やるならそんな見え見えの準備なんかせず、一気にやらないといけない。

 奇襲はバレた時点で意味をなさないのだ。


「…………まいった。やめよう。それをしまえ。見なかったことにする」


 支部長は降参を示すように両手を上げると、浮かしていた腰を下ろし、背中を背もたれに預けた。


「ねえ? もう帰っていい?」

「まあ、待て。お前、こっちにつく気はないか?」


 サツキさんを裏切れってことかな?


「嫌。このギルドにはメリットがない。もう少し上品にしなさいよ。受付嬢のあの服装は何?」

「ウケたんだからいいだろ」


 男ウケは抜群だろう。


「女性は来ないわね」


 ユウカさんとあのお友達は…………

 残り2人の男子に付き合った形かね?


「…………じゃあ、新宿に行く気か?」

「行く意味がない。池袋で十分よ」

「ならいい。他所に行かれると困るが、池袋だったら抜かれることはない」


 競い合っているのかな?

 サツキさんはあんまりそんな感じはしなかったけどな。


「じゃあ、もう帰ってもいい?」

「まあ、待て。せっかちだな……用事でもあるのか?」

「ないけど、ここにいたくない。お茶も出さないゴリラは困るわ」


 ハリーといい、こいつといい、礼儀を知らんのか?


「コーラでも飲むか?」

「アホか……帰るわ」


 俺は呆れて、立ち上がる。


「まあ、待てというに。商売の話がしたい」


 俺はそう言われたので、大人しく座った。


「くだらない遊びなんかしてないで最初からそう言いなさい。何が欲しいの?」

「逆にだが、何を売れる? ポーションもアイテム袋もいくらあっても困らない」


 こいつ、儲けているだけあって出しそうだな……


「レベル1とレベル2の回復ポーション、あとアイテム袋かな? 翻訳ポーションなんかいらないでしょ?」

「ああ、いらん。それよりもレベル3の回復ポーションが欲しい」


 レベル3…………

 確かにオークションに申請を出しているから知っててもおかしくないが、それは本部の人間だろう。

 桐生が探ったのかな?


「レベル3はまだダメ。オークションで相場を決めてからよ。私もあれをいくらで売っていいのかわからないの」

「じゃあ、オークションが終わってからでいい。レベル1の回復ポーションを50個、レベル2の回復ポーションを10個売ってくれ」


 えーっと、いくらだろ?


「レベル1が50万、レベル2が350万でいい?」

「構わん」


 値段交渉もなしね。


「すぐに出せるけど?」

「頼む」


 俺はそう言われたので、立ち上がると、カバンからポーションを取り出し、床に並べていく。


「床で悪いわね」

「構わん」


 俺は1個ずつ、回復ポーションを並べていき、レベル1の回復ポーションを50個、レベル2の回復ポーションを10個、取り出し、床に並べた。


「これでいい?」


 俺は依頼されたすべてのポーションを出すと、支部長に聞く。


「ああ。鑑定は…………まあ、いいか。金はどうする? 額が額だし、振り込みがいい。現金は時間がかかる」


 現金の方がいいけど、金の受け渡しにまたここに来たくないな……


「これでお願い」


 俺は支部長のところに行き、クレジットカードを渡した。


「桜井サツキ? なんだ……あいつのカードじゃないか」

「もらったの。それに振り込んでちょうだい」

「カードが作れない……? お前、本当に戸籍がないんだな……フロンティア人説が真実味を帯びてきた」


 エレノアさんに戸籍がないことまで知ってるんだなー。

 桐生はホントにヤバいわ。


「どうでもいいし、好きに解釈してちょうだい。いいから振り込んできて」

「ちょっと待ってろ」


 支部長はそう言うと、カードの口座番号をメモする。

 そして、俺にカードを返すと、部屋を出ていった。


 俺はこの場で1人残されたため、ソファーに座りながら支部長が帰ってくるのを待つ。


 …………ちょっと脅しでもかけてやろうかな?


 俺は桐生に牽制をしておくことにした。


「…………盗撮は嫌いだけど、盗み聞きはもっと嫌いだわ」


 俺がそう言っても反応は返ってこない。

 だが、もし、本当に桐生が聞いているのならば、効果はあるだろう。

 聞いてなかったらただの独り言。


 俺は牽制を終えると、そのまま支部長が帰ってくるのを待ち続ける。

 しばらく待っていると、急にドアが開かれ、支部長が戻ってきた。


「待たせたな」

「いや、ノックくらいしなさい」

「別にいいだろ」


 ダメだわー。

 こんな風にはなりたくないものだ。

 まあ、俺もカエデちゃんの部屋にノックせずに入ろうとしているけど……


「ほれ、そんなことより、これが明細書だ。ちゃんと振り込んだからな」


 支部長がそう言って、紙を渡してきたので見てみる。

 書類にはちゃんと、レベル1の回復ポーションが2500万円、レベル2の回復ポーションが3500万で合計6000万となっていた。


「はい、確かに」

「スライムからドロップでいいんだな?」

「そうしてちょうだい。皆、そう言っている」


 クレアもサツキさんもそう言い張っている。


「わかった。また、何かあったら売ってくれ。渋谷支部は高ランクの冒険者が多いし、回復ポーションはいくらでも捌ける」


 さすがだねー。


「じゃあ、私は帰るわ」

「ああ。今日はわざわざ悪かったな」

「いえいえ、儲かったから良しとするわ」


 6080万円も儲かった。


 俺は用件が済んだので立ち上がると、出口の方に行く。

 そして、ドアノブに手をかけた。


「最後に聞いていいか?」


 俺が部屋を出ていこうとすると、支部長が聞いてくる。


「どうぞ」


 俺は後ろを振り向かずに許可した。


「お前は今後もアイテムを売っていくのか?」

「そうなるわね。こうご期待」


 俺はゆっくり振り向き、微笑みながら答える。


「わかった。今日は感謝する。おかげで未成年の問題という悩みの種が1つ取れた」


 ここって、ホントに問題が多い支部なんだな。


「人を集めるのはいいけど、子供は大切にしなさい」

「それはもちろんだ。あいつらは1人を除き、研修漬けにしている」


 山辺のおっさんもそんなことを言ってたな。


「そう……武器の扱いや動きがドシロウトにもほどがあったからみっちりやりなさい」

「そうするつもりだ」

「ふふっ。では、ごきげんよう」


 俺は扉を開くと、退室した。


 よっしゃ! 帰ろう!

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