第117話 ちょっとだけ強くなった


 俺はスキル習得のためにヨシノさんにめちゃくちゃ殴られている。

 それでも途中で何本も強化ポーション(防)を飲み直しながらやり続けてきた。


 時にはモンスターが現れたために修行を中止し、モンスターを倒し、時には『気配察知っているか?』と思ったこともある。

 だって、ナナポンがいるし。


 それでもやり続けたのはヨシノさんとリンさんがすぐに習得できたという言葉のせいである。

 ここでやめるのは俺のプライドが許さなかった。


 そのおかげもあり、やり続けていると、何となくだが、ヨシノさんの位置がわかるようになってきた。

 ヨシノさんは気配を消すのが上手いが、攻撃する時には何となくわかるのだ。


 そして、さっきも殴られたのだが、この時にはヨシノさんの位置が完全にわかるようになっていた。


「まだやるかい? 正直、ちょっと疲れたんだけど」


 ヨシノさんがそう言ってくるが、勝ち逃げは許さない。


「じゃあ、次が最後でいいよ」


 もうわかったし。

 くふふ。

 今まで殴ってきた怒りの蓄積を俺の剣(竹刀)に込めてやるぜ。


「君はわかりやすいなー……構えが攻撃に寄ってるし、笑ってるじゃないか……もういいでしょ。絶対に気配察知のスキルが出てるからステータスカードを確認しなよ」


 こらこらー。


「いや、まだな気がする」

「挑発のスキルが上がるよ? どうせ、私を殴ったらイキるんだから」


 俺はそう言われて、目を開ける。

 目の前には呆れた顔をしたヨシノさんが立っていた。


「めちゃくちゃ殴られた腹いせをしようと思っていました」

「だろうね」


 ヨシノさんが呆れたように笑った。

 俺はそんなヨシノさんを横目にカバンからステータスカードを取り出すと、確認する。




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名前 沖田ハジメ

レベル9

ジョブ 剣士

スキル

 ≪剣術lv6≫

 ≪話術lv1≫

 ≪挑発lv1≫

 ≪気配察知lv1≫

☆≪錬金術≫

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レベル9

  回復ポーションlv1、性転換ポーション

  眠り薬、純水

  翻訳ポーション、アイテム袋

  透明化ポーション、鑑定メガネ、鑑定コンタクト

  回復ポーションlv2、強化ポーション(力)

  強化ポーション(速)、強化ポーション(防)

  オートマップ、回復ポーションlv3

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 やはり気配察知を覚えたか……

 挑発もまだレベル1のままだ。


「あったかい?」


 ヨシノさんが聞いてくる。


「あった、あった。ありがとね」

「いや、覚えたのなら良かった。私もビシバシと人の頭を叩くのは心苦しくてね。自分がやられた時は気にならなかったんだが、リンにやった時は心が痛かった」


 この人、Mだな。

 巨乳のMだ。


「ヨシノさんの気配察知レベルっていくつ?」

「1だよ。これが必要な時は限られるから1で十分だと思う」

「じゃあ、これでいっか」

「だと思うよ。少なくとも、君にはナナポンがいるし、問題ないだろう。ほら、そのナナポンも終わったらしいぞ」


 ヨシノさんにそう言われて、ナナポンとリンさんがいる方を見ると、ナナポンが地面に腰を下ろしていた。


「昼食にするか……」


 お腹が空いてきたし。


「そうだね」


 俺はヨシノさんに竹刀を返すと、ヨシノさんと共にナナポン達のもとに向かった。


 俺達は合流すると、街道近くにシートを敷き、昼ご飯を食べ始めた。

 俺はカエデちゃんのおにぎりでナナポンはパン、ヨシノさんがコンビニ弁当でリンさんは自作の弁当だった。


「沖田さん、気配察知とやらは覚えられました?」


 パンを食べているナナポンが聞いてくる。


「覚えた」

「ほうほう。じゃあ、私が後ろから殴りかかってきてもわかります?」

「それは最初からわかる」


 シロウトの動きならスキルがなくてもわかるわ。


「何故にわかるのか……」

「それよりもお前は?」


 俺はナナポンの成果を聞く。


「バッチシです! 私のアイスニードルを見せてあげます」


 アイスニードルって、前にリンさんが使ってたやつか。

 氷の槍が出てきて、グレートイーグルを突き刺していた。


「良かったな。じゃあ、午後からはレベル上げをするか……」


 俺もレベル10になりたいし。


「いいよ」

「私も少しは身体を動かしたい」


 ヨシノさんもリンさんもOKらしい。


「じゃあ、それで。ナナポンのアイスニードルを見よう」

「任せてください。沖田さんの気配察知は…………別に見なくていいか」


 見せられるもんじゃないし、別にいいんだけど、少しは俺に興味を持とうよ。

 エレノアさんだったらすごーいって言うくせに。


 俺はナナポンに呆れながらもカエデちゃんが握ってくれたおにぎりを食べ、皆もそれぞれのご飯を食べていった。


 昼ご飯を食べ終え、少し休憩すると、シートをしまい、モンスターを探す。

 街道を逸れ、平地を歩いていると、上空に黒い塊を発見した。


「ナナポン、グレートイーグルだぞ」


 グレートイーグルを発見した俺はナナポンに声をかける。


「あ、ホントだ。よーし、見ててくださいね」


 ナナポンがそう言って、空にいるグレートイーグルに向かって杖を向けた。


「いきなり撃つのか?」


 グレートイーグルは地上まで下りてくるのを待ち、そこを攻撃して、逃げていく背後を魔法で攻撃するのが定石のはずだ。


「いける気がします。失敗したらよろしくお願いします」


 まあ、ナナポンがそう言うならやらしてみるか。


 俺はいつでも援護にいけるように刀を抜き、ナナポンのそばに行く。

 ヨシノさんとリンさんも剣を抜いた。


 俺達が待ち構えていると、グレートイーグルは旋回しながら徐々に高度を落としていく。

 ただし、襲ってくる気配がない。


「俺達が待ってるから来ないのかな?」


 俺はヨシノさんに聞く。


「待ち構えていると、向こうも警戒するからね。でも、来るよ」


 ヨシノさんがそう言うと、旋回していたグレートイーグルが一気に降下してきた。

 グレートイーグルの狙いは…………ナナポンだ。

 まあ、一番小っちゃくて弱そうだもんな。


 グレートイーグルは結構なスピードでナナポンに向かっているが、ナナポンは慌てずに杖を向けたままだ。

 すると、ナナポンの杖の先が少し光った。


「アイスニードル!」


 ナナポンが魔法名を叫ぶと、光っていた杖の先から氷の槍が現れ、グレートイーグルに向かって飛んでいく。

 俺はすごいとは思ったが、まだ距離があるため、避けられるんじゃないかと思った。

 すると、予想通り、グレートイーグルは氷の槍をスイッと横に避ける。


 ダメじゃん……


 俺はしょうがないなーと思いながら刀を構える。

 しかし、直後、グレートイーグルに氷の槍が突き刺さった。


「あれ?」


 俺が首を傾げていると、グレートイーグルは氷の槍が突き刺さったまま、地面に落下し、息絶え、煙となって消えていった。


「どうです?」


 ナナポンがドヤ顔で俺を見てくる。


「グレートイーグルを見てたからよくわかんなかったけど、ナナポンがやったの?」

「そうです。必殺、連続魔法です」


 うーん、ちょっとかっこいい。


「魔法って連続で放てるもんなん?」


 俺は魔法を教えたリンさんに聞く。


「専門の魔法使いはできるね。私やヨシノは無理」


 ジョブの恩恵だろうか?

 剣士の恩恵って何だろ?


「ふーん。魔法使いってすごいな。ナナポン、じゃんじゃん魔法を使って倒せよー」


 こら、楽だわ。


「いいんです? 私のレベルが上がっちゃいますけど……」


 よくないね。


「ハイウルフを探そうっか。俺もレベル上げをしたいし」

「探して見つかるもんじゃないよ? というか、素直に仲間が強くなることを喜ぼうよ」


 ヨシノさんが俺のちっぽけなプライドに呆れている。


「まあまあ。沖田君は年上だし、女より強くなろうとする男を止めるもんじゃないよ」


 リンさんは男を立てるのが上手そうだ。

 さすがだぜ。

 …………いや、調子に乗らせて俺の挑発レベルを上げたいだけだな。


「じゃあ、あとは沖田君に任せようか。君、グレートイーグルもやれるでしょ」


 うーん、すげー子供扱いされているような気がするのは気のせいだろうか?


「いや、ナナポンに任せるわ」

「ふっ…………いえいえ、譲りますよ。早くレベル10になるといいですね」


 ナナポンに鼻で笑われた。

 久しぶりにブラックナナポンを見た気がする。

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