第116話 スキル習得
ナナポンにヨシノさんとリンさんのステータスカードを確認させると、ヨシノさんが嘘をついていなことが判明した。
それと同時にサングラスがないと怪しまれることもわかった。
「よくわからないけど、これで満足か?」
リンさんが呆れながら聞いてくる。
「お騒がせしちゃったね。もういいよ。じゃあ、冒険に行こうぜ」
「それはいいんだけど、横川は魔女の弟子らしいし、魔法使いでいいのか?」
あ、その辺を紹介してなかった。
「そうそう。ナナポンは優秀な火魔法使いなんだ。な?」
俺はいまだにリンさんにビビって、俺の背中に隠れているナナポンに振る。
「レベル10程度なんでそこまで優秀というわけではないですが、沖田さんが言うように火魔法が使えます」
ナナポンが俺の背中から顔だけ出して答えた。
「まあ、ここでやれてるんだろうし、レベル10でも十分だよ。というか、なんで私にビビってんだ?」
「怖いんだって。人斬りの匂いがするらしい」
「そら、斬ったことも…………いや、まあこれはいいや。沖田君よりかはマシじゃない?」
リンさんは人を斬ったことがあるらしい。
こわー。
「やっぱり斬ってるし! 怖いです!」
ナナポンが顔を引っ込める。
「ホントだよなー」
怖い、怖い。
「いや、沖田君もナナポンを誘拐したヤツらを斬ったんじゃないの?」
ヨシノさんが余計なことを言ったせいでナナポンが俺の背中からヨシノさんの背中に移った。
「横川、言っておくが、そいつが一番斬ってるぞ」
リンさんがヨシノさんのところに行ったナナポンに忠告する。
「ひえ! ここには人斬りしかいない!」
ナナポンは慌てて、俺の背中に戻った。
「2人共、斬ったことがあるの? 殺人犯?」
「私らがやり始めた時なんかは襲われることが多かったんだよ。知名度もなかったし、装備的にシロウト感が万歳だったからな。特にヨシノは……」
「あー……」
俺はヨシノさんの大きなふくらみを見て納得した。
要は返り討ちにしたってことだ。
「沖田君、見すぎ…………ナナポン、沖田君がいるから大丈夫だとは思うけど、気を付けろよ。特に夜とか人気のない所は危ない。わかってると思うけど、君みたいな弱そうな子が襲われやすい」
ナナポンさんは誰もいないダイアナ鉱山で活動してたね。
まあ、あそこは人気がないどころか誰もいないんだけど。
「気を付けます」
ナナポンがそう言って俺を見上げてきたので頭を撫でる。
「安心しろ。俺が暴漢の首を刎ねてやる」
「安心できるんですけど、怖いです。あなた、笑いながら斬ってたし」
笑ってないっての。
「沖田君、挑発のレベルは上がったか?」
リンさんが笑いながら聞いてきた。
「上がってない。俺は謙虚を覚えたの」
「あんたは素質があるから早いよ。すぐに私を抜く」
「挑発の素質なんかいらんわ」
冒険者の素質がほしい。
「あ、そうそう。挑発のスキルで思い出した。今日はこの前のお詫びに君達にスキルを習得させるんだった」
ヨシノさんが思い出したように言う。
「穴掘りはいらんぞ」
「そうかい? ナナポンは?」
「私も穴掘りはいらないです。あのー、魔法を教えてくれませんか? 私、火魔法しか使えませんし、役に立てそうなのは魔法くらいなんで」
まあ、ナナポンが近接戦闘をすることはない。
弱いし、そんなことができる人間ではない。
「なるほどね。リン、ナナポンを任せていい?」
「いいよ。たいした魔法は使えないけど、初級くらいなら教えられる」
この人達のメインウェポンは剣だが、この人達は何でもできるオールラウンダーなのだ。
「じゃあ、沖田君は…………沖田君も魔法にする?」
魔法かー……
覚えてみたい気もする。
「さっきの気配察知を教えてよ。便利そう」
「ああ、あれね。君ならすぐだと思う。というか、持ってないのが意外だ」
多分、ナナポンに頼ってたからだろうな。
「ある程度、気配なら察知できるような気がするんだけどね」
「まあ、スキルだからね。すぐに覚えられるようになるよ。じゃあ、行こうか。歩きながらレクチャーするよ」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
俺とナナポンは頭を下げ、お願いする。
「沖田君、頭を下げるなよ。君はもうちょっと横柄な態度の方がかっこいいと思うぞ」
黙れ、人妻!
俺の挑発レベルを上げようとすんな!
◆◇◆
俺達は街道を進むと、誰もいないところにやってきた。
そして、街道を少し外れると、俺とヨシノさん、ナナポンとリンさんに別れる。
「さて、沖田君、始めようか」
ヨシノ先生が俺の前で腕を組む。
ちなみに、少し離れたところではリンさんがナナポンにレクチャーしていた。
「よろしくー」
「うんうん。まず気配察知なんだけど、習得の仕方自体はそう難しいものじゃない。ただ、感覚を掴むのが難しくて習得には時間がかかるんだよ。でも、君は剣術をやっていたわけだし、すぐだろう。実際、私やリンも早かった」
何気にプレッシャーをかけてきやがった。
すぐに覚えられなかったら悔しいじゃねーか。
「どうやんの?」
「まあ、古典的だけど、君が目をつぶり、私が攻撃する」
確かに古典的だな。
漫画とかの修行シーンで見たことがある。
「何? 肌で感じろっての?」
それとも心の目?
「そんな感じかな? やってればその内、わかるようになるんだよ。スキルなんてそんなもん」
ふーん……
「目をつぶるのか……ここで?」
モンスターが出るんですけど?
ハイウルフはともかく、グレートイーグルに脳天を突かれたくない。
「大丈夫。私がちゃんと見張ってるから」
「頼むぞ」
怖いけど、Aランクのヨシノさんを信用しよう。
「任せときなさいって」
「それで攻撃って? 剣はやめてよ」
「大丈夫。はい、これ」
ヨシノさんはそう言って、カバンから竹刀を2本取り出した。
「竹刀?」
「ちょっと痛いかもだけど、我慢して。ハリセンの方が良かった?」
ハリセンは嫌だわ。
誰かに見られたら恥ずかしい。
コントだもん。
「竹刀も痛いからなー……ヨシノさんはいいの?」
「一応、防御くらいはするし、私はレベルが高いから大丈夫。でも、突きはやめて」
突きなんかせんわ。
危ないにもほどがある。
俺はヨシノさんがいいならいいかーと思い、竹刀を受け取ると、カバンから強化ポーション(防)を取り出し、飲んだ。
「よし、これでオッケー!」
「ちなみに聞くんだけど、それは何だい?」
ヨシノさんが俺の手にある空になったペットフラスコを指差し、聞いてくる。
「防御力が上がるポーションだな」
俺はそう言って、ペットフラスコをカバンにしまうと、竹刀で素振りをした。
自分で言うのもなんだが、中々、良い振りだ。
ヨシノさんは不満そうに俺の素振りを見ている。
「…………私の分は?」
「さっき、大丈夫って……」
「……………………」
ヨシノさんが悲しそうな顔をした。
「いる?」
「くれ」
俺はカバンから強化ポーション(防)を取り出し、ヨシノさんに渡す。
「これってどれくらいの攻撃を防げるんだ?」
「検証が難しいからわかんない。でも、竹刀なら大丈夫。実際にカエデちゃんに竹刀で殴ってもらったけど、問題なかった」
心はちょっと痛かったけどね。
おっぱいばっかり見るなって言われたし。
「うーん、そこまでは検証したのか……じゃあいいか。竹刀だし」
ヨシノさんはそう言うと、強化ポーション(防)を飲み干した。
「どう?」
「わからん」
俺がヨシノさんに聞くと、ヨシノさんは自分の腕をつねったりしながら首を傾げる。
「どうも攻撃に反応するっぽいんだよね」
「まあ、やってみた方が早いか……じゃあ、沖田君、始めようか。目をつぶって」
やってみるって俺のことか?
舐めんな!
返り討ちにしてやる。
俺は竹刀を構えると、目を閉じた。
そして、耳に神経を集中させ、ヨシノさんの位置を探る。
だが、まったくわからなかった。
そういえば、この人、気配を消せる人だったわ。
最初に会った時も接近に気付かなかった。
「ちょっと待て。気配を消しすぎだろ」
俺がそう言ってもヨシノさんは答えない。
くそっ!
マジでやる気だ……
だが、ヨシノさんはミスをした。
答えなかったということは自分の居場所を知られたくなかったからだ。
つまり、ヨシノさんは正面にはいない。
「ここだー!」
俺は竹刀を後ろに振った。
だが、何も感触はなく、空を切る。
「ごめん、ここだよ」
正面から声が聞こえたと思ったら頭に衝撃が走った。
とはいえ、まったく痛くなかった。
「汚い! まさか動いてないとは!」
俺は目を閉じたまま文句を言う。
「いや、私は何もしてないんだが……君が勝手にドヤ顔をしながら剣を振っただけだろ」
クソッ!
なんか恥ずかしい。
「よーし、もう1回だ!」
「いや、ちょっと待って。ちゃんと気配を探ってね。心の読み合いじゃないから」
それもそうだ。
なんかサッカーのPKみたいにギャンブルをやっている気分だったわ。
「わかった」
俺も目を閉じたまま、静かに構える。
だが、全然、わからない。
ヨシノさんの気配がまるでないのだ。
これはまだ動いていないのかもしれない。
俺はヨシノさんが動くのをじっと待つことにした。
「ごめん」
俺の後ろから声がしたと思ったら再び、脳天に衝撃が走る。
「いつの間に……」
この女、マジで気配を消すのが上手い。
一部分はものすごく主張しているくせに。
「もうちょっとやる?」
「当たり前。さあ、来い! 心眼を見せてやる」
「突こうか?」
俺の上半身を吹き飛ばそうとすんな!
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