第115話 やっぱりエージェント・セブンだな


「ヨシノさん、リンさん、冒険前にちょっといい?」


 俺はナナポンに目配せをした後に作戦を開始する。


「何だい?」

「まだ何かあるか?」


 2人が声をかけた俺を見てくる。

 その隙にナナポンがヨシノさんの後ろに回った。


「ちょっと相談があるんだけど、カエデちゃんって俺のことをどう思ってるかなー?」


 別に聞きたいわけではないが、他に話題が思いつかなかった。


「知らん」

「興味ない」


 2人共、一刀両断だ。

 まあ、そうだろうな。


「2人ってカエデちゃんを知ってるんだよね?」

「私は冒険者時代から知ってるな」

「私も一応、知っている。そんなにしゃべったことはないが……」


 リンさんがあんまりしゃべったことがないようだ。


「どんな感じでした?」

「うーん、そう聞かれてもなー」

「コミュ力は高そうだったな」


 ナナポンがヨシノさんのカバンをじーっと見ている。

 ものすごいガン見だ。

 時に目を細め、こちらから見ると、非常に怪しい。

 とはいえ、2人は俺の方を見ているので気付かない…………と思っていたのだが、ヨシノさんがふいに後ろに腕を伸ばす。

 すると、ヨシノさんの手がナナポンの首を掴んだ。


「ぐえ!」


 首を掴まれたナナポンがうめき声をあげる。


「ん? なんだ、ナナポンか……何しているんだ?」


 ヨシノさんがナナポンの首をパッと離した。


「ゴホッ! ゴホッ! いえ、良いカバンだなと思いまして…………」

「ふーん…………そうか?」


 ヨシノさんがカバンを持ちながらリンさんに聞く。


「さっき、私も似たようなことをされたよ。沖田君が注意を引き、横川が私のカバンをガン見してた」


 気付いてるしー!


「いえいえ、何のことやら」

「そうですよ。私達は何もしてません」


 うんうん。


「うーむ…………透視か」


 ぎくっ!


「違うよね、ナナポン?」


 ねー?


「はい、違います」


 ほらー。


「なるほど……私のステータスカードを見ようと思ったんだな」


 違うって言うとるがな。

 信じろよ。


「沖田君さ、不自然すぎるからやめた方がいいぞ」


 リンさんが呆れたように言う。

 こら、ダメだわ。


「そんなに不自然だった?」

「いや、1人が話しかけて、もう1人が後ろに回ったら怪しいって思うだろ。あとね、私らには気配察知っていうスキルがある。後ろにいても何をしているかわかるよ」


 汚ねー。

 いや、でも、リンさんは気付いていないフリをしてくれたんだ。

 この人、仏頂面のくせに優しさの塊だな。

 きっとこのギャップに旦那さんはホレたんだろう。


「チッ! ナナポン、ヨシノさんは?」


 俺はバレたので普通にナナポンに聞く。


「完全記憶でしたよ」


 俺はそう言われたのでヨシノさんを見る。


「合ってるよ。というか、言ったじゃん」


 うーむ、完全記憶で間違いないようだ。

 まあ、これはいい。

 多分、嘘はついていないとは思っていた。


「ナナポンさー、もうちょっと普通に見れない? こっちから見てるとガン見しすぎ」


 怪しすぎ。


「いや、アイテム袋は見にくいんですよ」


 そういうもんなの?

 うーん、どうしようかねー?


「ちょっと2人共、そこに立ってて」


 俺はヨシノさんとリンさんに指示をした。


「別にいいけど」

「何が始まるんだ?」


 2人は俺の指示に従い、その場でじっとする。

 まあ、元々、動いていたわけではないけど。


「ナナポン、こっちに来て」

「はい」


 俺が2人の後ろにいるナナポンに手招きをすると、ナナポンがすぐに俺の横に来た。


「ナナポン、サングラスをかけて」

「こうですか?」


 ナナポンが似合わないサングラスをかける。


「そうそう。ここから2人のステータスカードが見えるか?」


 俺達とヨシノさん達の距離は2メートル程度だ。


「ちょっと待ってくださいね」


 ナナポンがそのままの姿勢で2人を見る。

 横から見ている限りはサングラスをかけているので視線はわからない。


「ギリ、見えますね」

「ちなみにヨシノさんのレベルは?」

「42ですね」


 高いなー、おい……

 俺達とはものすごい差だ。


「合ってる?」


 俺はヨシノさんに確認する。


「合ってるよ」

「ちなみにだけど、ナナポンに変な点はなかった?」

「まあ、さっきよりかは自然かな?」


 ヨシノさんがリンさんを見た。


「多分ね」


 リンさんから見ても不自然な点はないらしい。

 やはりサングラスをかけているエージェント・セブンの時じゃないと無理っぽいな……


「ナナポン、もうサングラスはいいぞ。あ、2人もいいよ。ありがとね」


 俺がそう言うと、ナナポンがサングラスを外し、カバンにしまう。


「君、何がしたかったの?」


 ヨシノさんが首を傾げながら聞いてきた。


「ナナポンの透視レベルが上がって、アイテム袋も透視できるようになったから他人のステータスカードを覗けるかの実験。相手のユニークスキルを知れるのは大きいからね」

「ふーん、ナナポンの透視にはレベルがあるのか……」

「ヨシノさんのは?」

「ないね」


 ユニークスキルにも色々あるみたいだ。


「…………沖田さん、沖田さん」


 ナナポンが小声で俺の名前を呼びながら俺の袖をぐいぐいと引っ張ってくる。


「何だよ?」


 ナナポンが耳打ちをしたそうなので、腰を少し落とし、首を傾げ、ナナポンの身長に合わせた。


「…………清水さんがいますけど、いいんですか?」

「この人は全スルーするらしいぞ。問題ごとに巻き込まれたくないんだって」

「…………それでいいんですか?」

「冒険者に未練のない既婚者さんなんだよ」


 ナナポンは耳打ちを続け、俺は普通に答えているため、ヨシノさんとリンさんは『何をしてるんだ、こいつら?』という顔をしている。


「…………結婚してるんですか? それなのに冒険者を続けているんですか?」

「本人に聞けよ」

「…………清水さんって怖くないです? 沖田さんと同じ人斬りの匂いがします」


 人斬りの匂いって何だよ?

 血の匂いか?


「リンさんは優しいから大丈夫だって。この人、絶対に男にモテるぞ」


 ぶっきらぼうっぽいが、優しさと気遣いの塊。


「わかる。リンって、いつの間にか彼氏を作ったし、気付いたら結婚してた」


 ヨシノさんがうんうんと頷きながら同意した。


「ねえ? これ、何の話? というか、どういう状況?」


 知らん!


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