第114話 もっと上手くやれよ……


「なあ、このくらいでいいだろ?」


 キラキラ草の採取を手伝ってくれていたリンさんが嫌そうに言う。

 これまでにリンさんが10束、俺が6束を採取した。

 とりあえずはこれくらいで良いだろう。


「ありがとね。教えたやつは今夜にでも試してみるといい」

「いや、やんねーけど…………というか、さっきのって男が好むというか、あんたがカエデにやってほしいことでしょ」


 まあ、そうとも言う。


「一緒、一緒。別にたいしたことじゃないでしょ」

「まあね…………」


 これはやるな。


「サラサラ草は知らない?」

「サラサラ草かー……サラサラ草は逆に夜に生えている草だな。私は見たことがないけど、誰かが採取したって聞いたことがある」


 今度は夜かい……


「夜は嫌だなー」

「やめた方がいいよ。夜は危険だし、自衛隊がうじゃうじゃいる。少しでも不信だとしょっ引かれるよ」


 やめた方がいいな。

 ステータスカードを見られたくないし。

 カエデちゃんに頼んで依頼を出してもらうか……


「わかった。ありがとうね」


 俺はリンさんからキラキラ草を受け取り、カバンにしまう。


「別にいいけどねー。朝から草むしりをするとは思わなかったわ」

「これも冒険だよ」

「どこがだよ……」


 俺と呆れているリンさんはゲート前に戻ると、まだ来ていない2人を待つことにした。


 俺達がそのまま待っていると、懐かしき赤いカーディガンにうさぎのリュックを背負った格好のナナポンがやってきた。

 ゲートから出てきたナナポンは俺達を見つけると、すぐに駆け寄ってくる。


「お、遅れてすみません!」


 ナナポンがそう言って謝ってきたので時刻を確認すると、まだ8時50分だった。


「大丈夫。遅れてないぞ」


 そもそもヨシノさんがまだ来ていない。


「いや、一番年下ですし、早く来ようと思ったんですけど……」

「気にすんな。俺達は8時半にはいた」


 リンさんはそれより前だけど。


「は、早くないです? これが社会人……ブラック……」


 ブラック言うな。


「社会人でもはえーよ。俺は単純にカエデちゃんと一緒に来たから早いだけ。リンさんは…………いい人だから」

「ハァ……? なるほど…………あ、申し遅れました。横川ナナカと言います。今日はよろしくお願いします!」


 ナナポンが初対面のリンさんに頭を下げる。


「どうも。清水リンだ。よろしく」


 リンさんが挨拶を返した。


「はい。あれ? 三枝さんはまだです?」

「まだだね。あいつは遅いんだよ」

「へー」


 俺は2人がしゃべっている様子を見ながらヨシノさんが来る前にリンさんのステータスカードを確認しておこうと思った。


「リンさん、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」


 俺はナナポンから気を逸らすためにリンさんに声をかける。

 すると、リンさんが俺の方を向いたため、その隙にナナポンがリンさんの後ろに回った。


「ん? 何?」

「ちょっと防具のことを相談したいんだけどさ、ヨシノさんもリンさんも軽装だけど、やっぱりインナースーツ?」

「そうだな。あんたもだろうけど、鎧なんかを着るとスピードが死ぬ。攻撃される前に斬ってしまえばいいでしょ」


 ふむふむ……いや、ナナポン、ガン見しすぎ。

 いくらリンさんがこっちを見てるからと言って、あからさまにリンさんの腰につけてるカバンを見るなよ。


「やっぱりそっかー」

「なんか気になるの?」

「俺もインナースーツを着てるんだけど、ジャージってダサくない?」

「気にしなくていいでしょ。運動着なんだし、いいと思うよ」


 リンさんが俺の上下の服装を見て頷くと、後ろのナナポンが両腕でバツのマークを作った。

 これはリンさんがユニークスキルを持ってないという合図だ。


「そっかー。じゃあ、これで行くかな」

「それでいいと思う。たまにスーツのヤツとかいるけど、アホだからやめた方がいいと思う」


 リンさんがそう言うと、リンさんの後ろにいるナナポンがビクッとする。


「きっと事情があるんだよ」


 俺がそう言って、頷くと、ナナポンも頷いた。


「ハァ……まあ、何でもいいけどね」


 リンさんがため息をつく。


「あ、三枝さんがいらっしゃいましたよ」


 ナナポンがそう言ったのでゲートを見ると、確かにヨシノさんがゲート前に立ち、キョロキョロしていた。

 そして、俺達を見つけると、すぐにこちらにやってくる。


「やあ、おはよう。皆、早いね」


 ヨシノさんが手を上げて挨拶をしてきた。


「あんたが遅いんだよ」

「まだ8時59分だよ?」


 リンさんが苦言を呈すると、ヨシノさんがまったく気にしてないそぶりで腕時計を見る。


「ハァ……もういいよ」


 リンさんが諦めたように首を横に振った。

 まあ、別に遅れてもいいし、気にするようなことじゃない。

 俺らが早く来すぎただけだもん。

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