第111話 ユニークスキルの絶対的優位性


 俺達は街道を歩き続け、何人かとすれ違い、誰もいないところで足を止めた。


「さて、ナナカさん、今日のテーマを発表します」


 俺は腰に手を当てながらナナポンに告げる。


「テーマ? レベル上げでは?」


 ナナポンはレベル上げをしたいから俺を誘い、ここに来ている。


「それは後。まずはキラキラ草とサラサラ草を探します」

「あー、強化ポーションの材料ですか。どんなのなんです?」

「知らない!」

「えー……それで見つけるんですか?」


 ナナポンが周囲の草原を見て嫌そうな顔をした。


「大丈夫。今日はね、あなたにプレゼントがあるの」

「プレゼントですか?」

「そうそう…………じゃーん、サングラス!」


 俺はカバンからサングラスを取り出す。


「あ、ありがとうございます。でも、持ってますけど」


 まあ、持ってるというか、すでにかけてるね。


「これはただのサングラスではないの。鑑定サングラスよ」

「あー、そういえば、そんなものも作れましたね」

「あと、このサングラスは10万円もします」

「……エレノアさん、お金の使い方に困っているのはわかりますけど、確実に迷走してますよ」


 自分の分と一緒に買ったのだが、値段を見ると、かっこいい気がしてきたから買ったのだ。


「いいから受け取りなさい」

「いや、不満はないですよ。ありがとうございます」


 ナナポンはそう言って受け取ると、かけていたサングラスを外し、受け取ったサングラスをかけた。


「どうです? 似合ってます?」


 ナナポンが嬉しそうに聞いてくるが、さっきと変わらない。


「やっぱり10万円は違うわね」


 うんうん。

 やっぱりかっこいいように見えてきた。


「そうですか? 私のサングラスも8万円なんですけどね」


 こいつはバカか?

 人のことを言えねーじゃん。


「あなた、また散財してるの?」

「安っぽい格好は良くないと思ったんです。それにしてもこのサングラスはすごいですね」


 ナナポンが自分の杖を見ながら言う。

 おそらく、自分の杖を鑑定しているのだろう。


「でしょう? これでキラキラ草とサラサラ草を探すの」

「なるほどー。エレノアさんもサングラスなんです?」

「いや、私はこのカラコンが鑑定コンタクトになってる」

「今気付いたんですけど、エレノアさんってカラコンなんですね」


 こいつ、本当にエレノアさんのことを尊敬しているんだろうか?


「謎の金髪碧眼美少女よ」

「少以外は頷けます」


 26歳で少女はないか……

 謎の金髪碧眼美女と名乗ろう。


「あなたもカラコンにする? 正真正銘の謎の金髪碧眼美少女になれるわよ」

「美少女…………いや、いいです。コンタクトが怖いので」


 怖がってばっかりのナナポンさんだな。


「じゃあ、サングラスにしなさい。探すわよ」

「はーい」


 俺達は街道の脇に生えている草や草原に生えている草を手に取って見ていく。


「私達ってどういう風に見えますかね?」


 しゃがんで草を見ているナナポンが聞いてくる。


「四つ葉のクローバーを探している魔女とSP」


 俺は四つん這いで草原の草を見ながら答えた。


「人が来たら立ちますね」

「シートを敷いておきなさい。休憩中に見えるでしょ」

「はーい」


 ナナポンはシートを敷くと、リュックを置き、再度、草を探し続ける。


「エレノアさん」

「なーに?」

「スーツってこういうのに向いてません」

「私のローブよりマシだから安心しなさい」


 ゆったりとしたデザインなうえ、スカートが邪魔すぎる。

 どう考えても腰を下ろしての作業に向いていない。


「…………やめません?」

「あなたのための強化ポーションなのよ」


 俺はナナポンの無事を考えているのだ。


「本当です? 魔法使いの私に攻撃力と速さがいるんですか?」


 まあ、いらないかもしれない……


「…………あなたは斬鉄剣を見たくないの?」

「…………自分が欲しいんですね」


 だって、誰も俺の剣をすごいって言ってくれないし。

 言ってくるのは怖いばっかり……


「ナナカさんもいるって」

「わかりましたよ……」


 ナナポンは呆れながらも草を探し続けてくれる。


「ノロノロ草ってありましたけど」

「惜しい! 次!」

「ツヤツヤ草を見つけました」

「ダメ! あ、フワフワ草……これはあるんかい」


 まあ、強化ポーション(防)の材料だし、採取しておくか。


「エレノアさーん、つまんないです。飽きました」


 最近の若者はこらえ性がないな。


「まだ30分でしょ、頑張りなさい」

「依頼を出しましょうよー。レベルを上げて、もっと良いアイテムを作れるようになればいいじゃないですか」


 ダメだ。

 わがままナナポンになってる……


「仕方がない……リンさんに聞いてみて、知っていれば依頼を出すか」


 明日、リンさんと会うし、聞いてみよう。

 フワフワ草を知っていたし、詳しいかもしれない。


「そうしましょう。こういう時にこそ、人とお金を使うんですよ」


 うーん、ナナポンは発想が富豪だ。

 もしかしたら大物になるかもしれん。


「わかったわ。じゃあ、レベル上げをしましょうかね」

「はい! レベルを10にしたいんです!」


 まあ、レベル10にしたい気持ちはわかる。

 俺もナナポンと同じレベル9だから大台に乗りたいという気持ちはあるのだ。


「確かにね。じゃあ、この前と同じようにあなたがグレートイーグルで私がハイウルフを担当する形でいい?」

「それでいいですけど、グレートイーグルの方が経験値が高いって言われてますよ? 私が先にレベル10になってもいいです?」


 うわー……

 ナナポンに気を使われてるぅ……

 もはや小っちゃい男すら言われなくなってるし。


「私はそれで構わないわ。私達は仲間だもの。そこに優劣はないの」

「いや、私はあなたの弟子ですし、年齢が7歳も違うので優劣はありますよ」


 まあね。

 学生と社会人だし。


「まあいいのよ。どうせ、明日もヨシノさんと行くし、その内、自然と抜くでしょう」

「ああ、なるほど。だから私に譲ってくれるんですね。変だと思った」


 あかん。

 ナナポンの中で完全に俺が小っちゃい男になってるわ。

 挽回は……無理そうだなー……


 俺はしゃーないと思いながらナナポンを連れ、街道を逸れてモンスターを探すことにした。




 ◆◇◆




 俺とナナポンがレベル上げをし始めてしばらく経った。

 最初に提案した通り、俺がハイウルフを倒し、ナナポンがグレートイーグルを倒しているのだが、2回目なだけあってスムーズに倒していっている。

 たまにゴブリンとかのモンスターも出るが、俺達の敵ではないし、上空さえ気を付けていれば、問題はない。


「ここって簡単だけど、1人じゃ無理ね」


 俺はナナポンが火魔法でグレートイーグルを焼き尽くす光景を見ながらつぶやく。


「ですね。戦っている間はどうしても上が不注意になります。絶対に見張りというかローグが必要ですね」


 カエデちゃんが前に言っていたが、初心者用のエリアではローグはいらないが、上に行けば行くほど偵察ができるローグが必要になってくるらしい。


「ここは平地で開けているから誰でも見張りができるけど、森とかだと専門のローグが必要になるんでしょうね」

「だと思います」


 まあ、ナナポンが透視を持っているからナナポンに任せればいい。

 実に便利な子だ。


「レベルはどう?」


 俺はひらひらと落ちてくるグレートイーグルの羽をキャッチしようとしているナナポンに聞く。


「ちょっと待ってくださいね」


 鈍いナナポンは結局、上空ではキャッチできず、地面に落ちた羽を拾うと、ポケットから自分のステータスカードを取り出した。

 なお、俺もさっき自分のステータスカードを確認したが、レベルは9のままだった。


「おー! ついに大台の10になりました!」


 ステータスカードを見たナナポンが喜んでいる。


「良かったわねー」


 ちょっと悔しいが、俺もすぐに上がるだろう。


「はい! んー?」


 ナナポンがステータスカードを見ながら首を傾げた。


「どうしたの?」

「えーっと、ちょっと待ってくださいね…………」


 ナナポンはそう言って。俺の腰辺りをじーっと見てくる。


「何? 私を透視でもしてるの? あなたって本当にムッツリよね」


 ってか、どこ見とんねん。

 今はそこには何もついてないぞ。


「違いますよ。いや、エレノアさんを透視しているのは合っているんですけど……」


 やっぱり見てんじゃん。

 ドスケベめ!

 その目を寄こせ!


「じゃあ、何を見ているのよ?」

「あなたのカバンです…………沖田さん、その紙はないです…………怖い」


 カバンの中の紙って、俺が後生大事に持っている婚姻届のことかな?

 見たのか?


「あなた、アイテム袋の中も見れるの?」


 沖田君のカバンの中にはえっちな雑誌が入ってるんだけど、見せられないな。

 押し入れにしまっておこう。


「いえ、さっきまでは見れなかったんですけど、見れるようになりました。私の透視のレベルが上がったんです」

「あなたの透視ってレベルがあったのね……いつのまに上がったのかしら?」

「さあ? レベルが10になったからですかね?」


 ありえる。

 俺の錬金術にレベルはないが、俺自身のレベルが上がればレシピが増えるし。


「アイテム袋の中が見れるのはすごいわね。ストーカーレベルも上がったじゃない」

「私はストーカーでもムッツリでもないです。というかですね……エレノアさんのカバンの中にあるステータスカードも見えます。まだレベルは9ですね」


 確かに俺のレベルは9のままだ。


「そうね……合ってるわ」


 …………こいつ、アイテム袋に入れている人のステータスカードが見れるようになったのかよ。


「Aランクの人も見れると思います」


 ステータスカードを覗けるということはユニークスキル持ちを確認できるということか……


「今日のレベル上げは中止。街道を行ったり来たりするから他の冒険者のステータスカードを覗きなさい。ユニークスキルがあるかを確認するわ」

「了解です」


 ナナポンの透視ってやべーな。

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