第110話 どっちがいい?
エレノアさんは謎のおっさんにナンパされ、連絡先を交換した。(嘘)
「じゃあ、向こうの親御さんにも連絡して日程を調整するわ。あんたは都合が悪い日があるか?」
「明日はダメ。それ以外だったら早めに言ってくれれば、向こうに合わせるわ。向こうさんも仕事があるでしょうしね」
冒険者は自由業だから出勤しないといけないということはない。
これが楽。
たまにカエデちゃんに羨ましそうに見られるのが心苦しいけど。
「わかった。じゃあ、また連絡する。邪魔して悪かったな」
「いいえ、あなたはお仲間さんに謝罪しなさい」
俺はまだナナポンを待って…………って、いるし。
俺がゲートの方を見ると、ナナポンがゲートのそばで待っていた。
何してんだ?
あー……山辺のおっさんが怖いのか……
「邪魔したな。あの謎の子にも謝っておいてくれ」
俺の視線でナナポンに気付いたおっさんはそう言うと、仲間のもとに戻っていく。
すると、ゲートの近くにいたナナポンがおずおずと近づいてきた。
「こんにちはー……」
ナナポンが上目遣いで挨拶をしてくる。
もっとも、サングラスをしているから目は見えない。
「はい、こんにちは」
「あのー、さっきの人はお知り合いですか?」
「さっき声をかけられたわね」
「え? 連絡先を交換してませんでした? ナンパでは? エレノアさん、ああいう人がいいんですか?」
こいつは何を言っているんだろう?
エレノアさんのアドレスには女しかいないというのに。
「バカ言ってないで行くわよ。歩きながら説明するわ」
「はーい」
俺とナナポンは会議に戻った山辺のおっさんを尻目に街道を進むことにした。
街道を歩いていると、ナナポンがチラチラと俺を見てくる。
「そんなに気になる?」
俺はちょっとうざいナナポンに聞く。
「そりゃあ、気になりますよ」
「ふーん、まあ、たいしたことじゃないわよ。実はあなたと出会う前にクーナー遺跡で高校生を助けたことがあったの」
「おー! さすがはエレノアさん、優しい!」
まあね!
「その時は男女4人の高校生だったんだけど、結構な数のスケルトンに襲われててね。助けに入ってスケルトンを瞬殺したんだけど、1人の女の子が足を怪我しちゃってたの。痛々しかったし、私、子供が好きだから回復ポーションを使って治したのよ」
「…………沖田さん、子供が好きなんですか?」
何故にそこで沖田さんと呼ぶ?
「好きね。ドン引きしているあなたに言っておくと、そういう意味じゃないわ。だから安心しなさい、ドチビ」
お前なんか論外じゃい。
どこがとは言わんが、もうちょっと大きくなれ。
「ドチビはひどいですけど、ちょっと不安になりましたよ。朝倉さんもどちらかというと、そっち系ですし」
「そう? いい身体をしてるわよ」
というか、カエデちゃんはロリじゃない。
「そういう意味ではなく、雰囲気です」
「まあ、後輩気質だしね」
実際、後輩なんだけど。
「子供が好きって、結婚したら子供が欲しいってことです?」
「そうそう。カエデちゃんが産んでくれる」
「ごめんなさい。こんなことを聞いた私が悪いんですけど、キモいです」
だろうね。
俺も自分で言いながらキモいと思ったもん。
「単純に子供が欲しいってこと。別に変じゃないでしょ」
「まあ、そうですね。問題はあなたが女性なことです」
うーん、沖田君で話せば良かったか。
「沖田君とカエデちゃんの話。もう26歳だしね」
「子供がいても不思議じゃない年齢ですね」
「でしょ。まあ、その内かな……」
「いや、その前にまずは結婚しましょう。もっと言えば、告白をしましょう」
まあ、そうなんだけどね。
実は役所に行って、書類をもらってきていたりする。
あとはカエデちゃんが名前を書くだけ。
なお、これはナナポンに言わない。
多分というか、絶対に引かれる。
「いけるかなー……」
「余裕だと思いますよ。部屋に侵入しようとするよりそっちの方にしてください。そんなアホな話より、高校生を救ってどうしたんです?」
アホはひどいが、ナナポンが話を戻す。
「救ったんだけど、男子高校生に文句を言われたのよ。余計なことをすんな的な」
「それはひどい。子供は嫌ですねー」
「子供が好きな俺でも軽く殺意が沸いたわ」
「素に戻るレベルなんですね…………」
実際、斬らないまでもアイアンクロウくらいはしてやろうかと思った。
「そうそう。それでその場は大人しく退散したんだけど、やっぱり問題だったみたいね。その男子生徒は免許を取り上げだって」
ざまあみろ!
「顔にざまあみろって書いてありますよ?」
笑顔すぎたか……
「ヒーロー気分で助けたのにそう言われたら腹も立つわよ」
「気持ちはわかりますね。善意を踏みにじられると、ショックですもん」
ナナポンはわかってくれるらしい。
「それよ、それ。私は仏様じゃないからね。金を寄こせとは言わないけど、ありがとうございましたって言いながら尊敬の目で見てほしいもんだわ」
「私は尊敬してますよ」
ナナポンはかわいいわー。
すごくいい子だわー。
「お小遣いをあげよう」
「なんででしょう? いかがわしくなりました」
なんでだろうね?
「まあ、冗談は置いておいて、そんなことがあったんだけど、回復ポーションを使ってあげた子の親御さんが謝罪とお礼をしたいんだってさ」
「あー、なるほど。確かにそうなっちゃいますね」
大学生のナナポンでもそう思うらしい。
「そういう話をさっきの人と話してたわけ。あの人がその時の引率者」
「え? その人は何をしてたんです?」
「トイレ。そのせいで謹慎だってさ。運のない人だわ」
「トイレですかー……女子もいたんならしょうがないですね」
目の前でされても困るしな。
しかも、守ってもらってる手前、文句も言えん。
「そういえば、あなたは? 高校生からやってるのよね?」
ナナポンのそういう話を聞いていない。
「私は18歳から始めましたから引率者はいません。私、4月生まれなんで」
そういえば、18歳以上は引率者をつける義務はなかったわ。
「よく1人でやろうと思ったわね?」
「池袋ギルドは人が少ないから選んだんですけど、おかげさまで同性の引率できる人がいません。その場合は他所から雇うんですけど、募集をかけたら男性が殺到したんでやめました」
18歳の新人女子はモテるだろう。
気持ちはわからんでもない。
「新宿は? ヨシノさんがいるところ。さっきの人も言ってたけど、女子はそこらしいわよ?」
「女子同士は女子同士で問題もあるんです。ソースは女子高出身の私」
何か怖いな……
聞かないでおこう。
「面倒ねー。私は人間関係が嫌で冒険者になったんだけど、冒険者でも似たようなものがあって困るわ」
「え? 私です?」
ナナポンがものすごいショックを受けた顔をする。
「あなたじゃないわよ。さっきの話。なんで助けてあげたのに暴言をはかれ、あまつさえ面倒なことになるのよって話」
「そ、そうですよね! 私に不満なんてないですよね!」
「いや、お前はまず、沖田君差別をやめろや」
不満ありありだわ。
「だって、沖田さんって怖いんですもん」
ナナポンは沖田君を怖がり、エレノアさんが良いと言う。
ヨシノさんはエレノアさんを怖がり、沖田君が良いと言う。
どうしろと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます