第104話 沖田君とやら、頑張れ! ★
『一体、どうなっているのかね!?』
「申し訳ありません。こちらでも何とか関係修復に努めている最中でして、今しばらくお待ちください」
『君がそうこうしている間にアメリカに先を越されたぞ! もういい! 私が直接、出向く!』
アホなことを言うな……
本当にやめてくれ。
「お待ちください。先日の進藤先生のことがあります。今、先生が出向かれても相手を逆なですることになります。ここは私にお任せください」
『ならば早くしたまえ!』
そう言われると、耳元でガチャッと大きな音がした。
「ハァ……どいつもこいつも」
私はため息をつきながら受話器を置く。
すると、ノックの音が部屋に響いた。
「本部長、三枝です。今、よろしいでしょうか?」
ヨシノか……
「ああ、いいぞ」
私が入室を許可すると、ヨシノが一度、頭を下げ、入室してくる。
「お忙しそうですね」
「まあな。毎日、毎日、あらゆるところから電話がかかってくる。どうなってるんだ、早くしろ、だ…………今日は特にだよ」
ホント、疲れる。
正直、自分の仕事ができない。
「クレアの発表ですね」
「そうだ。どうやら魔女と契約が整ったようだな。レベル2の回復ポーションの販売と翻訳ポーションのオークションを開催しおった」
発表したのはついさっきだが、あっという間に世界中に拡散された。
おかげで、さっきから電話が鳴り響いている。
「クレアはスライムからドロップしたって言ってますけどね」
「アメリカンジョークは好かんな」
誰も信じてはいない。
クレアが魔女と接触していることは誰しもが知っているし、どう考えても魔女から買ったものだ。
「一応、想定内のことではあります」
「もちろんだ。議員さん方にも説明してある。でも、電話してくる。暇なのかね?」
「先生方も色々とあるのでしょう」
「だろうな…………それで? こちらの契約はどうなっている?」
魔女との接触はヨシノに任せている。
その報告に来たのだろう。
「それについての報告です。一応、魔女との接触には成功しました」
「そうかね。それは良かった。何かわかったか?」
「あまり深く踏み込めないため、確証はできませんが、フロンティア人の可能性は低いと思われます」
フロンティア人ではないか……
となると、日本人か?
「その根拠は?」
「日本に詳しすぎますし、考え方や知識が日本人です。おそらくは日本人だと思われます」
やはりか……
しかし、そうなってくると、何故、偽名を使う?
何故、一切、過去の情報が出てこない?
テレビにまで出ているというのに……
「そうか……ゲートを閉じるという話は?」
「はぐらかされました。おそらく嘘でしょうが、何とも言えません」
まあ、はぐらかすだろうな。
自分の身を守るためだ。
「まあいい。こちらとしてもどうこうするつもりはない。それよりも回復ポーションの契約だ」
魔女の正体はひとまずは置いておくしかない。
「はい。それについてですが、どうやらクレアとの契約の中に他所には売らないというものがあったそうです」
それはマズい。
独占だけは避けたい。
「何とかならんか?」
「なりました。どうやらクレアも独占する気はないようですね。あくまでも大量に市場に出され、価格が暴落するのを避けるために言ったようです。ですので、こちらとの契約には支障ありません」
ほっ……
さすがのクレアも他組織との衝突を避けたか。
「それは良かった。ひとまずは安心だな。では、早速、契約の準備をしよう」
「それについてですが、仮契約をしてきました」
仕事が早いな。
さすがはヨシノ。
金のことになると、特に早い。
「どんな契約だ?」
「1個370万円で100個ほど売れるそうです」
100個か……
やはり数がおかしい。
クレアの分も合わせると、200個だ。
「370万か……350万にならんか?」
「最初は400万でした。クレアにも400万で売ったそうです。それを交渉して370万円なのです」
確かに安くはなっているが…………
本当に370万円か?
「まあいい。了承した。すぐに本契約に移れ。お偉いさん方がうるさいのだ」
「かしこました。妨害などを考え、フロンティア内で取引をしようと考えています」
フロンティア内?
つまり、受け渡しをヨシノがやるってことだ。
「ここではダメか?」
「進藤先生のケースがありますし…………」
確定だ。
こいつ、ちょろまかそうとしている。
さすがは金に汚いヨシノである。
「…………まあいい。それで進めよ。早急にな」
「はい」
今はこいつの不正を暴く時ではないし、見逃そう。
「それと魔女に弟子がいるという噂は?」
私はここ最近、ネットで出回っている噂を確認することにした。
「ああ、それですね。本人に聞いたんですけど、同じギルドに所属している横川ナナカだそうです」
「横川? 知らんな」
高ランクではないな。
「同じギルドに所属していて、活動する時間帯が同じ昼なので、一緒に行動しているようです。ただの大学生ですね」
「調べたか?」
「はい。母子家庭であり、母親も健在です。横川は都内の大学に通う一人暮らしの学生ですね。成績も優秀で特に不審な点もありません」
「学生…………何歳だ?」
「19歳ですね」
未成年か……
「下手なことはできんな……」
「やめた方が良いです。横川の母親はマスコミ関係の仕事をしていますし、深く踏み込むのはマズいです」
よりによって、マスコミか……
お偉いさん方が一番嫌う存在だ。
「横川の調査は即刻、中止しろ。マスコミはマズい」
「承知しました」
もしかしたらユニークスキル持ちかもしれんが、魔女以上の地雷になる可能性がある。
「魔女の目的については?」
「金儲けですね。わかりやすいです」
ヨシノがうんうんと頷いている。
まあ、こいつも金儲けが目的だものな。
「それだけか?」
「おそらくそれだけでしょう。工作員にしては目立ちすぎですし、物の売り方が上手です」
最初にレベル1の回復ポーションを売り、次にアイテム袋。
そして、レベル2の回復ポーションを売った。
徐々に価値のあるものを売っている。
「まだ終わりそうにないな……」
「間違いないと思います。またオークションを開催すると言っていました」
またか……
「今度は何だ?」
「レベル3の回復ポーションだそうです」
「くっ……レベル2の次は3か」
レベル3の回復ポーションは海外の連中が高値を出しそうだ。
「それで値段を決めるとのこと」
「つまりレベル3の回復ポーションも何個も持っているということだな?」
「そういうことになります。きっとスライムからドロップしたのでしょう」
つまらん。
非常につまらんジョークだ。
「なあ、ヨシノ、魔女はどうやってアイテムを入手していると思う?」
「ユニークスキルであることは確定でしょう。ネットでは自分で作ってる説、フロンティアからの密輸説、ドロップアイテムを操作できる説、ですね」
まあ、その3つのどれかだろう。
「一番、可能性が高いのは?」
「ドロップアイテムを操作できる説でしょう。密輸説は考えたくないですし、自分で作っているならフロンティアに行く意味がありません。アイテムを入手するためにフロンティアに行っていると考えるのが妥当かと」
ふむ…………
「フロンティアに行く意味か……」
「まあ、考えても意味がないことです。どうせわかりません。黄金の魔女は金の卵を産むニワトリです。ニワトリがどうやって卵を産むかを考える意味はありません」
黙って卵を食べろってことか。
「わかった……それと一つ確認したいんだが、お前、新しいパーティーメンバーを増やしたのか?」
「どこでそれを?」
「ネットで流れてたのを見た。男らしいな? なんだ? 彼氏か?」
ヨシノは人気だからすぐにそういう情報が流れる。
「いえ、そういうわけではありません。彼はエレノアと同時期に池袋のギルドで冒険者を始めた人だったので何かを知っているかもしれないと思い、接触したんです」
「何かあったか?」
「いえ、特にはありませんね。ただ、剣の腕に優れていましたし、人柄も悪くなかったので誘いました」
剣の腕に優れているか……
確か、エレノアも魔女のくせに剣を使うんだったな。
「本当にエレノアとの関係はなしか? お前がそこまで言う実力者が何故、池袋なんかに?」
池袋は不人気ギルドだ。
普通は渋谷に行くだろう。
「池袋ギルドの受付嬢の恋人みたいですね。大学の先輩後輩の関係らしく、同棲しているほどです」
「受付嬢?」
「朝倉カエデです。私も知っていますが、池袋の支部長のパーティーメンバーだった子です」
あー、あの鑑定士か。
すべての職員を把握しているわけではないが、貴重な鑑定士は覚えている。
「なるほどな。その縁もあってパーティーに加入させたのか……」
「ええ。朝倉カエデも昔から知ってる子ですし、その沖田君は私や清水と同い年でしたんで誘いました。と言っても、正式メンバーではないのでこの仕事を任せる気はないです」
おかしな点はないか……
「ふむ……しかし、お前と同い年ということは26歳か…………随分と遅いな」
普通は冒険者を始めるなら10代後半か20代前半だ。
「…………会社をクビになったそうです」
「…………あー、それはキツい」
26歳だし、もしかしたら朝倉との結婚も考えていたのかもしれない。
それで一念発起して冒険者か……
危険だが、実力があるのならばいいかもしれない。
まあ、頑張れとしか言えんな。
「わかった。一応、魔女と同じギルドなら何かの情報を摑かめるかもしれん。探っとけ」
「わかってます。魔女とのコンタクトも取れましたし、継続して調査にかかります」
「頼む。まあ、沖田君には頑張るように言ってくれ…………それとだが、渋谷支部に動きが見える。フロンティア内では注意しろ」
「桐生アキラですか?」
桐生アキラは渋谷ギルドの所属しているAランク冒険者だ。
「そうだ。嫌だろうが、注意しろ」
「…………わかりました」
ヨシノがものすごく嫌な顔をした。
桐生アキラは女好きのプレイボーイで有名であり、しつこいアプローチをかけられているヨシノは嫌っている。
「あと、例の件の相談がある。あの測量会社に断られた」
「やはりですか…………どうしましょうか…………あ、電話です」
クソッ!
またかかってきやがった。
「この件は後にする。お前は仕事に戻れ」
「わかりました」
ヨシノは一礼をすると、部屋を出ていった。
私はそれを確認すると、受話器を取る。
『君! あの件はどうなっているのかね!?』
電話線を引っこ抜きたい……
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