第103話 ところでこのタクシーはどこから拾ってきたんだろ?


 翌日、俺は10時に起きると、準備をし、家を出た。

 当然、エレノアさんの姿だし、服装も黒ローブではない。

 ただし、肩にかけるカバンを2つ持っている。

 1つは個人用で、もう1つはクレアに渡す回復ポーションが入った100キロのアイテム袋だ。


 俺はいつも通りにいいところで透明化を解くと、タクシーを拾い、池袋のギルドに向かう。

 池袋のギルド裏に着くと、すでにギルド裏の駐車場にはタクシーが止まっているのが見えた。


 俺はタクシーの運転手に料金を払うと、タクシーを降り、違うタクシーのもとに向かう。

 そして、自動ドアが開いたので乗り込んだ。


「タクシーから降り、タクシーに乗るという謎の行為をしている……」


 俺はタクシーに乗り込むと、思わず、つぶやく。


「不満なら最初から家に迎えにいってやるぞー」


 俺のつぶやきを聞いた筋肉マッチョの運転手が答えた。

 もちろん、ハリーである。


「嫌よ。私の家に来たらマジで殺すわ」


 カエデちゃんに迷惑がかかってしまうので、結構、マジで言ってる。


「おー、怖い、怖い。それにしても今日はまともな服を着てるな。似合ってるぜ」

「ありがとう。でも、そのセリフ、普段はまともじゃないって言ってるわよ。あんた、モテないわね」

「魔女みたいな格好をして何を言ってんだよ…………」


 うるさいなー。


「あんたもアメリカに帰ってたの?」

「いや、俺は残ってたぜ。あんたのギルドを見張ったり、フロンティアに行ってた」

「へー。どこに行ったの?」

「クーナー遺跡だな。剣しかドロップしねーぞ」


 そらな。

 俺だってスケルトンの剣しかドロップしていない。


「あんたは運がないようね……」

「ドロップしたって、ぜってー嘘だろ」

「さあ?」

「チッ! まあいい。昼時だし、今日は俺が奢ってやろう」


 ラーメンじゃねーだろうな?


「良いとこにしてね」

「任せとけ!」


 不安だわ……


「クレアはおかえり」


 俺はハリーとの会話をやめ、隣に座っているクレアに挨拶をする。


「ただいま。待たせたようで悪いわね」

「まあ、私は良いんだけどね。本部の人が上から急かされてるみたい」

「その辺はどこの国も一緒ね」


 やっぱりどこもそんなもんか。

 前の会社でもそうだったし、自由業を選んだのは正解だったわ。


「それでお金は持ってきてる?」

「持ってきたわよ。時間がかかったのは主にそのせい。ドルならまだしも現金で円を集めるのは大変だったわ」


 まあ、仕方がないね。

 これは色んなところを通していない取引だもん。


「今後も取引をしたいなら円を用意しておくことね」

「まだ何かあるの?」

「そりゃあねー……」


 ふふっ。


「ハァ……用意しておくわ、あなたは持ってきたの?」

「もちろんよ。まずはこれ。1000キロのアイテム袋。デザインはこれで良かったかしら?」


 俺は自分の白いカバンから黒いカバンを取り出した。


「デザインなんかはどうでもいいわよ。肩にかけるタイプね…………それでいいわ」

「じゃあ、はい」


 俺はカバンをクレアに渡す。


「普通、お金が先じゃない?」


 どうでもいいわ。


「信頼の証ね」

「まあ、持ち逃げする気はないけど……これ、本当に1000キロ?」

「信頼が重要よ」

「そうね。じゃあ、これが約束の10億円」


 クレアが持っていたカバンからアタッシュケースを取り出す。

 俺はアタッシュケースを受け取り、開けてみると、束ねられた万札がずらっと並んでいた。


「ここで数えてもいいわよ」


 アホか……

 10億ってことは万札が10万枚だぞ。


「日が暮れても無理よ。信頼、信頼」


 俺は特に数えることもせずにアタッシュケースを閉じると、カバンに入れる。


「じゃあ、アイテム袋の取引は無事に終わりね」

「そうなるわね。じゃあ、次はレベル2の回復ポーションなんだけど、まず確認……他の人にも売っていいわよね?」

「どうぞ。昨日も言ったけど、大量に売りさばなきゃいいわ」


 今のところはその予定はないし、そうなったとしてもクレアが先に売っているだろう。


「じゃあ、これ」


 俺は回復ポーションを入れているカバンをクレアに渡す。


「これが100キロのアイテム袋?」

「そうそう。中身はレベル2の回復ポーションが100個」

「わかったわ。じゃあ、これね」


 クレアはそう言って、またもやカバンからアタッシュケースを取り出して、渡してきた。

 中身を確認すると、大量の札束が入っている。

 数える気はないが4億円だろう。


「確かに……じゃあ、取引は無事に完了ね」

「ええ。いい買い物ができたわ。ありがとう」

「こちらこそ」


 クレアはおそらく、これでも儲かるんだろうが、俺としても たかが数万円で14億円を手に入れることができた。

 お互いに非常に良い取引だったね。


「そういえば、聞きたいことがあるって言ってたけど?」


 俺は昨日、クレアが電話で言っていたことを聞く。


「ああ、それね。あなたが変な格好をした女の子を連れてフロンティアにいたって本当?」


 ナナポンだな。


「本当ね。私の弟子」

「もしかして、この前の子? 金髪って聞いたんだけど、あの子って黒髪じゃなかったっけ?」


 クレアは誘拐されたナナポンと会っている。

 というか、ナナポンを救ったのはクレアだ。


「ウィッグらしいわよ。まだ学生さんだし、身バレ防止」

「へー……あの子って何歳なの?」

「19歳の大学生ね」

「大学生? 中学生かと思ってたわ」


 いくらなんでも中学生はひどいなー。

 確かにチビだけど、さすがに中学生はない。


「ちゃんとした大学生よ」

「あなたもだけど、アジア系は幼く見えるのよねー」

「私はいくつに見える?」

「20歳前後? ということはアラサーかしら?」


 アラサー……

 いや、26歳だからアラサーといえば、アラサーだが、へこむ。


「実は20歳なの」

「そんなにショックを受けた顔すりゃわかるわよ。アラサーね」


 ひっで。


「20歳よ」

「あっそ。じゃあ、そうしておくわ。それよりもあの子なら良かったわ。ネットで魔女が生贄用の子供を連れてるって書かれてたし」


 ナナポンは生贄だったらしい。


「おもしろおかしく書いてるだけでしょ。単純に一緒にフロンティアに行く仲間よ」

「ならいいわ。聞きたいことはそれだけ。ちょっと確認したかっただけだから」


 上司からの指示かね?


「ナナカさんに迷惑をかけちゃダメよ」


 一応、釘をさしておく。


「しないわよ。あなただけで手一杯」


 俺じゃなくて商売だろ。


「よーし! 着いたぜ! ここ最近、色々と巡ってたからな。ここが一番だ」


 ハリーがそう言って、車を止めた。

 もちろん、視線の先には行列が並んでいるラーメン屋があった。

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