第102話 変な人ばっかり ★
俺は服を着て、リビングに戻ると、スマホを操作する。
そして、クレアに電話をかけた。
すると、数コールで呼び出し音が消える。
『はーい? エレノア?』
クレアの声だ。
「こんにちは、でいいかしら?」
クレアがアメリカにいるのならば時差がある。
もしかしたら向こうは夜かもしれない。
『こんにちはで合ってるわよー。今、日本だし』
「戻ってきたの? 連絡くらいちょうだいよ」
『ごめん、ごめん。立て込んでてね。それで、電話の用件は回復ポーションとアイテム袋の契約でいい?』
クレアにはレベル2の回復ポーションと共に1000キロのアイテム袋も売ることになっている。
「それよ、それ。ちょっと次の契約を進めたくてね」
『次って?』
「ギルド本部にレベル2の回復ポーションを売りたいのよ。でも、他には売らないってあなたと約束したでしょ? さっさと契約の詳細を詰めたいの」
急かされてるし、俺としても、ギルドを敵に回すつもりはない。
『あー……ごめん。別に売ってもいいわよ。私が問題にしているのはあなたが1000個とか2000個を流通させたらマズいって意味。別にそんなに売るわけではないんでしょ?』
「100個ほど売る予定なんだけど?」
『だったら好きにしていいわ。私はアメリカで売るし、市場が違うもの。それに私が売る方が早い。実はすでにいくつかの企業や富豪に声をかけてるの』
クレアは仕事が早いな。
「そう……じゃあ、こっちはこっちで契約を進めるわ。それであなたは? いつになりそう?」
『あなたに合わせるけど…………だったら明日は暇してる?』
明日の予定は……ナナポンと冒険に行こうかなと思っていたが、約束しているわけではない。
「まあ、空いてるわね」
『じゃあ、明日、契約を済ましてしまいましょう。ちょっと聞きたいこともあるしね』
聞きたいことねー……
「ふーん、まあいいわ。明日ね」
『どこで取引をする? 私的にはタクシーが良いんだけど』
まーた、あのタクシーかよ。
「じゃあ、池袋のギルド裏に迎えに来てくれる? 昼に待ってるから」
『了解』
クレアはそう言って、電話を切った。
「明日は契約して、明後日に冒険にしようかなー……」
俺はどうしようかなーと思いながらも、沖田君に戻るために立ち上がる。
すると、リビングの扉が勢いよく開かれた。
もちろん、リビングに入ってきたのは服を着たカエデちゃんだ。
「せんぱーい! すごいですー! 私の髪と肌がすごいです!」
語彙力を失くしたカエデちゃんはリビングに戻ってくると、笑顔200パーセントで俺のもとに駆け寄ってくる。
「やっぱり効果があったのかー」
「触って! 触って!」
カエデちゃんは人の心を弄ぶなー。
俺はそう思いながらもカエデちゃんの髪を触り、梳かす。
「くすぐったいですー」
カエデちゃんがくすぐったそうに首を傾げ、見上げてくる。
「すごいね。サラサラ」
みずみずしいし、サラサラだ。
いつまでも触っていたい感じ。
「でしょー! こっちもこっちも!」
カエデちゃんはテンションマックスで袖をまくり、細くて白い腕を見せてくる。
俺はそんなカエデちゃんの手を取り、腕をさすった。
「おー! すごい! 自分の腕を触るよりわかりやすいわ」
「すごいですよねー。回復ポーションって他にも利用できるんじゃないですか?」
ありえる……
育毛剤にも混ぜてみようかな?
別に俺は剥げてないけど、売れるかもしれん。
「ちょっと実験だなー」
「よっ! 現代の錬金術師!」
さっきまで小学生の呼ばわりだったくせに現金な子だわ。
俺はその後、カエデちゃんとドラッグストアに行き、品物を見ながら何を合わせたらいいのかを吟味した。
これがカエデちゃんとの2回目のデートとなった。
26歳と24歳がまさかのドラッグストアデートである。
◆◇◆
私は池袋ギルド近くにあるファミレスでとある人物と会っていた。
「いやー、すまん、ナナポン。つまらんことに巻き込んでしまった」
私の対面に座っている女性が頭を下げる。
その人は池袋ギルドのギルマスの従妹であり、Aランク冒険者の三枝ヨシノさんだ。
どうでもいいけど、この人もナナポン呼ばわりである。
私の中の沖田さんの評価が下がった。
「いえ……たいしたことではないので別にいいです」
エレノアさんと一緒にいればこうなることもあるだろう。
だって、沖田さん、ちょっとあれだし。
「未成年の君を巻き込むべきではなかったんだがなー……」
「いえ、そこは気にしなくてもいいです。あの人と一緒にいることを望んだのは私ですから。ちなみに聞くんですけど、私のことも調べてたんです?」
「いや、君はしてない。さすがに未成年はなー……」
それは良かった。
バレるとは思わないが、少しでも怪しまれたくない。
エレノアさんに敵認定されたら怖いのだ。
だって、あの人、軽くサイコが入ってるし。
「じゃあ、いいですけど……」
「まあ、これからはよろしく。あ、何でも頼んでいいぞ!」
ここ、ファミレスですけど……
エレノアさんも言ってたけど、この人、本当にケチだな。
「どうも……」
私は満面の笑みの三枝さんを見て、何とも言えない気持ちになり、ご飯を頼むことにした。
注文し、しばらくすると、私の分と三枝さんの分のご飯が来たので2人で食べだす。
「ところで、ナナポンの透視ってどこまで見れるんだ?」
ヨシノさんがドリアを食べながら聞いてきた。
「沖田さんに聞いたんです?」
「そうだな…………聞いたというか、ポロっと言ってた」
私の中の沖田さんの評価がさらに下がった。
「ですか……まあ、そうです」
「私の財布の中身も見えるのか?」
「まあ、そのくらいは見えます」
「それはすごいな。じゃあ、この中は?」
三枝さんはスプーンを置き、席に置いていたカバンを掲げる。
私はそのカバンをじーっと見るが、もやがかかって見えなかった。
これはアイテム袋だな……
「いえ、アイテム袋の中身は見えません」
「そうなのか……しかし、ユニークスキルって色々あるんだなー」
エレノアさんから聞いたが、この人は完全記憶だったかな?
カンニングができる私にとっては微妙に要らないスキルだ。
「ユニークスキル持ちってどのくらいいるんですかね?」
「正確には把握していない。というか、できない。私もだが、君達のように皆、隠すからな。私が所属している新宿ギルドでは私1人だ」
意外だ。
新宿にはもっといるのかと思った。
「やっぱり渋谷が多いんですかね?」
「多分な。Aランクはほぼ持っていると思っていいだろう。君もAランクと会う時は注意しろ。どうも、沖田君は好戦的なくせに油断するところがあるのが心配だ」
まあ、あの人はね。
自分の剣に自信があって、自己顕示欲の強い人だもん。
隙あらば、自慢してマウントを取ってこようとする。
「大丈夫だとは思います」
「まあ、君がいれば大丈夫か……」
その信頼はどこから来るんだろう?
「ちなみに聞くんですけど、沖田さんのことをどう思っています?」
「うーん、いい子だとは思うんだけどねー…………愛人にしてくれなかった」
ひどい話を聞いてしまった。
「あ、愛人ですか?」
アダルトだ。
さすがはでっかい人。
「ほれ、沖田君って、カエデにめちゃくちゃ執着してるし、カエデもまんざらでもなさそうだから結婚は無理だろう? だから愛人。私は金が欲しい」
この人、いい人ではあるんだけど、お金に執着しすぎて頭のネジが何本か抜けている気がする。
だからあんな男の愛人になろうとするんだな。
「沖田さんが断ったんですか?」
これは意外に思う。
そんな真面目な人には見えないのに。
「エレノアの姿だったからかもしれんな。普段の沖田君の視線的に脈はありそうだし」
あの人、三枝さんのことをおっぱい呼ばわりしてたもんなー。
最低だ。
私の中の沖田さんの評価がガクッと下がった。
「が、頑張ってください」
私は3人の大人の関係に関わるべきではないだろう。
飛び火してきそうだ。
「そうする。ところで、ナナポン、君も沖田君と私と冒険しないか? 今日はその誘いも兼ねて誘ったんだよ」
「あー、私はエレノアさんとやるのでいいです」
「沖田君から聞いたんだけど、君、そんなに沖田君が嫌なのか?」
あの人、べらべらとしゃべってるな……
「嫌いではないですけど、怖いんです。モンスターと戦う時に人殺しの目をしますし」
たまに笑っている。
まあ、エレノアさんもだけど……
「人殺しの目って何だろ……? いや、まあいいけど、それでエレノアか? 私的にはエレノアの方が怖いけどな…………不気味だし」
エレノアさんが不気味?
「そうですか? エレノアさんは優しいし、かっこいいじゃないですか」
「そうか?」
ダメだ。
この人とは相いれない。
多分、沖田さんは三枝さんに優しいんだろう。
これが胸部の力か……
男はホント……
私の中の沖田さんの評価がとんでもなく下がった。
「そうです」
「そうかー……」
私達はその後も話を続けていると、ご飯を食べ終えたのでレジに向かった。
「ナナポン、ここは私が出しておく」
三枝さんがドヤ顔で財布を出した。
すごいな……
数百円でその顔ができるのか……
「ごちそうさまでした。私は午後から友達と遊ぶのでここで失礼します」
「そうか。送っていこうか?」
「いえ、近いんで大丈夫です。また何かあればよろしくお願いします」
「そうだな。いつでも頼ってくれ」
「ありがとうございます」
私は三枝さんに頭を下げると、ファミレスを出て、駅に向かって歩いていく。
すると、道路の路肩に黒塗りの車が止まったので後部座席に入った。
「ボス、どうでした?」
後部座席に座っている部下が聞いてくる。
「Aランクはさすがに怖いわ。頭は緩そうだったけど」
股も緩そうだった。
知らんけど。
「三枝ヨシノは日本でもトップクラスの冒険者ですからね。気を付けてください」
「大丈夫でしょ。むしろ、良い意味での縁が出来たことを喜ぶわ」
私は弱いし。
扱いやすそうなAランクで良かった。
「ですか……しかし、あの女は優秀なことでも有名です。我らも警護はしますが、本当に気を付けてください」
「大丈夫よ。最悪は黄金の魔女が守ってくれるし」
エレノアさんは私を見捨てないだろう。
…………多分。
「弟子になったんですっけ?」
「そうね。おかげさまで変な格好をしたガキってネットで言われてたわ」
スーツにサングラスが似合わないのはわかっているが、他になかったんだからしょうがない。
私が顔バレするのは色んな意味で避けたい。
でも、性転換ポーションで男になるのは絶対に嫌だ。
あの人がどうしてその選択ができるのかはまったくわからない。
「お似合いだと思うんですけど」
センスないな、こいつ。
いや、自分と同じ格好だからか……
「まあいいわ。それより、そっちはどう?」
「順調です。頂いた透明化ポーションはすごいですね。あれで敵対勢力を確実に潰せるでしょう」
私はエレノアさんから色んなポーションをもらったため、こいつらに流したのだ。
「頼むわ。ギルド周辺は?」
「さすがにギルドや日本政府も動き始めたので大人しくなっていますね。アメリカの2人もいますし、当面の動きはないと思われます」
とはいえ、レベル3の回復ポーションでどうなるかはわからないか……
「了解。そのまま続けてちょうだい。こっちはこっちで上手くやる」
「わかりました。家に帰られますか? 送っていきますけど」
「いらない。買い物をして帰るわ。じゃあね」
私は車から降りると、駅に向かい、電車で練馬に向かった。
そして、練馬駅に着いたため、電車を降り、駅から出ると、沖田さんと朝倉さんが住んでいるマンション前に行く。
私は沖田さんと朝倉さんの部屋を見上げ、透視を使った。
うーん、珍しく、沖田さんがエレノアさんになっている。
私的にラッキーではあるが、あの2人は何をしているんだろう?
2人でソファーに座り、近い距離でお互いの手や腕を触りあっている…………
え? もしかして、始まってる!?
あわわ…………ん? いや、沖田さん、エレノアさんなんだけど……?
どうなっているんだろう?
もしかして、朝倉さんも壊れたのかな?
…………よくわからないけど、とりあえず、見ておこう。
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