第4章

第096話 秘密を知る人間が増えてきたな……


「ただいまでーす!」


 俺がソファーでまったりしていると、カエデちゃんが帰ってきた。


「おかえりー。残業って言ってたし、もっと遅いのかと思ったわ」


 今は7時半だ。


「早く帰りたくて頑張りました! 明日はお休みです!」

「おー! 良かったねー! ご飯を用意するから一緒に食べようよ」

「はーい! あ、着替えてきます!」


 カエデちゃんがそう言って、リビングを出ていったため、俺はキッチンに行き、買っていた弁当をレンジで温める。

 俺が弁当を温め、ビールと共にテーブルに置くと、カエデちゃんがリビングに戻ってきた。


「あ、なんとビールまで用意してあるじゃないですか! 先輩、スパダリですねー」


 スパダリのハードルってめちゃくちゃ低いんだな。


 カエデちゃんがニコニコ顔で席に着いたので俺も座る。


「かんぱーい!」

「おつかれー」


 俺達は乾杯のビールを飲むと、弁当を食べ始めた。


「今日は疲れましたけど、良いこともありましたねー。レベル3の回復ポーションは絶対に高く売れますよー」

「だよねー。一気に稼ごうぜ。あ、そういえば、カエデちゃんって夜勤とかないの? 前はたまにあるって言ってたけど、一緒に住み始めてからはないよね?」


 俺は以前から気になっていたことを聞いてみる。


「あー、それですかー。私の夜勤って、要は鑑定が使える人がギルドに1人はいないといけないからなんですよ。でも、先輩が鑑定メガネをくれたからどうとでもなります。ですので、ほぼほぼ夜勤はなくなりましたね。元々、女性の夜勤は危ないので避けますし」


 鑑定メガネを共有してんのか……

 他のギルドに売ろうかな?


「夜勤って危ないの?」

「夜勤は数人ですからね。たまーに酔った冒険者とかが来るんです」


 そら、危ないわ。

 ウチのカエデちゃんが危ない。


「確かに女性は危険だな……鑑定メガネをサツキさんにあげて良かったわ」

「ですねー。ところで、なんでそんなことを聞いてきたんです?」

「いや、気になっただけ」


 ホント、ホント。


「ふーん……私がいない方がいいとか思ってません?」

「思うわけないじゃん。一緒がいいよ」

「…………じゃあ、聞きますけど、玄関にある見たことのない女性物の靴は何です?」


 カエデちゃんが笑顔を止め、箸を置いた。


「その件ね。怒らないで聞いてくれる?」

「…………内容によります」


 浮気じゃないのになー。


「実はね、夕方にヨシノさんが訪ねてきたんだよ」

「ヨシノさん? え? 家に来たんですか!?」


 カエデちゃんが驚く。


「俺も急に来たからびっくりした。それで大事な話があるって言われたから家にあげたんだよ」

「大事な話…………まさか……」


 カエデちゃんも察したらしい。


「そうそう。来ていきなり、お前はエレノア・オーシャンだろうって言われちゃったよ。多分、バレてると思う」


 びっくりした。


「えー……本当にいきなりですねー。しかも、わざわざ家に来るなんて…………え? 多分って? 思うって? ヨシノさんは?」

「俺一人じゃ対応できそうにないから黙らせた」

「だ、黙らせた!? 何をしたんです!?」


 カエデちゃんが身を乗り出してきた。


「これはマズいって思ったからコーヒーに隠し味として、エレノアさん特製の眠り薬を入れた」


 コーヒーを飲んだら一口で倒れたね。

 ホント、すごい効果だわ。


「何してんですか!? 最低じゃないですか!?」


 カエデちゃんが怒る。


「しゃーないじゃん。先にアポなし突撃をしてきたのは向こうだよ?」


 ゆるせん!

 あの巨乳、カエデちゃんの留守を狙ってきやがった。

 俺一人ならぼろを出すとでも思ったか?


「卑劣さでいけば、眠り薬の方が…………いや、まあ、それはいいです。それで、その眠らせたヨシノさんはどこにいるんです?」

「俺の部屋で寝かしている」

「先輩の部屋ですか…………」


 言っておくけど、おっぱいは触っていない。

 そんなことを考える余裕はなかった。


「寒いしねー。風邪を引かせると悪いからベッドで寝かしてる。お前の部屋は鍵がかかってたし」

「ハァ……あれって効果時間は6時間でしたっけ?」


 眠り薬は何回か夜とかに飲んだことがあるが、ぴったし6時間で目が覚めるのだ。


「そうそう。だから起きるのは10時過ぎかな? それまでにどうするかを決めないと」

「先に言ってくださいよ。ビールを飲んじゃったじゃないですか」


 だって、カエデちゃんが怒ると思ったし。

 ちょっと機嫌を良くしようと企んだのだ。


「まあ、このくらいは飲んだうちに入らないって」

「ハァ……先輩、ご飯食べたらサツキさんを呼びますね」

「従姉だし、それがいいだろうね」


 サツキさんに説得もとい、金で買収してもらうしかないだろう。


「じゃあ、食べましょう。せっかく先輩が用意してくれたご飯ですし」


 カエデちゃんはそう言って、箸を取り、食事を再開した。


「買ってきて温めただけだけどね」

「それは料理ですね」


 そうかな?

 器に移してすらないんだけど…………




 ◆◇◆




 カエデちゃんはご飯を食べ終えると、サツキさんに電話をするということで自室に戻っていった。

 俺もその間にナナポンに電話をすることにし、ソファーに座ると、スマホを手に取る。


「もしもし? ナナカさん?」


 めんどくさいが、ナナポンがうるさいのでエレノアさんにチェンジしている。


『もしもしー? エレノアさんですか? こんな時間に何の用です?』

「遅くにごめんなさいね。あなた、今、何してるの?」

『家ですよー。エレノアさんにもらったポーションを整理しているところです』


 友達の家に遊びに行くって言っていたが、もう帰っているらしい。


「いきなりだけど、今日、ヨシノさんと会ったって言ってたわよね?」

『ヨシノさんですか? そうですね。ミレイユ街道の帰りに会ったのとギルドに行く時に会いましたね』

「行きの方はこの前の誘拐事件の事情聴取だったわよね? それだけ?」

『ですねー。あとはギルマスさんの話です。まあ、長々と話してたわけではないですよ。エレノアさんを待たせていましたし、ほんの数分です』


 ん-? バレた原因はナナポンじゃないっぽいなー。


「冷静に聞いてちょうだい。夕方にヨシノさんが私の家に訪ねて来たわ」

『ん? エレノアさんの? というか、沖田さんのお家ですよね?』

「そうそう」

『…………浮気?』


 なんでやねん。


「浮気じゃないわよ」

『付き合ってませんもんね』


 そういう意味じゃない!


「沖田君はカエデちゃん一筋だから大丈夫」

『そのかっこいいセリフを私じゃなくて本人に言ってくださいよー』


 うるさいガキだな。

 19歳のくせに。


「そんなことはどうでもいいの。それよりも家に来たヨシノさんが沖田君にお前がエレノア・オーシャンだろうって言われたのよ」

『え? なんで?』

「知らない。だからあなたに今日のヨシノさんが変じゃなかったか聞いてるの」

『あー、なるほど。うーん、でも、そんなに変なことはなかったような…………あ、でも、なんでミレイユ街道にいたんですかね?』


 そういや、そうだな。

 待ち合わせって言ってたけど、夕方だったし、冒険に行くような時間ではないと思う。

 夜の遠征?

 でも、それにしては早い。

 ただでさえ、遅い出勤に定評のあるヨシノさんが早めに来るだろうか?


「うーん、変な会話はしてないわよね?」

『別に…………あ、でも、やたらジロジロ見てませんでしたか?』


 見られてたな…………

 頭からつま先までガン見だった。

 正直、感じが悪かったが、いつも沖田君がヨシノさんを見ている手前、そんなことは言えなかった。


「その辺かしらねー? まあ、いいわ。何かあったら連絡するからあなたは家で待機」

『ん? 話は終わったんじゃないんです?』


 まあ、夕方に訪ねてきて、今はもう夜だもんね。


「ちょっと眠らせたから」

『えー……』


 ナナポンが電話越しに引いているのがわかる。


「私一人では対応できないし」

『あのー、もし、ブラフというか、ハッタリだった場合、その行動は自白してません?』


 …………………………。


「おやすみなさい。いい夢を」

『いや、エレノ――』


 俺はナナポンを無視し、電話を切った。


「ったく、あのガキは…………」


 そんなことを言われたら俺がバカみたいじゃないか。


「ナナカちゃんは何て言ってました?」


 俺がスマホを切ると、いつのまにかリビングに戻ってきたカエデちゃんが聞いてくる。


「よくわからないってさ」


 確か、そう言ってた。


「ですかー……あ、これからサツキさんが来られるそうです」

「何て言ってた?」

「お前らの愛の巣に行くの? うえー、だそうです」


 そこはどうでもいいだろ!


「このままエレノアさんの姿で待つわ」


 沖田君だと、めちゃくちゃ言われそうだし。


「まあ、ヨシノならどうとでもなるって言ってましたね。なんとか説得するそうです」


 前にも言ってたけど、大丈夫かねー?


「そっか。とりあえずは待とう」

「そうですね」


 カエデちゃんは同意すると、隣に座ってくる。


「どうなるかねー?」

「さあ? レベル3の回復ポーションで黙ってくれませんかね?」


 最悪はそれでいくか……


 俺達がこのままソファーに座りながら待っていると、サツキさんが家にやってきた。

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