第097話 なお、翌日、カエデちゃんに布団を洗われた


 サツキさんが家にやってきたので、俺達はサツキさんを家に招き入れる。


「ふーん、いい部屋に住んでるんだな……」


 リビングにやってきたサツキさんは部屋を見渡しながらつぶやく。


「お金はあるからねー。2人だとこのくらいでしょ」

「まあ、そんなもんかもな……」


 サツキさんはキッチンにまで行く。


「あのー、あまり探索しないでくれません? 今、コーヒーを淹れますんで座っててください」


 キッチンでお客さんに出すお茶を用意しようとしているカエデちゃんがさすがに苦言を呈した。


「ビールでいいぞ」

「…………座っててください」


 カエデちゃんが呆れ切ってそう言うと、サツキさんがテーブルまで戻り、座った。


「ビール、飲むの?」


 俺はサツキさんの対面に座りながら聞く。


「いい時間だしなー。そんなことより、お前はなんでエレノアなんだ?」

「さっきまでナナカさんと電話してたから。あの子、沖田君が電話すると怒るの」


 チェンジ!

 いつもこれを言う。


「めんどくさいヤツだな…………」

「もう慣れたわ。元々、ちょっと変な子だしね」

「まあな」


 サツキさんが頷いていると、カエデちゃんがビール缶を3つほど持ってきた。


「カエデちゃんも飲むの?」

「どうせ先輩も飲むんでしょ? じゃあ、私も飲みます」


 カエデちゃんが俺の隣に座りながら答える。


「ケッ! 私、カエデのその私はわかってます的なのが嫌いだな」


 もう輩だな、こいつ……


「めんどくさいんでさっさと飲んでくださいよ」


 カエデちゃんは本当にめんどくさそうだ。


「あんなにかわいかったカエデが最近、やたらと辛辣なんだよなー。男に影響されたのかね?」

「絶対にあなたのせいでしょ。うざいわよ」


 ひがみややっかみがすごい。


「あーあ、歳は取りたくないなー……」


 サツキさんはそう言いながらビール缶のプルタブを開け、ビールを飲みだした。

 俺とカエデちゃんもビールを飲みだす。


「それでヨシノさんのことなんだけど……」


 俺は飲み始めたところで本題を切り出す。


「いきなり家に来て、沖田君がエレノアであると言ってきたんだったな?」

「そうそう。アポなし」

「ふーん、大胆だな」


 サツキさんがふむふむと頷いた。


「これって、ギルド本部にバレたってこと? ヨシノさんって、ギルド本部の人でしょ?」

「いや、その可能性は低いな。本部長は慎重な性格だし、エレノアとの関係修復を考えているからいきなり接触はしないだろう。間違いなく、ヨシノの独断専行だな」


 確かに黄金の魔女を刺激するようなことはしないか。

 一応、ゲートを閉じるぞって脅してあるし。


「ヨシノさんはなんでこんなことを?」

「多分、エレノアというより、お前を疑ったんだな。一緒に冒険して思うところがあったんだろうよ」

「沖田君もそんなにミスはしてないと思うんだけどね。やっぱり組むのはやめた方がよかったかしら?」


 やはり危険だったか。


「あいつは勘がいいからなー。まあ、気にするな。私はバレてもいいと思っていたし」

「金で買収できるから?」

「そうだな。それにあいつをこっちにつければ本部情報すら手に入る。好都合だ」


 この人、最初からそのつもりで俺にヨシノさんを勧めたな……


「そう簡単に裏切るかしら? 確かに金に汚い人だけど、基本的には真面目でいい人だと思うけどなー」


 まあ、従姉を捨てて、別のギルドに移籍したけども……


「別に裏切るわけではないし、本部長に弓を引かせるようなことをするわけでもない。ただ、本部長は各ギルドの情報や政府連中の情報をいち早く掴めるからな。それをヨシノに流してほしいだけだ。最悪は本部長に適当に回復ポーションとかを流してやれ。それにオークションの儲けの5パーセントは本部に行くんだ。本部長だって文句は言わん」


 汚い大人だな……


「ヨシノさんは私と沖田君のこと、それに錬金術のことを黙っててくれると思う?」

「それは金だな。あいつが起きたら交渉しろ。どうせ欲しいのはポーションかアイテム袋だろう」

「アイテム袋はすでに売ったわ。となるとポーションで交渉かな?」

「直接、金かもしれんが、まあ、そんなところだろう。パーティーメンバーが多いあいつにとっては回復ポーションはいくらあってもいいからな」


 20人以上いるって言ってたしな。


「サツキさん、交渉をお願いしてもいい? あなたがやった方がスムーズに行きそう」

「まあ、私も立ち会ってやるが、交渉自体はお前がやれ。一応、臨時とはいえ、パーティーを組んだんだし、信用しろ」


 銭ゲバをを信用しろって言われてもねー。

 まあ、こいつもだけど。


「うーん……」

「だったら殺すか? 一番簡単な口封じだ」

「えー……嫌だわー」


 というか、すぐに捕まるだろ。

 それにヨシノさんを斬りたくないわ。

 あんなに大きいのに……


「じゃあ、買収しかない」

「まあ、そうねー……それでやってみましょう」

「そうしろ…………そろそろか?」


 サツキさんがそう言って、壁に掛けてある時計を見る。

 時刻は10時であり、そろそろ眠り薬が切れる時間だ。


「そうね。じゃあ、私の部屋に行ってみましょう」


 俺はビールを飲み干すと、立ち上がった。

 俺が立ち上がると、カエデちゃんとサツキさんも立ち上がる。

 そして、俺達はリビングを出ると、俺の部屋に向かった。


 3人で俺の部屋に入ると、ベッドの上であおむけでスヤスヤと眠るヨシノさんが見える。

 正直、俺の部屋のベッドでヨシノさんが寝ている光景は少しだけ、ドキドキする。


「服は…………着てるし、乱れた形跡もないな」


 サツキさんが掛け布団をめくり、ヨシノさんの服を確認する。


「沖田君を何だと思ってるの? そんなことをするわけないでしょ」


 性犯罪者じゃねーよ。


「いや、いきなり眠り薬を選択するようなヤツだしなー……」


 こらこら、人聞きの悪いことを言うんじゃない。

 カエデちゃんが庇おうとしているけど、庇えない微妙な顔をしているだろ。


「私一人では対応できそうにないから時間稼ぎよ。あなたがいるといないとでは大違いだし」


 ヨシノさんとサツキさんは従姉妹であり、身内だ。

 しかも、ヨシノさんはサツキさんを相当、慕っている。

 この人がいれば、交渉もスムーズだろうと踏んだのだ。


「まあ、カエデもいるし、変なことはしないか」

「というか、カエデちゃんがここに住んでなかったらヨシノさんも来ないでしょ」


 ヨシノさんも1人暮らしの男の家には来ないだろう。

 ましてや、自分の胸をガン見してくる男の家。


「う、うん……?」


 俺とサツキさんが話していると、ヨシノさんの目が開いた。


「よう、ヨシノ、おはよう」


 目を覚ましたヨシノさんにサツキさんが声をかける。


「サツキ姉さん……? え? ここは!?」


 ヨシノさんが慌てて身を起こした。


「沖田君とカエデの愛の巣。覚えてないか?」


 どうでもいいけど、愛の巣はやめろ。


「そうだ……私は沖田君を訪ねて……あれ? 私はなんで寝ているんだ?」

「お前は沖田君に一服盛られた。男の家に来て、安易に飲み物を飲んだらダメだぞ。ましてや、相手は魔女なんだから」


 食べちゃうぞー。

 いや、性的な意味ではないよ?


「あのコーヒー……そういえば、そこから記憶がない」

「とにかく、起きろ。リビングに行くぞ」

「あ、そうだね……」


 ヨシノさんはまだ混乱しているようだが、ベッドから起きると、シーツを手で払い、掛け布団を畳んだ。


「ここってカエデの部屋?」

「女の部屋に見えるか? 沖田君の部屋だ。カエデの部屋は鍵がかかって入れなかったんだと」


 ヨシノさんの質問にサツキさんが答える。


「いっつもかかってるらしいわよ?」


 たまには鍵を閉め忘れればいいのに。


「いい加減、諦めてくださいよ」


 やだ!


「えーっと、沖田君とカエデってってどういう関係なの?」


 ヨシノさんが首を傾げながら聞いてくる。


「夫婦らしいわ」

「先輩、後輩ですね」


 俺とカエデちゃんが同時に答えた。


「…………よくわからないけど、頑張れ、沖田君」


 ヨシノさんはいい人だなー。


「ケッ!」


 サツキさんは小っちゃいわ……


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