第034話 翻訳ポーションは砂糖水だぞ


 俺達は家を出ると、不動産屋に向かった。

 そして、色々と部屋を紹介してもらったのだが、これという部屋がなく、決まらなかった。

 不動産屋の店員は丁寧な人で後日来る時までに探しておきますと言われたので、また来ることにし、この日はカエデちゃんとその場で別れ、家に帰った。


 翌日、俺はエレノアさんの姿になると、透明化ポーションを飲み、家を出た。

 そして、誰もいないところで透明化を解くと、近くでタクシーに乗り、池袋支部へと向かう。


 タクシーに乗り、しばらくすると、池袋のギルドが見えてきたのだが、ギルドの前には大勢のマスコミが待っていた。


「お客さん、エレノア・オーシャンさんですよね? どうします?」


 タクシーの運ちゃんは俺に気付いていたようだ。

 まあ、そりゃそうだろう。


「あなたに迷惑をかけるわけにはいきません。ここで降ろしてください」


 多分、あそこまで行ったらタクシーが囲まれる。

 迷惑だろう。


「わかりました。帰りは先にタクシーを呼んでおいた方がいいですよ」

「そうします」


 私はギルドから50メートル手前で止めてもらうと、お金を払い、タクシーを降りた。

 すると、すぐにマスコミが俺に気付き、走ってくる。


「エレノアさん、ちょっとよろしいですか!?」

「昨日の言葉は何語だったんでしょうか!?」

「1000キロのアイテム袋をオークションに出したのは本当でしょうか!?」


 うっぜ。


 俺はすべての質問を無視し、ギルドの前までなんとか歩く。

 そして、ギルドの扉の前まで来ると、クルッと振り向いた。


「質問は1人1つまでですね。では、順番にどうぞ」


 俺がそう言うと、マスコミ連中は顔を見合わせた。

 そして、1人の記者が手を挙げる。


「はい、どうぞ」


 俺はその人を指名した。


「1000キロのアイテム袋をオークションに出したと聞きました。どんなモンスターからドロップしたのでしょうか?」

「スライムです」

「え? 本当ですか?」

「本当です。はい、次」


 俺が質問してきた記者から目線を切ると、別の記者が手を挙げた。


「どうぞ」

「昨日の言葉は何だったんでしょうか? すべての国の人が理解できると聞きました」

「それについては今はお答えできません。ギルドを通して後日ですね。私も冒険者なのでルールを守らないといけません」

「一部ではフロンティア人ではという声もありますが?」


 同じ記者が聞いてくる。


「質問は1人1つです。私も仕事があるんです」

「あ、じゃあ、私の質問がそれでいいです」


 別の記者が手を挙げた。


「フロンティア人ではありません。っていうか、本当にフロンティア人っているんですか? 私も皆さんと同じことを習ったと思いますが、会ったこともないです。以上。次」


 俺はその後も簡潔に質問に答えていく。

 すると、最後の人が手を挙げた。

 この人は例の美人アナウンサーだ。


「はい、どうぞ」

「先日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそありがとうございました。初めてのテレビで緊張していたところを助けてもらい、感謝します」


 本当にありがとう。


「質問です。あなたはアイテム袋を作れますか?」


 ほう……


「ふふっ。面白いことを言うわね。そんなことができる人がいたら会ってみたいわ。答えはいいえです。私はアイテム袋をスライムからドロップしました。以上です。では、仕事に行きます。なお、明日から当分、私は休みます。ごきげんよう」


 私は手を挙げ、別れを告げると、扉を開け、ギルドに入った。


 ああは言ったけど、多分、明日も群がっているんだろうなー。

 多分、オークションが終わるまではずっとだろう。


 俺はため息をつくと、カエデちゃんのもとに行く。


「お勤め、ご苦労様です」


 カエデちゃんが頭を下げた。


「どうも……ねえ、ギルド職員に迷惑をかけてない? 質問攻めでしょ」

「大丈夫ですよ。ギルド職員は裏から出社しますし、裏口は立入禁止なので入れません。それにギルド職員への取材は一切禁止です。これは絶対です」


 ギルド職員は色々知っているからかな?


「皆さんに迷惑が掛かっていないならいいわ。ギルマスは?」

「こちらです」


 カエデちゃんはいつものように受付の端まで行き、俺を中に入れてくれた。

 そして、奥に行き、サツキさんの部屋に向かった。




 ◆◇◆




「いやー、大変そうだなー」


 ソファーの対面に座っているサツキさんが笑う。


「わかってはいたことだけど、面倒だわ」


 俺は隣に座っているカエデちゃんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら答えた。


「宣伝は良かったんだけどな。それにあの三村の慌てようはすっきりした」

「あの人、有名なの?」

「冒険者でもなければ、フロンティアに行ったこともないのに専門家を名乗るっていることで有名だ。あと、うざい。色々と勉強していることは評価するが、結局はフロンティアや冒険者を知らんから憶測で物を言う」


 うん、うざいね。


「ふーん……初めてでよくわからなかったから収録前、出演者に挨拶に行ったんだけど、別れ際にお尻を触られたわね。あとカットされているけど、めちゃくちゃ言われた。盗んだものだろうとか、偽物を売ったんだろうとか、挙句の果てにはバケモノって呼ばれたわ」


 逆に元冒険者の土屋とかいうのは丁寧だった。

 嫌な質問してくるのが嫌だったけど。


「最低だな。抗議しておこう」

「おねがい」


 もし、今後もテレビに出るとしてもあれは嫌だな。

 共演NGにしておこう。


「それで? あの言葉は何だ? 私も聞いていない」


 この人には回復ポーションとアイテム袋、鑑定メガネ、透明化ポーション、そして、性転換ポーションを作れる事しか言っていない。


「翻訳ポーションっていうのがあるの。それを飲んでいたのよ」

「なんだそれ? 外国語がしゃべれるようになるのか?」

「そう思っていたけど、ちょっと違うみたいね。ネットを見ると、複数の言葉を理解できる人は日本語にも英語にも聞こえるって感じだった」


 気持ち悪いって書かれてた。

 ショック!


「よくわからんな。私は日本語しかしゃべれんし」

「私もよ。だから気付けなかった。とにかく、これは発表してちょうだい。売ってもいい。じゃないと、私がバケモノ扱いよ」


 黄金の魔女は本物の魔女だった、って言われてもね……

 勝手に魔女扱いしておいて、あとで本物かいってツッコまれても困るわ。


「翻訳ポーションねー…………持ってるか?」


 サツキさんが聞いてきたので、カバンの中から無色のペットフラスコを取り出し、サツキさんに渡す。

 すると、サツキさんがメガネを取り出し、装着すると、ペットフラスコを見だした。

 あのメガネは俺があげた鑑定メガネだろう。


「ふーむ…………まずなんだが、この素材は何だ? ペットボトルか?」

「作る際の入れ物で変わるの。コップだったらガラスのフラスコだし、ペットボトルを使ったらそのペットフラスコ。昨日、ビールの空き缶で作ったらアルミフラスコができたわ」

「ふーん……納品するやつはガラスで頼む」

「わかってるわよ」


 モンスターからドロップするのは全部ガラスでできたフラスコだ。

 一応、スライムからドロップしたことにしているので、売却用は100均のコップで作っている。


「確かに翻訳ポーションと出てるな……効果は24時間か……微妙だな」


 永続的ではなく、消耗品なので一度飲めばいいということではない。


「高く売れそうにないからやめたの。カエデちゃんがテストとかで悪用されることを考えると、売るまでには時間がかかるって言ってたし」

「確かにこれは審査に時間がかかるし、使用にも制限がかかる。民間には売れんな。多分、国の買取になる。そして、国の買取は安い」


 安いのか……

 まあ、税金だろうし、高くは買えないだろう。


「いくつか渡すからそれで発表してちょうだい。どうしてもって言うなら売るわ」

「わかった。本部長が大変だな。ざまあ」


 本部に丸投げするのね。


「私は何かする必要がある?」

「新規アイテムはどこで見つけたとかの書類を書くだけだ。適当にスライムって書いとけ。どうせ、お前のことを信じるヤツはいない」


 信用ゼロ!


「素直に作ったって言おうかしら?」

「やめとけ。そういう予想をしている者もいるだろうが、断言はするな。色んなところから依頼が殺到するぞ」


 下手すると、誘拐されそうだわ。


「怖いわー」

「お前、他に何を作れる?」

「今のところはそれくらいね。あー、眠り薬があるけど、売れない」

「薬は売れん。他にはないんだな?」

「あとは純水くらいね。ただレベルが上がればレシピは増える。だからレベル上げ中なのよ」


 レベルが上がって金を作りたいわ。

 錬金術なんだから作れるだろ。


「レベルが上がって作れるものが増えたら報告しろ」

「わかったわ」


 テレビではミスったし、この人を巻き込んだ方がいい。

 有能そうだもん。


「できたらレベルは早めに上げてくれ。売れるアイテムが増えるのは良いし、透明化ポーションみたいに身を守れるアイテムも増えるかもしれん」

「確かにそうね。じゃあ、明日は沖田君が冒険に行くわ。オークションの方は?」

「来週から入札開始で期間は1週間だ。あと、今回から外国も入札してくる」

「外国? ギルドのオークションって日本人じゃないとダメじゃないっけ?」


 そんなことをネットで見た気がする。


「1000キロのアイテム袋だからな。圧力に屈した」

「情けないわねー」


 弱腰だなー。

 強気に行けよ。


「値段が上がるから良いだろ」

「差別は良くないもんね。とても良いことだと思うわ」


 平等って素敵!


「そういうわけだから当分は大人しくしてろ。それとこれをやる」


 サツキさんがスマホを取り出した。


「スマホ? くれるの?」

「2台持つべきだろうし、沖田君の名義はマズい。私の名義で契約してきた」

「ふーん」

「あ、料金は渡したクレカから引き落としだからな」


 さすがに料金は俺持ちか。


「ありがと。カエデちゃん、連絡先を交換しよ!」

「いいですよー。連絡することはほぼないですけど」


 まあね。

 沖田君にすればいいもん。

 もっと言えば、一緒に住むもん。


 俺はカエデちゃんと連絡先を交換し終えると、スマホを確認をする。


「あ、サツキさんのも入ってるんだ」

「そらな。何かあったら連絡しろ。夜の9時までなら対応してやる」

「9時以降は?」

「動画サイトを見るのに忙しい」


 あっそ。

 自分でどうにかするわ。


「すごい! 女子の連絡先しかないじゃん!」


 ぷれいぼー……がーる!


「2人ですもんね。これから増えるかもですけど」

「別に増えなくていいわ。しかし、この番号が流出したら常時、鳴り続けそうね」

「でしょうね」


 やぱり安易に交換しない方がいいし、暇でもあまりこのスマホを出さない方が良さそうだ。


 俺はこの日はタクシーを呼んでもらい、さっさと帰ることにした。

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