第035話 ブラック


 ギルドでサツキさんに翻訳ポーションのことを説明した翌日、俺は朝からギルドにやってきていた。

 なお、今日もギルド前にはマスコミがたむろしていたが、俺はエレノアさんではないのでスルーされた。


 俺はカエデちゃんから刀とステータスカードを受け取ると、クーナー遺跡に向かう。

 ゲートをくぐり、クーナー遺跡に行くと、この前と同様にゲート前では多くの冒険者が待機していた。


 マスコミはまだわかるけど、こいつら、暇なんか?


 まあ、俺には関係ないことなので、冒険者達をスルーし、レベル上げを開始した。


 俺の現在のレベルは5である。

 このクーナー遺跡はレベル8までは普通に上がるらしいのでレベルが8になるまではここで頑張ろうかと思っている。

 とはいえ、さっきからスケルトンを狩りまくっているにレベルが中々、上がらない。


 今も同時にスケルトンが3体出てきて、瞬殺したのだが、レベルは上がっていなかった。


「ハァ……」


 俺はレベルが5のままのステータスカードを見て、思わず、ため息をついた。


「あのー……」


 後ろから声が聞こえた。


 だが、以前の三枝さんのように警戒はしない。

 何故ならスケルトンと戦っている時からこちらの様子を窺っていることには気づいていたし、雰囲気が雑魚そうだからだ。


 俺はステータスカードをしまい、普通に振り向く。


 そこにいたのはカエデちゃんより背が低く、身長150センチくらいの黒髪の女の子だった。


 女の子は黒のパンツに白いTシャツでシャツの上に赤いカーディガンを羽織っていた。

 そして、背中にはかわいらしい白いうさぎのリュックを背負っており、手には杖を持っている。


 女の子の髪の長さは肩から鎖骨くらいまでのミディアムヘアでカエデちゃんよりちょっと短い。

 顔もかわいらしいとは思うが、カエデちゃんよりちょっと劣る。

 結論、カエデちゃんはかわいい。


「何?」


 冒険者は冒険中にはあまり他の冒険者には声をかけない。

 ましてや、この子はかなり若く見える。

 高校生か大学生程度だろう。

 そんな若くてかわいい子が26歳の俺に声をかけるなんておかしい。


 いや…………

 この前も巨乳に声をかけられた。

 もしかしたら俺はあの伝説のモテ期が来ているのかもしれない。


「…………あの、沖田さんですか?」


 ん?

 俺を知っている?

 いや、だったら沖田さんですかという質問はおかしい。

 ってか、声小さいな………


「そうだけど、誰? 知り合いだったらごめん」

「…………あ、いえ。私が知っているだけです。エレノア・オーシャンさんですよね?」


 ………………え?


 俺は右手を少し開き、いつでも剣を抜ける体勢を取る。


「エレノア・オーシャンは俺も知ってるけど、性別が違うよ?」

「あ、あの、その…………あ、私、こういう者です」


 女の子は慌てて、うさぎのリュックから何かのカードを取り出し、俺に見せてくる。




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名前 横川ナナカ

レベル8

ジョブ 魔法使い

スキル

 ≪火魔法lv2≫

☆≪透視lv1≫

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 あ、例のカンニング少女だ。


「あー、もしかして、サツキさんに聞いた?」

「…………はい」


 え?

 あの女、べらべらしゃべったん?


「エレノア・オーシャンのことも?」

「…………あ、いえ、それは違います。沖田さんと組むように命令されたんですけど、男の人と組むのが怖いので、どんな人だろうと思ってあとをつけたんです」


 ツッコミどころが多いな、おい。


「えーっと、ごめん。一から説明して。俺と組むっていうのは?」

「あー…………あのー、ギルマスさんにそう言われました」


 横川さんは手をもじもじさせながら言いにくそうに言う。

 透視を言いたくないのだろう。


「透視のことで脅されたんだろ。知ってるから全部言え」

「え!? なんでそれを!?」


 あの女、こういうことをするなら嘘でもいいから適当に説明しておけよ。

 俺が困るじゃん。


 しかし、どうしよう?

 俺のことも説明するか?

 多分、こいつ、透視を使って俺がエレノア・オーシャンなことを知ったんだろうな……

 巻き込むしかない。


 俺は周囲を観察し、誰もいないことを確認すると、カバンからステータスカードを出して、横川さんに見せる。

 

「ほら」

「えーっと……え? 錬金術!?」


 ステータスカードを見ていた横川さんは驚いたように顔を上げる。


「この星マークがあるのは特別なスキルだ。お前も持ってるだろ。そして、お前も知っているだろうが、他人には見えない。でも、同じレアスキルを持っている者には見える。俺やサツキさんがお前の透視を知ったのは俺が見たからだ」

「あ、だからか…………え? 私のステータスカードを見たんですか?」

「俺は真面目だからレアスキルを報告した。その際に他にも持っている者がいないか確認するように頼まれたんだよ。そしたらお前がいた」

「…………チッ、余計なことを」


 横川さんが一瞬、黒くなった。


「俺もバレたんだ。お前もバレろ」

「あ、やっぱり真面目だから報告したんじゃないんだ」

「当たり前だろ。誰がするか」

「ですよね! …………いや、巻き込むなや」


 またもや横川さんが一瞬、黒くなった。


「それで? お前はサツキさんに脅されたんだな?」

「…………はい。このことは親にも大学にも黙っておいてやるし、上にも報告しないって言われました。その代わり…………わかるよね? ですって」


 エロ本みたいだ。

 サツキさんが変態男じゃなくてよかったな。

 お前みたいなオドオドしているヤツは格好の餌食だろ。


「それで俺と組めと? 俺、何も聞いてないけど?」

「…………組めというか、お手伝いをしろって言われました」

「何の?」

「Fランクの初心者だから教えてやれって」


 このガキに何を教えてもらうんだよ。


「俺、Eランクだから」


 ここに来る前にカエデちゃんにEにしてもらった。


「私はDです」


 ………………イラッ。

 ランクを上げた方がいいと言っていたカエデちゃんの言葉の意味がよくわかる。

 このガキの勝ち誇ったドヤ顔がマジでムカつく。


「いらね」

「…………そう言われましても、私も退学は嫌なんです。せっかく頑張って入ったのに」


 はいはい。

 頑張ってカンニングしたんだね。


「あとでサツキさんに話してみるわ。それで? 一応、聞く。なんで俺がエレノア・オーシャンだとわかった?」

「…………いきなり男の人と組めと言われて、どんな人だろうと思って、つけたんです。そして、透視を使って家の中の様子を覗いました」


 ストーカーレベルマックスやんけ。

 本当に透視を持っているのが女子で良かったわ。

 俺だったらずっと、カエデちゃんの家の前にいる自信がある。


「その透視ってどんな感じ? 服も透けるん?」

「やろうと思えばできます。も、もちろんやりませんけど」


 女子はせんわな。

 もちろん、俺はする。


「それで俺がエレノア・オーシャンだと?」

「…………はい。何かを飲んだら変わりました」

「ふーん…………お前、男になるか?」

「…………嫌です」


 皆、嫌がるな。

 俺は女になることに抵抗はないんだが……


「まあ、いいや。とりあえず、邪魔はすんなよー。俺はレベル上げの最中だから」

「じゃあ、見学してます。私はレベルが8なんで、ここでやることはもうないですから」


 いちいちマウントをとってくるな……

 そして、マウントをとる時だけは自信満々だ。

 たいして変わんねーのに。


「じゃあ、行くわ」


 俺はスケルトンを探しに歩き出す。


「あのー、あっちに3体いますよ」


 俺が歩き出すと、横川さんが建物に向かって指差した。

 もちろん、建物しか見えず、スケルトンは見えない。


「わかるの?」

「透視できますもん。あっちにもいますけど、近くに他の冒険者がいるんで多分、その人達に取られます」


 こいつ、すげー。

 というか、透視ってヤバいな。

 さすがはレアスキルだ。


「横川さん」

「なんでしょう?」

「君は今日から俺の仲間な」


 よろしく。


「えー…………」

「親にも大学にもバレたくないんだろ? だったら…………わかるよね?」

「…………クズめ!」


 横川さんがすげー蔑んだ目で俺を見てきた。


「甘い汁を吸わせてやるから」

「……え? 変態?」


 ………………こいつ、むっつりだな。


「エレノア・オーシャンは黄金の魔女だ。金を産み、俺達を幸せにしてくれる。わかるよね?」

「…………アイテム袋が欲しいです」


 ちょろい小娘よ。


「いいか、横川、世の中はな、ズルい者が勝つんだよ」

「…………身をもって知っています。受験勉強をしていたクラスメイト、テスト勉強をしている大学の友達…………ふっ」


 さすがは卑劣なカンニング女だ。

 必死に勉強している真面目な友人を笑いおった。


「ついてこい、横川! 黄金を見せてやる!」

「…………御意」


 ブラックナナカちゃんが仲間に加わった。

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