地獄の沙汰も黄金次第 ～会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します～

第018話 金がすごい！ これが錬金術！ ★

「さて、本題に入るが、君は今、何をどれほど納品できる？」

　本題の売却の話になると、早速、ギルマスさんが聞いてくる。

「レベル1の回復ポーションはいくらでも。アイテム袋は5キロ、10キロ、50キロ、100キロ、1000キロを2個ずつね」

「レベル1の回復ポーションを50個引き取ろう。ただ1個50万だ」

　50万か……

「この前は55万だったけど？」

「今の相場で考えたら5個までなら60万で買い取ってやる。ただ50個では50万だ。どっちがいい？」

　60万の方がいいけど、ほぼ無限に生産できるんだから多い方がいいな。

「じゃあ、50個で。100個はダメなの？」

「とりあえずは50個だ。それ以上は様子を見る」

「じゃあ、それで」

　2500万円だ。

　よし！　引っ越そう！

「それとアイテム袋なんだがな、これはオークションに回してはどうだろうか？」

「オークション？」

「ああ、ただ、その辺のオークションではなく、ウチのギルドのやつだ」

　そういえば、ニュースやらネットで見たことがあるな。

　過去最高額がーとか、あのアイテムが出品！　みたいな感じ。

　当然、庶民の俺には手が届く額にはならないし、縁のないものだった。

「そっちの方がいいの？」

「ああ、知っているかもしれないが、アイテム袋はキロ単位10万円が相場だ。だが、10キロ以上のアイテム袋はさらに希少だし、オークションの方が高くなると思う。10キロまではたいして変わらないだろうから手数料を考えれば、こっちで引き取った方がいいかもしれん。どうする？」

「手数料っていくら？」

「10パーセントだ。君には関係ないが、5パーセントが私……いや、ウチのギルドでもう5パーセントが本部だな」

　この人のギルド私物化は置いておくとしても、10パーセントかー。

　もし、1億円で売れたら1000万円も取られるわけね。

「カエデちゃんはどう思う？」

　アドバイザーに聞こう。

「オークションがいいと思います。手数料を差し引いても儲かります」

　そういうもんか……

「じゃあ、オークションでおねがい」

「わかった。5キロと10キロも出すか？」

「出してみて。それで安いようなら次回からは買い取ってもらうわ」

　物は試しだ。

「わかった。それと1000キロはちょっと待ってくれ。一度、100キロまでで様子を見たい」

「プロに任せるわ」

　100キロでも最低1000万円だろう。

　よし！　引っ越そう！

「では、帰りに出してくれ」

「了解。話は終わり？」

　帰っていい？

　お祝いのパーティーをするから。

　1人で……

「そうだな……君はこれからどうしていくつもりだ？」

「まずはレベル上げ。レベルが上がればレシピが増える。二日酔いで死んでなかったら明日にでも沖田君が来るわ」

「そうか。くれぐれもだが、冒険中にステータスカードを他人には見せないでくれ。同じレアスキル持ちがいるかもしれん」

「大丈夫よ。ステータスカードを見せるようなそんな素晴らしい友人なんかいないから」

　うっ……！

　言うんじゃなかった。

　カエデちゃーん。

「先輩…………ソロは気楽で良いもんですよ。パーティーになると、しがらみとかありますし、時間を合わせるのが大変ですから」

　カエデちゃんが慈愛の笑みで慰めてくれる。

　天使だわ。

　でも、確かにパーティーはめんどくさそうだ。

　学生やリーマンとは生活リズムが合わない。

　それに水代わりに回復ポーションを飲むという暴挙を見せられない。

「やっぱりソロね。回復ポーションがあるし、私には剣がある。遠距離攻撃がないのが不安だけど」

「そうだな……エレノア、この後、2階で武器を買え。刀は……できたらやめてほしいが、遠距離用の杖も買うといい」

　刀はさすがにマズいか。

　キャラじゃないから目立つし、見る人が見れば同じ流派だとわかってしまう。

「金もあるし、良いショートソードでも買うか。でも、杖って？　私、こんなんだけど、魔法は使えないわよ？」

　見た目魔法使いだけど、脳筋アタッカーだよ？

「マジックワンドという武器がある。これは魔法を使えなくても魔法を放てる」

　すげー！

　欲しい！

「それ、いくらよ？　絶対に高いでしょ？」

「ピンキリだな。安いのは100万で買えるが、威力はお察し。高いのは1億とかある。私も見たことがあるが、炎が噴き出したりするぞ。あれは火炎放射器だな」

「ポーションを売っても3000万もない。買えねーわよ」

　無理なのだわ。

「まあ、そうだろうな。そもそもウチのギルドには売ってない。欲しければ、それこそ他所のギルドのオークションで買え。ウチのだと1000万円のワンドが一番良いやつだな。エアハンマーを出せる」

　1000万なら買えるな。

「エアハンマーって？」

「圧縮した風で敵を吹き飛ばす。威力はある」

「それ、買おー」

　遠距離攻撃の手段は欲しいし、かっこいいからそれにしよ。

「わかった。では、お前にこれを渡しておく」

　ギルマスさんが何かのカードを渡してきた。

「何これ？　桜井サツキ？」

　ローマ字でそう書いてある。

「私のクレジットカードだ。お前はエレノア・オーシャン名義でカードを作れんだろうし、これを使え。以降の報酬もそれに振り込む」

　1億を現金で用意するのは大変だしな。

「ありがとう、サツキちゃん」

　俺はカードを受け取り、カバンから出した財布に入れる。

「サツキちゃん呼ばわりは置いておく。だが、その財布を考えろ。お前はエレノア・オーシャンと沖田ハジメを完全に切り離せ」

　どこでバレるかわからんし、財布も何もかも別の物を用意した方がいいか……

「わかったわ。面倒だけど、そうしましょう」

　帰りに買い物だな。

「よし！　以上だ。売るものを出せ」

　俺はそう言われたので、床に回復ポーションを出していく。

　50個もテーブルに乗らないのだ。

「…………すごいな。本当に50個もある」

　俺が回復ポーションを出し終えると、サツキちゃんが床に並べられた回復ポーションを見て、驚いたようにつぶやいた。

「アイテム袋はさすがにテーブルに置くわよ」

　俺はテーブルの上にあるステータスカードが入ったカゴを床に置くと、アイテム袋を並べていく。

「この部屋のお宝率がヤバいです」

「カエデ、横領はダメだぞ」

「しませんよ」

　俺はお前ら2人共、怪しいと思っている。

「こんなもんかな。はい、振り込んで。杖と剣を買いにいく」

　俺はクレジットカードをカエデちゃんに渡す。

「鑑定もありますし、ちょっと時間がかかります。先輩は2階に行って、先に武器を見ておいてくださいよ。3階に行けば、ローブも売ってますよ？」

　金もあるし、防具も見てくるか……

「じゃあ、そうするわ」

　俺はちょっとワクワクしながら部屋を出ると、武器と防具を見にいくことにした。

　◆◇◆

　エレノアさんの姿をした先輩は売る物を出すと、さっさと部屋から出ていった。

　早く武器や防具を見たいのだろう。

　こういうところは男(？)の子だ。

「しかし、すごいな……」

　ギルマスであるサツキさんが部屋中のポーションとテーブルの上にあるカバンを見て、つぶやいた。

「正直、私はまだ理解が出来ていません」

　先輩の家で話を聞いて、勝ち組だーって騒いだけど、帰って冷静になると、意味がわからなかった。

「私もだよ。錬金術か……恐ろしいスキルもあったもんだ。お前の先輩は大物だな。こんなスキルを持っていることもだが、普通に受け入れている」

「あ、明るい人ですから……」

　大学時代は最初、まったくしゃべらなかった。

　というか、無口な人だと思っていた。

　しゃべるようになったのは先輩が4年生になった時であり、飲み会でたまたま隣になったため、話をした。

　それからは普通にというか、めっちゃしゃべるようになったし、頻繁に連絡を取るようなった。

　ファーストコンタクトには時間がかかる人だが、しゃべるようになると、よくしゃべるし、明るい人だった。

　バカだけど！

「仲が良さそうでいいな。学生時代の友人で連絡が来る時なんて…………いやいい」

　結婚ね。

　わかる、わかる。

「うーん、先輩、大丈夫かなー？」

　バカだし、ぼろが出そうでめちゃくちゃ不安だ。

「大丈夫だろ。お前が言うほどバカではない」

　ウチのギルマスの目は節穴らしい。

「バカですよ。あの人、めっちゃぼろ出してましたし、その内、エレノアさんの姿でカエデちゃんとか言うんじゃないかと思ってました」

　あの人は本当にぼろを出す。

　特に酒を飲ませれば一発だ。

「大金に目がくらんで浮かれてたんだろ。私だってそうだった。冒険者になりたての時は特にそうなる。気が大きくなるしな」

　私はなってない……と思う。

　でも、先輩の前の職場を考えると、浮かれはあるかもしれない。

「ですかねー？」

「まあ、あと、お前が相手だったからだろ。随分と気を許しているように見えた」

　それはあるかもしれない。

　私しかしゃべる人がいないって言ってたし……

　病んでるし……

　うん、優しくしてあげよう！

「仲が良いですから！　愛される後輩ですから！」

　大学卒業したらまったく連絡が来なくなったけど！

「いいなー……まあいいか。それよりも仕事だ。とんでもないことになりそうだが、これはチャンスだ」

「頑張りましょう！」

「だな。というわけで、鑑定よろしく」

　サツキさんは私の肩をポンっと叩くと、スマホを出し、ソシャゲを始めた。

　私は再度、部屋中の回復ポーションとアイテム袋を見渡す。

「多いなー……」

　早く、仕事やめたい……