第019話 クーナー遺跡
話し合いを終えた俺は2階に行き、武器を見ていくと、武器はすぐに決まった。
勧められたエアハンマーとやらが出せる杖と100万円のショートソードにする。
しかし、防具の選定には時間がかかった。
エレノアさんの防具は売っている黒ローブが1つしかなかったので早く決まったが、沖田君の防具に悩んでいた。
動きが遅くなる鎧なんかを着る気はないが、軽量のどう見ても服にしか見えない物も売っていたので悩んでしまったのだ。
俺は長考のすえ、結局、服の中に着込むタイプのインナースーツに決めた。
当然、そのままでは変態なので、その上にジャージは着る。
つまり、見た目はこれまでとは変わらないわけだ。
俺は武器と防具を決めると、1階のロビーに下りる。
ロビーに下りると、カエデちゃんが受付に戻っていたので、寄ってみた。
「終わった?」
俺はちょっとお疲れそうなカエデちゃんに聞いてみる。
「ええ、多かったんで大変でした。振り込みも完了しているのでご確認ください。あ、これが明細です」
カエデちゃんが紙を渡してきたので確認する。
確かに2500万円と書かれていた。
「ありがとう」
「今日はどうされます? フロンティアに行かれますか?」
どうしようかな?
お金が入ったし、買い物もしなくちゃいけない。
とはいえ、レベルも上げたい。
「そうね。クーナー遺跡にでも行こうかな……」
クーナー遺跡はエデンの森と同じく、日本が借りているフロンティアのエリアの1つである。
古い石作りの建造物が立ち並ぶ廃墟の街並みであり、当然、モンスターも出る。
建物の中は倒壊の怖れもあり、危険なので入ってはダメだが、街並みを冒険することは出来る。
難易度的にはエデンの森よりはちょっと危険である程度だ。
「いいんじゃないですか? エレノアさんなら問題ないと思います」
カエデちゃんも勧めてくれるっぽい。
「じゃあ、上で武器とローブを買って行ってくるわ」
「ローブも買うんです?」
「ミステリアスな黒ローブがあったからね。通販で買った4980円よりそっちが良いでしょう」
見た目はフードがついているだけで、他はまったく一緒だけど、80万円もした。
金銭感覚が壊れそうだわ。
「まあ、そうですね…………どこで着替えるんです?」
「更衣室…………」
夢の女子更衣室…………
あ、カエデちゃんの顔が怖い。
「今はお客さんがいないからいいですけど…………先輩、先輩」
カエデちゃんが身を屈め、小声で呼んできた。
「…………なーに?」
俺も身を屈め、小声で話す。
カエデちゃんがすごく近い。
いい匂いがするし、キスできそう。
俺、女だけど……
「…………今日買った黒ローブはそのまま持って帰ってください」
「…………いいの?」
「…………防具は武器と違って、取り締まりが緩いんでバレません」
ホントはダメなんだね。
「…………じゃあ、そうする。武器はダメ?」
「…………武器は厳しいです。防具は厳重注意で済みますが、武器は即拘束です。あなたは捕まったらマズいでしょ。だって、エレノアさんは存在しない人なんで」
それもそうだ。
身分証明書もないし。
「…………わかった」
俺は頷くと、屈めるのをやめる。
「では、こちらがステータスカードになります。いってらっしゃいませー」
カエデちゃんがステータスカードを渡してくれ、笑顔で手を振ってくれた。
俺は2階と3階に行き、武器と防具を購入すると、女子更衣室に向かう。
なお、女子更衣室にドキドキするかと思ったが、誰もいないし、男子更衣室と何ら変わらなかったのでがっかりだ。
アイテム袋を持っている俺はロッカーを使う必要がないので備え付けられてた洗面所の鏡の前に立つと、着替え始める。
まず、沖田君用に買ったインナースーツは謎の技術で男女兼用だったので、それを着てみた。
「怪しい……」
最初は見た目がスパイみたいでかっこいいと思ったが、よく見たらやっぱり怪しいので、さっさとローブを着る。
そして、買ったばかりの杖を持って構えてみた。
「うん。ミステリアスだ」
ただの魔法使いに見えないこともないけど、ミステリアスだ。
まあ、フードが増えただけで、さっきとまったく変わらないけどね。
着替え終えた俺はカバンを肩にかけ、更衣室を出る。
そして、奥のゲートに行く前にカエデちゃんの所に寄り、『ミステリアス、ミステリアス!』って自慢したのだが、『怪しい魔女って言うんですよ』と返された。
まあ、そうとも言う。
俺は魔法を使ってみたくて、ルンルン気分でゲートに向かう。
そして、クーナー遺跡に行きたいと念じながらゲートをくぐった。
◆◇◆
ゲートをくぐった先は石でできた舗装と石でできた建物がある廃墟の町だった。
多分、ここはフロンティア人の古代の町だったのだが、いらなくなったので日本にくれたんだと思う。
俺は杖を左手に持ちながら廃墟の町の探索を始めた。
杖を左手に持つのはいつでも右手をカバンに突っ込み、剣を取り出せるようにするためである。
1000万円もする杖を持ち、見た目魔法使いな俺だが、メインウェポンは剣なのだ。
廃墟の町を歩いていると、何だか宝箱でもありそうな気もするが、当然、そんなことはない。
他の冒険者や自衛隊がすでに何度も探索しているし、そんな高価な物は落ちてない。
出てくるのはモンスターだけだ。
そう思っていたらいきなり目の前に剣を持った骸骨がリポップした。
スケルトンである。
フロンティアのモンスターは倒せばアイテムをドロップし、煙となる。
そして、一定時間が経つとリポップするのだ。
仕組みは知らない。
さて、剣を持ってるし、剣で相手をしたいが…………
まあ、まずはお試しだ。
俺はカタカタと音を立てながら近づいてくるスケルトンに杖の先を向け、集中する。
すると、ヒュンという風切り音が聞こえ、砂煙と共にスケルトンが吹き飛んだ。
そして、スケルトンはバラバラとなり、煙となって消えていく。
「すげー! こんなん食らったヤバいわ」
俺がいくら剣に自信を持っていようが、これを遠距離から食らったら終わる。
当たり前だが、冒険者同士は争ってはいけない。
フロンティアには自衛隊が巡回しているし、見つかったら厳罰になる。
だが、世の中には色んなヤツがいる。
一応、気を付けておかないといけない。
俺は今一度、気を引き締め、スケルトンのドロップ品を拾う。
「剣ね……」
多分、スケルトンが持っていたやつだろう。
俺の目利きでは質は悪く見える。
「剣をドロップされてもアイテム袋がないと嵩張るだけね。高く売れるなら別だけど」
このぼろっちい剣が高く売れるとは思えない。
良くて1万円だろう。
俺は剣をアイテム袋に収納すると、再び、歩き始める。
俺がそのまま歩いていると、前方から男2人組が歩いてくるのが見えた。
向こうも俺に気付いているが、特に足を止めるそぶりはない。
俺は足を止めず、いつでも剣を抜ける状態で歩く。
男2人はそんな俺をじろじろと見ていたが、すれ違う時に軽く頭を下げるだけで、そのまま歩いていった。
エデンの森では人をほとんど見なかったが、この遺跡は昼間からでも冒険者がいるな……
俺はその後もスケルトンを狩っていったが、やはり冒険者をチラホラと見かけた。
共通するのはソロがいないということだ。
やっぱり、皆、パーティーを組んでいるんだな。
まあ、当然か。
報酬は半分になるが、安全は2倍も3倍にもなる。
命は大事だ。
警戒度を上げ、そのまま探索を続けていると、今度はスケルトンが2体現れた。
1対2は非常に不利だが、スケルトンは動きが早くないうえ、強力なエアハンマーの前にはなすすべもなかった。
うーん、さすがに1000万円もするだけのことはあって、エアハンマーはこのレベルだと、オーバーキルだな。
俺はドロップ品を回収しながら今度からは剣を使おうと思った。
この程度なら遅れは取らないし、剣術のレベルを上げたいのだ。
俺はそこまで思って、自分のレベルがどうなっているのかが気になったため、カバンからステータスカードを取り出し、確認する。
「あ、上がってたわ」
やっぱり通知が欲しいなー。
いつのまにか上がってるし、感動が少ない。
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名前 エレノア・オーシャン
レベル4
ジョブ 剣士
スキル
≪剣術lv5≫
☆≪錬金術≫
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☆≪錬金術≫
素材を消費し、新たな物を作ることができる。
レシピはスキル保持者のレベルが上がれば増える。
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レベル4
回復ポーションlv1、性転換ポーション
眠り薬、純水
翻訳ポーション、アイテム袋
透明化ポーション
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透明化か…………
覗き……
いやー、俺のポーションって犯罪っぽいのばっかりだなー。
カエデちゃんの反応が怖いぜ。
「これは売れないわね」
材料は純水と水で効力は1時間。
1時間内でも、もう1回、透明化ポーションを飲めば、解除されるっぽい。
こんなもんが流通したら悪用しかされないな……
でも、まあ、これでトイレで着替える必要はなくなったわ。
透明になって家を出て、人がいない所で解除すればいい。
これは売る用ではなく、そういう個人で使うアイテムにしよう。
俺はそう納得し、もう1レベルくらい上がらないかなーと思いながら探索を再開した。
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