第017話 レアスキル


「一応、確認しておこう。君達は付き合っているのかね? 沖田ハジメ君」


 うーん、バレてーら。


「私が沖田ハジメ? どうしてそう思うの?」

「カエデはやたら君を庇っていた。最近で彼女の仲が良い人間は大学時代の先輩である沖田ハジメ君だ。そして、君と沖田ハジメ君はステータスカードのレベルもスキルも一致する。剣術レベル5とかいうふざけたスキルレベルもだ。元Aランクの私が8年も冒険者をやって、ようやくたどり着いた領域だぞ。それを持つルーキーが2人もいてたまるか。もっと言えば、昨日、沖田ハジメ君が逃げるように渋谷支部に移籍申請した。わかるだろ」


 うん、わかる!

 怪しい!


「ふふっ、なるほどね。でも、8年でレベル5ならいいじゃない。私は物覚えがついた時から剣を振ってたのよ? それでも5止まり。まあ、ブランクが8年もあるけど」

「覚えておくといい、ルーキー。フロンティアとこっちではスキルの習得の難易度が段違いだ。当然、フロンティアの方が早い」


 フロンティアで修行すればよかったわ。


「そうなの? ふーん、フロンティアで勉強したり、練習すればいいわね」

「危ないがな」


 まあ、モンスターがいるか。


「ふふふ」

「君は沖田ハジメ君だね?」

「どうかしら?」


 カエデちゃーん、早く帰ってきてー。

 バラしていいのかわかんないよー。


「カエデが気になるか?」


 ダメだ、こりゃ。


「私のせいではないわね。カエデちゃんのせい。そう、カエデちゃんのせい」

「やはりか…………言葉使いを直さないのか?」

「ぼろが出そうだから当分はこの感じでいくわ。ミステリアース!」

「…………そうした方がいいな」


 ギルマスさんが視線を斜め下に向けた。


「で? 付き合っているのか?」

「個人情報ね」

「彼女は私の妹分だ」


 なんじゃ、そりゃ。


「付き合ってないわね」

「ふーん、将来は?」

「一生遊んで暮らせるお金が入ったら専業主婦になってほしい……かな?」


 総菜を買うだけの主婦。


「そうか……まあいい。私も早く彼氏を探そう。妹分に先を行かれたくない」


 そっちかい。

 妹分についた悪い虫の見極めかと思ったら自分のことかよ。


「失礼します」


 俺がギルマスさんの悲しい決意を聞いていると、カエデちゃんがカゴを持って部屋に戻ってきた。

 そして、カゴをテーブルに置く。


「沖田君、これを全部、確認してほしい」


 ギルマスさんがテーブルの上に置かれたカゴを俺の方に押した。


「エレノア・オーシャンと呼べ」

「…………先輩」


 カエデちゃんの目が冷たい。


「カエデ、これはお前のミスだ。冒険者の移籍には私の許可がいるんだぞ。当然、私は冒険者のランクやスキルを確認する。すぐにわかった」

「そうだ、そうだ。お前のせいだぞ」


 俺は悪くない。


「さっき、君が不安そうにカエデをチラチラと見ていることで確信した」

「先輩のせいですね。間違いないです」


 そうか?

 8対2の割合でお前だろ。


「まあ、そのことはいい。知っておかないといけないことだ。それより、確認してほしい」

「多いなー。しかも、個人情報だろ」

「ここには私達しかいない」


 バレなきゃ犯罪じゃないわけね。


「めんどくせ」

「口調はどうした?」


 あ、そうだった。


 俺は口調に気を付けながらも他人のステータスカードを確認することにした。


「どいつもこいつもレベルが低いわねー。レベル10越えがいないじゃない」


 俺はカゴに入っているステータスカードを一枚一枚、取り出して確認しているが、今のところ、高くても7止まりだ。

 スキルも多くて4つ。


「ここは不人気だからな。まあ、それも今だけだ」

「そうなの?」

「そうなる予定だ」


 ふーん、頑張って。


 俺はその後もステータスカードを確認していくが、本当に雑魚しかいない。

 まあ、それでも俺よりはレベルが高いのだが、たまに強いのがいる程度で、ほとんどがルーキーかルーキーに毛が生えた程度だ。


「ホントに不人気ねー。他所のギルドみたいに受付嬢を良くするとか、少しは努力したら?」


 俺はステータスカードを確認しながら提案する。


「そんな金はない。それにこれでも都内ということだけで勝ち組だよ。地方はもっとひどい」

「ねえ? 冒険者って少ないの? もっと多いイメージだけど」

「免許を持っている者は多い。学生でも取れるし、君がそうであったように審査が異様に緩いからな。でも、皆、辞めていく。実際に活動しているのは日本では1万人程度だな」


 モンスターか……

 世間は冒険者で盛り上がっているが、死傷者が出ていることも事実だし、豊かなこの国では普通、安全な職を選ぶわな。


「ふーん…………」


 俺は1つのステータスカードを見て、固まった。


「どうした?」

「先輩?」




----------------------

名前 横川ナナカ

レベル8

ジョブ 魔法使い

スキル

 ≪火魔法lv2≫

☆≪透視lv1≫

----------------------




 うーん、あったし。


「いた。この人」


 俺はギルマスさんにステータスカードを渡す。


「横川? ああ、あの子か」

「ナナカちゃんですね」


 2人は知っているようだ。


「知ってるの?」


 一応、聞いてみる。


「有望だったからな。冒険者になったのが高校3年生の時だが、数ヶ月でここまでになった」

「でも、大学に行ったら来なくなりましたね」


 まあ、大学生活は楽しいしな。


「高校卒業前までは来てたの?」

「ええ、ですね」


 ふーん。


「この子、受験勉強してなかったでしょ」

「そうなんですよね。土日はいつもここに来てましたし……でも、結構、良い大学に受かったって言ってました」

「でしょうね」


 透視だもん。


「沖田君、横川のスキルは?」

「エレノア・オーシャン」

「……エレノア、横川のスキルは?」


 ギルマスさんはめんどくさそうに聞き直した。


「透視。カンニングしほうだいね」


 いいなー。

 というか、女子が持ってて良かったね。

 クソ! 俺も透視ポーションが欲しい!


「透視、か」

「それは報告しませんねー。ましてや、受験生じゃあ……」


 誰だって、しないだろう。


「このギルドではその子だけね。他にはいない」


 俺はすべてのステータスカードを確認すると、テーブルに置かれたカゴを前に押す。


「ギルマス、どうします?」

「うーん、この子、最近、来てないんだよな?」

「はい。環境が変わって来なくなるのはよくあることですね」


 勉強をしなくていい大学生活はマジで楽しいだろうな。


「横川は私の方で聞いてみる。弱みはこっちが握っているんだ。大人しく従うだろう」


 カンニングしてるだろうし、このアドバンテージを失いたくはないだろうしね。


「他所の支部では他にもいそうですね」

「上位ランカーは怪しいな。とはいえ、他所のギルドは確認できん」

「あの……先輩の移籍を止めた方が良くないですか?」

「…………お前もそう思うか?」


 2人が神妙な顔をして、話し合っている。


「なんで? 私にもわかるように説明してちょうだい」


 置いてけぼりは嫌!


「他所のギルドも今の私達と同じようにこうやって確認している可能性があるってことだ。その場合、沖田君の錬金術がバレる」


 なるほど……


「私もそう思います。今までこの……レアスキル? これが明るみに出てないのって、各支部が本部に報告せずに隠しているからじゃないですかね?」


 ありえるな。

 この時代にネットにも出てこないっていうことは誰かが口止めをしているんだろう。


「確かにそうね。私がこんなに早くバレたんだから他の人もバレるわよ」

「いえ、先輩は特殊です。バカですもん」

「カエデちゃん、これ、飲む?」


 俺はカバンから眠り薬を取り出す。


「だから眠らそうとすんな。おっぱい触ろうとすんな」


 いや、なんでおっぱいを触るって決めつけているんだろう?

 名誉棄損だと思う。

 でも、触るとは思うね。


「痴話喧嘩は後でしてくれ…………エレノア、悪いが、沖田君の移籍はなしだ」


 さようなら、元グラビアアイドルの受付嬢。

 悪いけど、俺にはカエデちゃんがいるんだ。


「ステータスカードの連動はどうするの?」

「ステータスカードの管理は私がすることになっている。年に1回、国からの監査が入るが、隠す」


 堂々と不正宣言だ。

 まあ、今さらだけど。


「私は渋谷でもここでもどっちでもいいからそれでいいわ」

「先輩、私の所に来てくださいね」

「はいはい」


 言われんでもお前の受付に行くわい。


「よし! エレノア、次の話がしたい。本題の商売の話だ」


 金だー!

 早く、買い取れ!

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