乱入者現る!

「へー、忠烈布さんと参平さんって同じギター教室に通ってるんだ」

 自己紹介が終わり、部屋に戻ったら数人の子がやって来た。ギターやベースに興味あるのかな。

「先生は違うんだけどね、練習は一緒にやってるよ」

 わたしの先生は調ちゃんだし。まあいいようにされる実験台扱いなんだけど。


「前から友達だったの?」

「ううん、まだ知り合って半月くらい。わたしが練習してたら美奈ちゃんが突撃してきたんだ」

「し、しずくさんつ」

 え? 本当のことじゃない。別に恥ずかしいことでもないっしょや。

「えー、意外。参平さんってもっと大人しいイメージだったんだけど」

 意外だよね。普段の美奈ちゃん知ってるから思うけど、よくあんな大胆なことできたね。


「それで持ってきてるのギターだよね? 見せてっ」

 ははは、よいとも。

 ケースを開けようとしたとき、茶山さんがすっごい横目でこっちを凝視しているのに気付いた。そしてさりげなく見えやすい位置へにじり寄っている。興味あるんだろうね。


 そして取り出したるはー、真っ赤なスタインバーガー!

「えーなんか思ってたギターと違う。でもなんかかっこいいね」

「美奈ちゃんはベースなんだけどお揃いんだよ」

「ほんとだ! 同じ形ー」

 でもわたしの本命はモズライトなんだよ。ふふふ……。


「ねえなんか弾いてみてよ」

 予想通り来たね。


「まだ習ったばかりで、ちゃんと弾けるの2曲しかないんだけど、いいかな?」

「いいよー聞かせて」

 まあ2曲っていってもワイプアウトを曲ですといって披露するのもアレだし、ここは無難にウォークドントランだろうね。


「なにしてるの?」

「指の運動だよ。まずこれをやらないと」

「へー、すごい器用に動くねー」

 人差し指から小指まで、6弦から1弦まで弾いたら逆に小指から人差し指で1弦から6弦までの往復。これを10秒でできるようにしろとかいう調ちゃんのジョークを真に受け頑張ってるんだ。

 ……ジョークだと思ってたんだけど、調子いいときは12秒くらいでできるようになったから、実はできるようになるのかもしれない。


 そしてアの音をチューナーで合わせ、5フレで音を整える。この隣の弦と音を合わせるのいいよね。なんかできる子みたいな感じする。


「じゃあ弾くよー」

「なんて曲ー?」

「ウォークドントランって曲だよ。直訳だと走るな歩けみたいな感じだけど、意味は急がば回れらしいよ」

 弾こうと思ったところで、ベースラインが聞こえた。びっくりして見ると、美奈ちゃんが合わせていた。


「しずくさんと弾けるように、これだけはできるようにしました」

 おおー嬉しいよ美奈ちゃん! セッションだ。

 ふんふーんふんっと。


 演奏していたら、急にドアがバーンと開いた。

 びっくりしてそっちを見ると、ちょっと気の強そうな雰囲気の子がこちらにやってきた。


「なんか面白いことしてんじゃん。混ぜろよ」

 えっ、なに? ヤンキー? ヤンキーなの? わたし、そっち系は苦手なんだよ……。

「ああわりぃ。あたしは朱屋朗しゅやろう踊子ようこ。6組のモンだ」

 ありゃ普通に名乗ってきた。口が悪いだけで性格は悪くない系の子だったか。

「わたしは忠烈布しずく。それで混ぜろって?」

「さっきのウォークドントランだろ? だったらあたし叩けるよ」

 おぉ! ひょっとしてドラムやってる子? しかもウォークドントラン知ってるとかちょっと嬉しい。


「若いのに珍しいね」

「ひとのこと言えんのかよ」

「あはは……」

「あたしのじいちゃんが現役のドラマーなんだよ。ま、年寄りばかりのバンドなんだけどな」

 おおー。おじいちゃん子は大歓迎だよ!


 そんなわけで、朱屋朗さんは適当に箱とか持ってきて叩きはじめた。よぉし、弾くぞ!



 ひと通り弾き終わったところで、朱屋朗さんがひとこと。

「しっかしあんたら、へったくそだな」

 ストレートに言われてしまった。


「うー、まあまだ始めて1か月だし」

「わ、私は半月……」

「あん? 1か月か。……まあ、だったらいいとこじゃね? ちゃんと練習しているのは伝わったわ」


「具体的にどこが駄目かなぁ」

「まずギター、自分勝手に弾くな。ベースはギターに合わせようとするな。いいか、バンドっつーのはベースとドラムがリズムを刻んでギターがそれに乗せんだよ。だからベースはもっと自信持ってリードしろ。てかドラムと目合わせろ」

 うーん、全く練習したことないんだよなぁ、他人と合わせるのって。

 でも重要なのはわかった。後で調ちゃんに話そう。


「つってもまだ始めて1カ月だろ? トチらねえで弾けるだけ上等だ。合わせる練習はそうだな、メトロノームを使うといいぞ」

 なんと、練習方法まで教えてくれた。この子、いい子だ。


「朱屋朗さんはどれくらいやってるの?」

「あー……なんだかんだで4年くらいか」

 結構やってるなぁ。小学生からかな。

「やっぱりおじいさんの影響で始めたの?」

「いいや。じいちゃんの知り合いのギタリストの孫っつーのがいてな、あたしと同じくらいの年なのにじいちゃんたちと一緒に演奏してんの見てさ、こんなちびっ子でもできるのかと思ったのがきっかけだな」

 おじいさんの知り合いのギタリストで、同じくらいの年の孫?

 うーん、まさかとは思うけど一応ね。


「そのギタリストの名前、わかる?」

「あん? 確か……あー……ひ? ひや?」

「火矢尻?」

「ああそうそう、火矢尻だ!」

 やっぱり!


「そのギタリスト、私の先生です……」

「マジか!?」

「そのお孫さん、わたしの先生だよ」

「……っかー、世間はせめえな!」

 朱屋朗さんはおでこを手のひらでペチンと叩きながら笑う。


「んであいつ元気してんのか?」

「元気だよ。なんならプロに引けを取らないレベルで弾けるようになってるよ」

「だろうな。まあ続けてんならいいんだ」

 朱屋朗さんは少し嬉しそうだ。

「仲良かったの?」

「いいや、話したこともねえよ。ただ、あたしのきっかけを作ったやつだからな、向こうにその気がなくてもこっちは意識してんだよ」


「へー、ライバルみたいな?」

「よせやい。あいつあの時点でかなり上手かったからな。まだ続けてるってこたぁまだまだ手が届かねえだろうよ」

 朱屋朗さんはなんていうか、気持ちのいい子だ。感情のまま話す子は今までもいたけど、嘘や強がり、虚勢を張らないで本当の自分を語れるひとはそういない。


 特に興味もない校外教育だったけど、調ちゃんに土産話ができた。

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