にゅーがくーしきー
毎日が楽しい。そんなこと思う日が来るとは思わなかった。
ギターいいね。みんなが夢中になるわけだ。
そんなこんなしていたら、あっという間に高校生だ。
真新しい制服に袖を通し──ジャンパースカートからブレザーに変わったけど、ジャケット着るとなんかお馴染み感があるなぁ。
でもうちの高校、夏服はセーラーなんだ。夏がちょっと楽しみ。
バス通学にしようかと思ってたけど、学校帰りに調ちゃんと練習する公園に寄りたいから、自転車通学。今日はまだ申請前だからバスだけどね。
あー、でもギター学校に持って行くの嫌だなぁ。予備の練習用ギター買って調ちゃんの家に置かせてもらえないかな。
そもそもあんな巨大な四角い箱……しかもストラップとかないから肩にかけたり背負ったりできなく、手持ちで移動するのがとてもしんどい。自転車で運ぶのはとても危険だ。
今も公園まで運ぶのに四苦八苦しているところだし、いい加減なんとかしないと。
こういうときは調ちゃんに聞こう。メッセ送っておけば気付いたら返事くれるよね。
バス混んでるなぁ。これで道も混んでたら始業式に遅れる。この状態でギターなんて運んだら迷惑この上ないね。
「あっ、しずくさん」
「おっと美奈ちゃん! 奇遇だね!」
奥に進んだら美奈ちゃんがいた。同じ学校、同じ新一年生。クラスも一緒だったらいいな。
「美奈ちゃんも自転車通学だったよね?」
「あっはい。それで、その……」
「じゃああとで一緒に申請書出しに行こうよ!」
「は、はいっ」
更にバスが混んできた。もうギュウギュウだ。そしてバスが出発する直前、飛び込んできた生徒がいた。背中に大きいギターケース……ギグバッグっていうのかな? それを背負っている。
「んー先輩かな?」
「今日は入学式だから、生徒会とか準備の先輩しかいないと思います」
「えっ、じゃあ同じ一年? 気合入ってんなぁ」
入学初日からギター背負ってくるとか目立ちまくりだ。わたしには真似できない。そして後から来たひとはギターが邪魔で乗れなかった。南無。
「うーん、あれがギグバッグかぁ」
「えっと、私もベース用の、買おうと思ってます」
「でもなんか、カブトムシみたいじゃない?」
わたしの一言に美奈ちゃんは苦い顔をした。虫嫌いなのかな。
「あの、しずくさんも四角いケースですよね。どうするんですか?」
「さっき調ちゃんに質問流したんだけど、ハードケースを背負えるハーネスみたいなのが売ってるらしいんだよ。そんなに高くないから、それを買おうかなって」
「へー……でも風の日とか大変そうですね」
確かにそれで自転車はちょっと怖いかも。だけどわたしのギターをソフトケースに入れたくないんだよなぁ。なんていうか、不安。
だけどわたしはああいういかにも『ギターやってます!』みたいなのは背負いたくない。
だって学校で「なにか弾いてみせて」とか絶対言われるし。弾けないよ!
そして断ったりしたら勝手に『弾けないのにギターやってるアピールしているひと(笑)』みたいなレッテルを貼られるんだ。それだけは絶対に嫌!
せめて5~6曲くらい弾けるようになってからかな。
「あっ、あの、これですよね?」
美奈ちゃんがハードケース背負えるやつを調べたみたいだ。どれどれ。
「……なんか、壁だね」
「そう……ですね」
思ってたのとなんか違う。すっごい壁背負ってる感がする。まるでぬりかべだ。これじゃ畳屋さんが畳背負って自転車乗るみたいな感じになってしまう。いや見たことないけど。
「でもわたしらのケース、ここまで幅ないからもうちょっとマシじゃない?」
「そ、そうですよね……」
帰ったらちょっと立ててみよう。それで壁感なければ買おう。うん。
そんな話をしていたら、学校の最寄のバス停に着いた。みんなぞろぞろと降りていく。そして美奈ちゃんは波に逆らえず、流されていってしまった。南無。
「まさか同じ教室とはねぇ」
「わ、私は嬉しいです」
美奈ちゃんと同じ組だった。わたしも嬉しいよ!
美奈ちゃんは少し内気な感じするから、フォローしたほうがいいかな?
だけどまさか、あのギターちゃんも一緒だとは……。しかも隣の席!
えっ、声かけたほうがいい? でもなんて? だけど窓の外じっと見てるし、放っておいたほうがいいよね。
色々考えていたところに先生が来たから終了。HRをして、入学式の移動。流石にギターは持っていかないみたいだ。
特にこれといった感もなく入学式は終わり、教室に戻って色々説明。そして解散だ。
あー、みんなさっさと教室から出ちゃうんだ。まあでもいきなり声とかかけづらいもんね。
ギターちゃんは……さっさと出ていくものだと思ったけど、まだ席で外を眺めてる。
見なかったことにしよう。
「じゃあ帰ろっか──」
「美奈っ」
突然美奈ちゃんが呼ばれて少し驚いた。大人……お父さんとお母さんかな? 待っていたみたいだ。
「お、お母さん……」
「折角だから記念写真を撮ろうと思って」
「い、いいよ! 恥ずかしいし」
「なに言ってんのよ。みんな撮ってるわよ」
見れば確かに校門前で写真を撮ってるひとがそこそこいる。
「で、でも……」
そういうのが恥ずかしい気持ちはわからないでもない。でもこういう記念を残したい親の気持ちもわかる。そうだ!
「じゃあさ、わたしと一緒に撮ろうよ!」
「えっ? あの」
お母さんのほうが驚いていた。
「初めまして。わたし、
「ああ、あなたがしずくちゃんね! いつも娘がお世話になって」
美奈ちゃん、わたしのこと家族に話してたんだ。
「今まで友だちの話とかしたことのなかった子が、急にあなたと、調ちゃん? でしたっけ。そのふたりの話を──」
「や、やめてよお母さん!」
必死に口止めさせようとする美奈ちゃん。かわいいな。
「じゃあまずわたしと美奈ちゃんで1枚、あとご両親と美奈ちゃんで1枚だね」
「お、お母さんたちはいいから」
「美奈ちゃん、今は入学したばかりだからどれが誰なんて誰も気にしてないんだよ。それより後になって撮っておけばよかったって後悔するほうが辛いんだから」
「しずくさん……」
美奈ちゃんはなにかを察してくれたみたいだ。
わたしだって祖父に、ギター始めたんだよ、同じ学校に入ったんだよって言って、褒めてもらいたかった。でもそれは叶わない。だから美奈ちゃんには後悔するような選択をして欲しくないんだ。
調ちゃん? 大丈夫でしょ。なにせわたしがなりたかった『おじいちゃんっ子』なんだから。
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